くだらない芝居に付き合おう
ちょっとオーバー……
「ゴ、ゴルディウス王子……」
貴族のおっさんの反応は劇的だった。顔色が白くなったと思うと、急に血の気が戻って、変な顔をし始めた。なんか三下が「良いこと思いついたでゲスよ」と思いついたような感じだ。……こう、小悪党の浅知恵な感じがしないでもない。
「王子! 聞いてください! この町の者は王の忠臣であるこの私に害をなそうとしております!」
「ほぉ。」
いきなり土下座をしたかと思うと、必死さを醸し出しながら小芝居を始める。それを面白そうに見つめる(おそらく)王子。
「王子は勘違いしております。平民どもの言葉に惑わされてはいけません。
平民は嘘をつくものです。私の言うことこそ真実。
……そうであろうな!」
と、こちらを向いて、なんか威圧してくる。なんかまだ隠し玉があったのか?
「ところで、」
どすん、と重量のある物を投げつけるような音とともに、凛とした声が聞こえてきた。
「先ほどから店の裏でうろついていたが、この輩は何奴だ?」
目立たないような服装をした、いかにもな格好の奴らが、ドサドサドサと積み上げられる。見た目はしっとり美人の細腕なのだが、力を入れた様子もなく大の男を放り投げる様は何ともマンガじみた感じだ。
その美人――サクさんはあたし達の横に並ぶと、切なげにため息をつく。
「知恵は姑息とは違う。戦うにも値せん。」
サクさんご機嫌斜めのようである。
「カーッ! サクに先越されたか! こっちはショボかったなぁ。こっちは屋根の上に二人だったぜ。」
ドサドサ、と二人追加。リリーを肩に乗せたカイルだ。
「こっちは残念ながら一人だ。」
ドサ、とヒューイがもう一人積み重ねる。
「ひとり。」
と、知らない女性がまた一人置いていった。
……誰?
「雄牛の角亭」の常連というほどではないが、何度か見たことあるような気がする。けどなんか印象に残らないんだよねぇ。もうどこに消えたか分からなくなってる。
そんなわけで、山積みになった曲者を見て、おっさんがガクガク震えだす。もしかしたら裏からこっそりアイラとかリーナちゃんを人質にしようとか思ったのかなー?
……無駄なのに。仮に中まで入れたとして、黒猫に箱型汎用作業機械の群れ。それらを蹴散らして美少女のピンチ! ともならない。たまに忘れちゃうのだが、リーナちゃんってヒューイに格闘技を仕込まれているので、そこいらの暴漢くらいから身を守るくらいは楽勝だ。
どのみち、このおっさんは詰んでいたんだろう。
ちょっと強そうな人も、人海戦術も、裏工作も全部不発に終わった。次はどうするんだろう? 他人事ながら気になってしまうが、降参はしないんだろうなぁ。
「お、お待ちください!
私めの話を聞いてください! ハメられたのです! そう、平民どもが私を妬んでのこと!」
「つまり、お前は平民を脅して物や人を無理やり奪い去ろうとしていない、と。」
「は、はい! 左様でございます!
貴族は嘘をつきません。そのことが我が身が潔白な証でございます。」
周りの味方が全滅したけど、まだ舌先三寸で誤魔化せると思っているらしい。群衆もどこまで続くのか見ものだろうが、だいぶ白けていている。
「嘘をついてない、と。間違いないな?」
なんとかって王子が問いかける。貴族のおっさんは我が意を得たり、と醜悪に顔を歪める。おそらく笑顔なのだろう。
「は、はい! この口は真しか語りません!」
「なるほど。そこまで言うなら信じるしかなさそうだな。
お前が本当に嘘をついてないのならな。」
おっさんの顔がもっと気持ち悪くなった。周りの人が何を言ったところで、平民の言うことなんてと通すつもりだろう。
王子?が魔法使い風を振り返り、そうすると魔法使い風がジェルに視線を向ける。
(できるんだろ?)
(何のことで?)
(…………)
(冗談ですよ。)
なんかそんな無言の会話が聞こえたような気がする。微表情なんであんまり分からないが、今までのモヤモヤを晴らすような悪い笑顔になっている。
「ポチっとな。」
空中にバーチャルディスプレイが浮かぶ。普段よりも大きめのサイズに広がると、周りから見えやすいように高く浮き上がる。
『二度とは言わぬ。この店を明け渡し、その女どもを余に渡すのだ。』
『何を言う。貴族を愚弄するのか。平民のお前らに上納させてやる、と言ってるのだ。』
『余の言葉は王の言葉! 余が求めることに平民はただ従えばいいのだ!』
さっきまで繰り広げられていた貴族のおっさん劇場のリプレイだ。真正面から――それこそジェルの視点でおっさんが大写しになっている。
「ちなみにこれが王都でも見られてな。さすがに我が王が聞くに堪えぬと、怒りで震えていた。」
「だから俺直々にやってきたわけよ。」
「俺一人でも十分なのに、ついてきたいと駄々をこねたのはバカ王子の方だろうが。」
「いいだろ? お前だけでも十分だが、こういう輩は……」
剣を貴族のおっさんの喉元に突きつける。
「きっちり片付けないと、民に示しがつかないんだよ。」
さっきまでの軽い調子から、一瞬で威厳を持った王としての顔になった。
お読みいただきありがとうございます
今日は何も書く余裕がなかったです、はい。




