悪だくみを始めよう(その5)
「これがみな砂糖か……」
馬車に積まれる麻袋を感慨深げに眺めている。冒険者ギルドの前に止められた暗黒馬車だが、意外と反応が薄かった。カエデの芸人としての魂が発揮される機会を失って、やや不満げであった。
「誰が不満げや。」
「いや、何も言ってないけど。」
「なんか目がそう言うてたわ。」
……あたしって分かりやすい顔してるのかな? ジェルも良く人の考え読んでくるし。
「素直だ、って受け取っておきましょう。」
むぅ。なんかスッキリしない。
「しっかしまぁ、ホンマにアレ全部砂糖かいな。一財産もいいところや。」
「そうですな。そして金の亡者を呼び寄せるでしょう。」
ほら、こんなに見ている人達が、とジェルが両手を広げて周囲をアピールする。その中には積まれる砂糖の袋を熱い目で見つめてるのなら分かりやすい。
ジェルがこっそり「あそことあそこ、そしてあそこですな。」と、ジェルが小声&目線だけで教えてくれた方を見ると、自分は無関係ですよ、って顔をしながらこちらを伺ってる程々の身なりの人たちがいた。あたしがうっかりそっちを見たら、その視線に気づいたのか用事があるような顔をしてコソコソ離れていく。
「怖いこと言わんといてや!」
尻尾と耳を逆立ててカエデが訴えるが、どうやら彼女は、そこまで見られていることには気づいてないらしい。
「お~し、こんなもんだろ。どうだ? 行けるか?」
そろそろ普段の仕事が気になってきたガイザックさんが砂糖の数や積み方のバランスを確認する。その顔はどこか誇らしげだ。
「なぁ、狐の姉ちゃんよ。この砂糖はな、リリーの嬢ちゃんが親父さんと作ったサトウダイコンをすべて砂糖にした。
……見かけ以上に重いぞ。」
「脅かさんといてや。ウチもお金の重さはよぉ分かってるつもりや。
それ抜きにしても重そうやな……
モミジ、行けるか?」
ヒヒン。
馬車である以上、馬も付き物である。何か一捻りあるかな? と思ったけど、良く見る茶色(ジェルによると鹿毛と言うらしい)の小柄な馬だった。
それでもカエデが声をかけると、一声鳴いてからゆっくり歩きだす。ジェル特製の荷車は軋む音一つ立てずに滑らかに動き出す。
(ほぉ、こいつは驚いた。あの量だったらもう少し重いと思ったら、こんなにスムーズに引けるとはな。)
えっと…… うわぁぁぁぁぁっ!
しゃ、喋った! って、もしかして例の召喚魔法のオマケの「翻訳魔法」ってやつ? まぁ確かに黒猫の喋ったことも分かったけどさ。
「どうしましたラシェル?」
引き気味になったあたしの方にジェルが視線を向ける。
どうしましたって…… え? もしかしたらもしかすると、
「ジェル、もしかして馬の言葉までは分からない?」
「は?」
お、久々にジェルの驚いた顔が見れた。少し考えてる顔をしてから、ポンと手を打つ。
「そういえばスコッチの時も驚いた顔してましたが、そういう理由でしたか。」
あのスコッチの声もあたしだけ聞こえていたらしく、リーナちゃんがスコッチと話せなくて残念がっていたそうだ。
(それ、きっとルビィのせいかも。)
はい?
えっとね、とルビィは子供口調で魔法の理論的なことを言い出すんで、しょうがないからジェルに託して「雄牛の角亭」の帰路につく。砂糖は確かに冒険者ギルドから受け取ったが、せっかくだからとこちらからも少し商材を持っていこう、ということになった。
「お~ モミジ。足取りがええなぁ。この馬車、そないにええんか?」
ヒヒン。
(ああ、いいねぇ。こりゃワシももうひと頑張りできそうだよ。)
なんか副音声のようにいななく声に重なって、老人のような声が聞こえてくる。
「ねぇカエデ。この馬って結構なお爺ちゃんなの?」
「そやなぁ……」
彼女の手が馬の首筋を撫でる。それが気持ちいいのか、ブルルンと鼻を鳴らす。
「ウチが独り立ちしてからの付き合いやからな。そん時はくったびれた馬やったんだで。だから安かったんや。」
どこか懐かしむような声。でもよほど大事にされているのか、モミジは(たぶん)年の割に毛並みも肉付きもいい。
「ウチにとっちゃあ、金とモミジが全財産やからな。こいつさえおったら、どこんでも行ったるわい。」
あ、面倒だから省いてるけど、こうしている間もルビィとジェルで魔法議論をしている。あたしを仲介しないといけないのが大変だ。
「なるほど、ね。」
ジェルがふんふんと一人で勝手に納得している。その内ドヤ顔で教えてくれるのだろう。
「お、見えてきたで。」
だべりながら歩いていると「雄牛の角亭」が見えてきた。入り口の上に飾ってあるロックバッファローの角がなかなかの迫力だ。
思えばこうして遠くからのんびり眺めるのも初めてかも知れない。最初はどんな建物だったのか微妙に覚えてないが、すっかり立派になったもんだ。……周りの建物に比べると、立派すぎてアンバランスな気がしないでもない。うん、気のせいだ。
そういえば改装が終わってからも、全然お客さんが入らないんだよね。ジェニーさんは箱型汎用作業機械の充電の為ってことで、毎日飲み食いに来てるが。別にキューブたちだけで来てもいいので、単に口実だとは思うが。
とはいえ、今のところの領主派と貴族派のゴタゴタが片付かないと、店の宣伝をしてもなぁ、というのがアイラの意見だ。時間もあるし、とリーナちゃんと料理の研究をしているので退屈とは無縁そうだ。
これからまた荷物を積むので、入り口の前に馬車を止めて店の中に入った。中から美味しそうな匂いがするので、そろそろ昼ごはんらしい。
(軽いのはいいが、黒いなぁ……)
やっぱりモミジもそう思ったのか。カエデには教えない方がいいだろう。うん。
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