狐さんを迎えよう(その5)
また話が進んでない……(とほほ)
「さて、王都までは馬車で五日くらいか。その間、何もないといいな。」
ボソッとガイザックさんの呟いた言葉にカエデが反応する。
「なんやて! 危険なことあるんか!」
「そりゃあるだろ。」
カイルがボソッと呟いて更にカエデを激高させる。勢い良く振り返って尻尾とか他のところが激しく揺れる。
「いや、だってアレだろ? ギルドの商人たちは商売ができないだけで動けるんだろ? ほかの奴を使ってもいいさ。
一人商人が消えて、そいつの持っていた貴重な砂糖がどっかの倉庫に紛れ込んでも俺は驚かねぇな。」
おおぅ。
犯罪者相手にしている奴の言葉は重い。確かにこの世界の命に対する扱いは軽い。都合が悪くなったら殺っちゃえ、って感じだ。現にあたし達も命を狙われていたわけだ。自称平和の使者のせいで、その辺の実感があんまり沸かなかったが。
……まぁ、命の危険に関しては、今更なんだけどね。うん、こっち来て少し忘れかけてたけど、A級捜査官って危険なのよ。すげー無駄に。
「何もなければ何もないが、ただでさえ高いモン載せてるからなぁ。」
「しかも女一人だろ? 襲ってください、って言ってるようなもんだよなぁ。」
いつの間にかに飲み始めた呑んべぇ達がますます不安をあおるようなことを言い出す。
「ちょっとぉ!」
あぁ、なんかあんな叫び、前もどこかで聞いたなぁ。
「……この町の恥を晒すようでアレなんだが、今このハンブロンの町は二つに分かれていてな。」
「続きは私から話そう。」
その声は入り口から聞こえてきた。
「領主様……!」
いいタイミングで現れた、この町の領主のジェニーさんだが、もしかしたら夕飯を食べに来たんじゃないだろうか?
「領主様?!」
驚きで顔が強張るアイラだが、リーナちゃんはいつものように笑顔で接客する。
「いらっしゃいませ。本日は何になさいますか?」
「お任せで。あとは冷やしたワインだな。」
「はい、かしこまりました。
皆さんの分も何かご用意しますか?」
そういえば、そろそろ夕飯にいい時間かも知れない。飲みたい人たちには今食べて、それからのんびり飲みたい頃合いだろう。
「俺、大盛ーっ!」
「あたしもー!」
ぶれないなぁ、こいつら。
「はい、今すぐご用意いたします。」
リーナちゃんがアイラを連れて厨房へ下がっていく。すでに準備ができているのか、すぐに香ばしい匂いが漂ってくる。
これはブラウンソースの香りか? となると、材料のことも考えるとビーフシチューというところか?
「お待たせー。」
アイラが大鍋とパンが山盛りの皿を載せてワゴンを押してくる。最初はお客さんに、とカエデにジェニーさんとガイザックさんのところに盛り付けて、次にあたし達とヒューイ。そして腹ペココンビの所に置いて、最後にリーナちゃんと自分の分をよそう。
ああ、なるほど。自分の前に置かれても、全員でいただきますをする関係上、後に置いてもらった方が、お預けを喰らう時間が短くて済む、と理解したらしい。
『いただきます。』
内輪での食事の時の挨拶を済ませると、さっそく楽しい夕飯が始まる。
リーナちゃんは異世界にきて少しずつ色んな料理を再現している。ブイヨンを作り、ミルクからバターを作った。
そうすれば、基本のソースであるベシャメルソースとブラウンソースができて、いろいろ料理の幅が広がったようだ。アイラもリーナちゃんに教わって、リーナちゃんもこちらの料理を色々教わって切磋琢磨しているようだ。
そう考えると、ホントにあたしは何もしてないなぁ。元いたところでも基本的にはジェルの後をついていたようなもんだが。何もしてない、というか何もできないんだよね。
「はい、またつまらないことを考えている顔をしています。」
そしてジェルにこう言われるんだ。
「ご飯は美味しく食べるものです。それが食材と料理してくれた者への礼儀です。」
もう何度交わされた会話だろうか。
無理やりにでも気持ちを切り替える。変に沈んでいると、美味しいものも美味しくならない。
って、うまっ!
やっぱり肉が違うんだな肉が。
ロックバッファローの肉は旨みが違う。歯ごたえが違う。とにかく何か違う。
それが匠の技で料理されたのだ。美味しくないはずがなかろう。パンもビーフシチューに合わせて少し硬めに焼いてあるのがまた素晴らしい。
ワイワイと賑やかな夕食が終わり、デザートにまたプリンが出てきた。少し配合を変えたのか、柔らかさが違う。これはこれで良し。
このプリンも皆に絶賛であった。
……と、あれ? 何か忘れてる?
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