悪だくみを始めよう(その4)
北海道の6月って、こんなに暑かったり、いきなり涼しくなりましたっけねぇ?
おおぅ。
朝食も済み、カエデの悲鳴の元を見に来た。
そこには邪悪な気配がする「何か」があった。その邪悪の使徒であるカエデが頭を抱えていた。
「これは…… なんやぁ!」
ジェルに駆け寄り、白衣の襟をつかんでグラグラ揺する。ジェルの胸板にポヨンポヨンぶつかってるのが何かイラつくが、思った以上にパワフルに揺さぶられて、さすがのジェルも何も言い返せないでいる。獣人ということは、基本的な身体能力が高いのだろうか?
「あうち!」
一瞬目を離した隙に、おそらく手首のツボをついて力が緩んだ所を、どうにか逃げたようだ。あたしを盾にして追撃を防いでいる。
「服が伸びたらどうするんですか。」
銃弾も跳ね返すような白衣が伸びるか。
「……まぁ、ジェラードはんやったっけ?
ウチにも商人としてな、イメージは大事にすんねん。こないな子供が見たら、夢に出てうなされそうなモンはアカンやろ。」
「花で飾りますか。」
「余計に不気味やし、すぐに枯れるやんか。
でもまぁ、これもなんか意味があるんやろ? せやけどなぁ……」
「引く馬も黒くしますか。」
「ホンマ不吉極まりないな!」
……う~ん、別に競う気はカケラも無いが、彼女のツッコミは恐るべき速さだ。なんか自分の居場所を取られたような錯覚を覚える。
そんなに深刻なことじゃない、とは思うけど、何となく不安感がある。う~ん。
「で、どうにかする気はあるの?」
もやもやしたものを抱えながらも、とりあえずジェルに聞いてみる。
「それがですねぇ……」
珍しくジェルの口調が渋い。今回に限ってネタは何もないようだ。
「箱型汎用作業機械を複数運用するにはこれくらい欲しいところなんですよね。」
「さよか……」
ジェルの説明が微妙に分からないようだが、色替えが無理なことは理解できたようだ。
気休めかもしれないが、艶消しの黒なだけまだマシじゃないだろうか。なんかこー ほら、夜とか目立たなくて良くね?
「ホントの問題はそこやないんや。」
カエデが悲しそうに首を振る。
何かあるんだろうか?
「……ウチがな、気に入ってしまったらどないしようか、なんや。」
あー。
「色は確かに黒い。不吉極まりないが、もしウチの思う以上の何かがあったらどないするんや? きっとウチはこれを使い続ける未来になってしまったらどないするんや。」
「黒の運び手、なんて二つ名がつくんでしょうな。」
「それは嫌やな……」
ジェルの軽口にカエデが心底嫌そうな顔をする。
そんなことをしていると組み立て、というか改造が終わったのか、キューブが店の方に戻っていく。
そこには黒いけど、真新しく見える荷車があった。一頭引きのため、そんなに大きくはないが、四輪で幌もあり随分と立派そうに見える。
「前の面影が全然ないなぁ。
はよ金貯めて、もっといいの買うんやと思ってたけど、いざ変わってまうとなぁ。」
しみじみと呟くカエデ。
「大雑把に説明しましょう。
基本的には木造ですが、圧縮した上に樹脂を染み込ませたので、わずかに重くなってますが、鉄よりも丈夫になってます。」
「ちょい待てぇ!」
「質問はあとで。
強度が上がったので、薄くしたり細くしたりと構造を工夫したので、実際は軽くなっております。」
「…………」
なんかこう、途中で手を抜こうとか考えんのか。さすがにやりすぎじゃないの?
(強化の魔法じゃないのにそんなことできるなんてすごいねぇ。)
あ、そっか。魔法なんてものがあったっけ。でもこっちにきて何日も経ったけど、まだ魔法らしい魔法を見たことないんだよね。
(そうかも。魔法の道具も安いものじゃないし、どかーん! って魔法は使える人がそんなにいないの。)
大丈夫かなぁ。相手によりけりだけど、実際に魔法を見たとしても「え? うそ、この程度?」なんて顔をしないで我慢できるだろうか?
「ちょっとラシェル!」
カエデの矛先がこっちに向いて、ルビィとのお喋りが中断させられる。
「ジェラードはんって何モンや! おかしすぎるやろ!」
……微妙に褒め言葉だろうか?
ひょいと、彼女の肩越しにジェルを見てみると、してやったりとニヤニヤしていた。
「慣れて。」
あたしから言えるのはそれだけだ。
どうせすぐに(文明の利器の)快楽から逃れられなくなる。そろそろアイラが抜け出せなくなりつつある。
あたし達がいなくなったらこの「雄牛の角亭」は大丈夫なんだろうか。さすがにやりすぎた感が否めない。
「ウチはどうしたらいいんやぁっ!!」
黒いけど快適な馬車にカエデの苦悩する声が響き渡った。
……近所迷惑、とは言わないけど、ほどほどにね。
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