バカ貴族の相手をしよう
少し暑さがおとなしくなりました。
8月になったらどうなるでしょうねぇ……
「二度とは言わぬ。この店を明け渡し、その女どもを余に渡すのだ。」
「お断りします。」
金属鎧を着た人の次に馬車から出てきたのは、絵に描いたようなダメそうなおっさんだった。現代社会じゃ間違いなく医者に食事制限を勧められそうな太っちょだ。着ている服も豪華なんだろうけど、妙に幅広いので間抜けに見える。それでもこの世界じゃあ運動不足になるほど乗り物があるわけじゃないので、普通に歩いている。ただまぁ、膝がかわいそうだ。
顔はむっちり、という感じでテカテカしていて、お世辞にも毛髪に恵まれているとは言えない。自分の親がこれだったらちょっと泣ける。……うん、うちのパパはダンディな紳士よ、一応。
「ここにはロックバッファローの肉もあると聞いている。まずは食わせろ。残りは屋敷まで運べ。」
と、当たり前のように「雄牛の角亭」に入ろうとする太っちょだが、ジェルがその前に立ちはだかって通さない。
「どけ。」
「お断りします。」
ジェルが動かないのを見て、横に目配せをする。金属鎧を着た人が、自然に剣を抜いて、そのままジェルに振り下ろした。
って、警告も無しかい!
ジェルの動きが分かるので、邪魔にならないように二歩下がる。剣が振り下ろされるよりも先にジェルが白衣の裾を跳ね上げる。バチッ! という音がして、金属鎧の男の動きが止まってそのまま倒れてくるのを余裕をもって避けた。
「何をするか!」
「何をしたか分かったら、文句を言ってもいいですよ。」
無理だろうな。あたしは知ってるから分かるけど。ジェルは手が早いのもあるが、死角を利用して「見えないように」動くからなおさらだ。
「さっきもそうですが、町中で剣を抜いて斬りかかるのって罪にならないので?」
「貴族が無礼な平民を斬って何の問題があるというのだ?」
「へぇ。」
ジェルの機嫌がどんどん悪くなっているなぁ。なんか企んでいるから我慢しているんだろうけど。
「一応、ここの領民じゃなくて旅人なのですが、ここの国だと貴族が平民から物を奪うのが当然なんですか?」
「何を言う。貴族を愚弄するのか。平民のお前らに上納させてやる、と言ってるのだ。そもそも平民が貴族と言葉を直接交わせるだけ幸せなことと思え。」
……あれ? そういえば領主のジェニーさんも貴族だったよね。このいけ好かないおっさんとどっちが「普通」の貴族なんだろ? なんか両極端な気もするんだけどなぁ。
「つまり、あなたが仰りたいのは、貴族は平民の持ち物も人生も自由にしていい権利があり、自分はその権利を行使しているだけ、ということですか?」
ジェルに言われて、おっさんがちょっと考えるような顔をする。が、さすがに肯定するのは外聞が悪いと感じたのだろう。
「う、うむ、そういう訳ではない。
……そう、平民に分不相応な物を、適切な人間が適切に使ってやる、と言ってるわけだ。さぁ、分かったなら余に……」
「貴族ってすごいですな。人の努力の結果を『分不相応』ですよ。『適切に使ってやる』ですよ。
ご存知ですかラシェル。子供がダダこねて泣きわめいて何かを得たとしますよね。
ただそれは努力して得た物じゃないですから、粗末に扱っちゃうんですよ。」
なるほどねぇ。
また欲しければダダこねりゃいいんだから、大事になんかしないか。お金を払ったとしたって、懐がそんなに痛まないなら、それくらいの価値にしか感じないだろうね。
「余が子供と同じというのか?」
そろそろ向こうも怒りを隠しきれなくなってきたようだ。目のあたりがピクピク震えてきている。それでも威厳を保とうというのか、頑張ってるのは分かる。
「どうやらイライラされているようですな。
貴族様の怒りは平民の怒りに比べたら尊く、価値のあるものですか?」
「何を……」
あ、ジェル結構怒ってる。
「真剣に答えてください。
随分、平民から巻き上げることに慣れてるようですが、あなたのその偉そうな態度の元がそこの雑兵たちだというのなら、全員黙らせてからもう一度聞きましょう。」
「てめぇ!」
雑兵呼ばわりされた中で、特に血の気が多かった奴がジェルに斬りかかる。が、またジェルが白衣の裾を跳ね上げただけで悲鳴を上げて倒れる。
「こ、こんなことしてタダで済むと思うなよ……」
安い恫喝だ。ジェルの手品のタネが分からなくて遠巻きに見ている男たちに、自分の権力が通じない相手に逃げ腰になってる貴族のおっさん。
この場での勝負はほぼ決したが、それで済まないのが「社会」というものだ。たとえ向こうに非があったとしても、殺してしまったら罪は免れない。かといって、ここで解散、ってことになったら、今度こそ相手もなりふり構わず仕掛けてくるかもしれない。
……トドメを刺せるのか?
「余を愚弄したことを後悔させてやる。命乞いしても許さんぞ。お前に連なる者をお前の目の前で惨たらしくなぶり殺してやる。そして最後にお前だ!」
「へぇ。」
ジェルが気のない返事をする。。
「貴族とはいえ、罪のない人間を殺してもいいのですか。」
「何を言う! 貴族をバカにするものは皆死刑だ!」
「これだけ見ている人達がいて、そんなことを大声で宣言するとは…… 愚かですな。」
「はっ、」
おっさんが、心底小馬鹿にしたように鼻で笑う。今更ながら人を見下すのに慣れた感じだ。
「お前たち平民が何を言ったところで、誰が信じるか。何が正しいかと言えば、余が言ったことが全て正しいのだ。」
「なるほど。貴族は王が任命する。ということは貴族の行いは全て王の認めるところ、という訳ですな。」
「そうだ。貴族に逆らうのは王に逆らうのと同じこと!」
「つまり、この国の王様は、貴族が平民から物を奪ったり、娼婦になることを強制したり、殺しても構わない、と言ってるのか。」
「そうだとも!」
自分の言葉に酔ってきたのか、おっさんはジェルの言うことをロクに考えずにそう答えた。あたし達さえいなくなれば、後はどうとでも握りつぶせると思っているに違いない。
「余の言葉は王の言葉! 余が求めることに平民はただ従えばいいのだ!」
高揚して叫ぶおっさんだが、それに反比例して周囲のテンションは下がっていく。身内と思われる男たちも同様だ。貴族の私兵として、ちょっとは特権意識があったのかもしれないが、このおっさんの前では平等に平民扱いだと分かったのかも知れない。
と、不意に空気が、いや空間が揺らめくような感覚。何故そう思ったかと言えば、ワープやリープの時と同じような雰囲気だ。
「そこまでだ。」
空間が揺らめき、声とともに二人の人影が姿を現そうとしていた。
お読みいただきありがとうございます。
ツイッターで「創作論を語ってほしい」って話題があったので、ちょっと語ってみたいと思います。
・一人称か三人称かそれ以外か
それ以外、となるとゲームブックかTRPGか世界樹の迷宮みたいな二人称になってしまいますが、それはさすがに難しいかと。
一人称は視点のザッピングをしない限りは、一人称の人の見えてる範囲でしか物語が進行しません。となると、先頭を進むキャラか、それに常時ついて回るキャラでないと、物語が伝聞形式になりがちです。
さらに頭が良かったり、洞察力が高いキャラだと先が読めてしまってサプライズ感が薄れる可能性もあります。これを防ぐために分かったり推理したことを秘匿する、という手もありますが、あんまやりすぎると、それはそれで鼻につく場合もあります。
一人称の利点は「情報の秘匿」がしやすいので、叙述トリックが使いやすい点です。それこそ登場キャラの性別を勘違いするとか、変装している人の正体に気づかないとか、そういう演出ができることでしょうか。同じようなことで、主観なので、知らないことは知らない、と言えることです。
三人称はなんでもやりたい放題(笑)ですが、客観的なので基本的には文章が堅くなります。天の声みたいな感じで、砕けた口調やツッコミとかを入れる、みたいな演出もありますが。三人称と見せかけて「天の声」の一人称、というやり方もあります。
情報の隠匿もしづらく、変に隠すと文章に齟齬が生じる場合もあります。視点は動かしやすく、暗躍する何かの表現とかはしやすくなります。
ただ、地の分で嘘をついたり、「知らない」表現はしづらくなります。
客観だからできる演出と、主観だからできる演出があるので、双方を交えるってやり方もありますが、主と副を決めて区別しておかないと、視点が定まらなく落ち着かない場合もあります。




