スープを飲ませよう
ギリギリアウトー!
……うぬぅ。
お盆時期は少しは書き溜められるかなー?
「王都の空に、あの貴族とのやり取りをリアルタイムで放映してみました。」
とドヤ顔のジェル。
おそらくはジェルの眼鏡を通して、王都に飛ばしたドローンか何かで画像を投影したんだろう。……ん? 王都?
はて? 王都にドローンなんか飛ばしてたっけ? そもそも、この町から出たことも無いのに、馬車でも五日くらいかかるっていうのに。さすがにジェルのトンデモ発明品だって、それだけの距離を飛ばすのは……
って、あ、カエデか。あの素晴らしき暗黒馬車の隙間にこっそり使いそうなドローンとか積んでおいたのか。
確かにあの貴族が来たときから飛ばしていたとしたら、どう考えても間に合わないか。
「言葉の一部はよく分からないし、どのような魔術なのかも見当もつかないが、まったく面倒なことをしてくれたものだ。」
「でも効果的でしょう。この国が腐りきっていたら意味はありませんでしたが、そうでないことはあなたとそこの王子が証明してくれたようで。」
「乗せられた、と言いたいところだが、我が王はあのような者を赦すような愚か者ではない。とはいえ感謝がしづらいのがな。」
小難しいことを考えていそうな者同士の会話に、陽気な声が割り込んでくる。
「いいんだよ、こいつは。俺たちが来るのは選択肢の一つだっただけだ。」
王子の何も考えてないような言い方にスルーしそうになるが、サラッと凄いこと言ったな。それに気づいて、ジェルとギルさんが顔を見合わせて、同時に王子の方を向く。
「……こいつは面倒くさいですな。」
「ああ、思った以上に的確に真実をついてくる。あとは駆け引きができれば最高なんだがな。だが、幸運なことにある種の人物には逆に効果的だ。どこかの誰かのような偽悪的な奴にはな。」
「これはお手厳しい。」
どこか楽しげなジェル。長く話ができそうなタイプと見たのかも知れない。が、そんなジェルがいつもの微表情に戻る。
「こちらばかり驚かされるのも癪なので、今度はこちらが驚かせましょう。」
「いや、もう十分だ。」
ギルさんがややうんざりした顔をしているが、知ったこっちゃない。
と、なるほど、ジェルが何で驚かせるかは分かった。
厨房からワゴンを押す音が聞こえてくる。アイラかリーナちゃんが料理を持ってきたんだろう。さてさて今日のメニューは……?
「お待たせいたしました。」
大鍋とパンが見える。スープ料理なんだろうか? 山盛りのパンをあちこちのテーブルに乗せ、すでに旨いものセンサーがビンビンに働いているカイルとリリーが大鍋から目を離せないでいる。
「えーと、テールスープ、だそうです。」
説明はおぼつかないが、アイラの目はどこか喜びに満ち溢れている。済ませてしまったんだな、味見という名のつまみ食いを!
大鍋の蓋が開けられると、得も言われぬ香りが広がる。牛(微妙にちがうけど)の尻尾をコトコトコトコト煮込んで、念入りに灰汁や油を掬い取るという、単純ながら奥の深い料理だ。黄金色のスープが次々と注がれる。
カイルとリリーはよだれを垂らさんばかりに深皿を見つめている。二人の闘気(?)に押され、配膳を素早く済ませて全員でテーブルについた。
『いただきます。』
食材と、調理してくれた人に感謝を込めての挨拶が済むと、いつものように賑やかな食事が始まる。
「うめぇ!」
「おいしい!」
まずは腹ペコズのシャウトだ。
テールスープは底が見えるほど澄んでいるが、今まで飲んだテールスープの中で一番濃厚な気がする。それこそあの巨大なロックバッファローの素材としての凄さなんだろうか。
ただただ濃厚なだけではなく、自分でも意味不明なのだが、爽やかさのあるコクなのだ。そのスープが香草と絶妙な塩加減で調理されている。
そしてトロトロに煮込まれながらも形がしっかり残っているテール。尻尾とは思えない肉の塊だ。噛みごたえがある割に柔らかく、スープに旨みを出したとは思えない味わいが、口の中で踊る。
「何か分からんが旨そうだ。」
「待て、バカ王子。いきなり食べようとするな。万が一、ってことがあるだろうが。」
「なぁギル、毒って旨いと思うか?」
「は?」
唐突な問いに驚いている間に、王子がテールスープを一口飲む。そこに驚きの表情が浮かぶ。
「今まで喰ったことないほど美味しい。ギル、これは飲まないと損だぞ。」
「お前は短絡的だ。出された料理を何の疑いもなく食うな。」
「作った二人は心の底から料理人だ。毒や薬なんかの雑味を入れるわけないだろ。」
なるほど。ずいぶん説得力がある。
「理屈は分かったが、それでも迂闊だ。」
と、納得しつつも渋い顔でスープを飲むが、その味にほぉ、と感心した顔になる。
「な、旨いだろ? これだけでも無茶をした甲斐があったというもんだな。」
別の意味でギルさんがほぉ、と唸る。
「無茶をしている、という自覚はあったんだな。そうかそうか、それは結構だ。」
王子の方を向いて、こちらからギルさんの顔が見えなくなったが、王子の顔が恐怖に歪むのが見えた。あの人眼力強そうだからなぁ。
「まぁ、『今は』このスープに免じて、お小言は勘弁しといてやる。『後で』じっくりとな。」
「お、おう。分かった。」
やっぱりこの二人、仲がいいんだと思う。
ちっとも羨ましくは無いが。うん。




