狐さんを迎えよう(その3)
「ウチはカエデ言うんやけど、一応これでも商人やねん。」
あの後、特大のハンバーガー二つと、やや大きいハンバーガーが消費されて、一通り昼食が終わった。
ジェルのノーマル白衣に隠れた狐さん――カエデがポツポツと話し出した。
彼女は商人としては駆け出しを卒業して、一人前未満くらいになったのだが、最近行き詰まりを感じているそうだ。
原因は単純で、狐の獣人という物珍しさと、美貌プラスナイスバディを売りにしていたのだが、ある程度はそれだけで結構有利に取引ができたのだが、飽くまでも「ある程度」だ。
女性の胸元に鼻の下を伸ばしているような相手とでは、やはりそこそこの取引しかできなくなる。
それにカイルの指摘通り、本当は色仕掛けとは真逆の性格で、独特のお笑い的なノリがあることは認めるが、自分の身をさらけ出すような真似はとてもとても、と。
「せやけど、ウチはこれでずっとやってきてたさかい、すぐには変えられんくてな。
……もしかしたらウチは誰かにそう言ってもらいたかったんかもな。」
しみじみと遠い目をするカエデ。
「で、本当は?」
「いや、ここの店のこと、ちょっと噂で聞いてな。もっかいくらいウチのお色気で何とかいいネタ取れへんかな、ってな。
……って、何言わせんのや!」
あたしのツッコミに、ボケながらもペラペラ喋ってしまう。
この人はきっと笑いのためにい墓穴を掘って自爆しかねないタイプだ。ただ口ではなんだかんだ言って甘い判断をしちゃうんだろう。密かに応援したくなる。
そう思ってジェルの方をちらりと見ると、その視線に気づいたのか「またですか」と言わんばかりに皮肉げに口の端を吊り上げる。
いいじゃんかよー。ジェルだってそうじゃないのー?
「良ければお口直しにどうぞ。」
そういえば、あたし達はとんでもないことを忘れていた。
騒動の原因はそりゃ、カイルの空気読めない発言とか、ジェルのワザワザ聞こえるように言った皮肉とかあるけど、意外とリーナちゃんがホントに悪気なくやった天然行動がその騒ぎを大きくしてしまうことがある。
例えばだ、
「ハーブティのゼリーです。お口に合えばよろしいですが。」
「「「ゼリー?」」」
「はい。」
異世界組の三人が驚いた声を上げるが、リーナちゃんはまるで気にしてないように笑顔で返す。
「まだ試作品ですので、お口に合えばよいのですが……」
木のカップの中に薄い赤色のプルプルとしたものが入っている。まぁ、ゼリーだしね。
ひんやりと冷えていて、スプーンを突き刺すと適度な弾力が返ってきて、力をこめるとある一点を超えた時点で初めて突き刺さる。
スプーンの上に乗った透明な欠片がプルプル震える。
パクリと一口。ひんやり冷えた舌触りと、さわやかな酸味と甘味。これはゼリーになると大変美味でございます。
(初めて食べるー おいしー)
ルビィにも好評のようだ。
「また新しい味……」
「サッパリしておいしー!」
「さっきのもこれもレシピ手に入れば……」
一人を除いて深刻な顔をする。
「いや、それだけやない。ここには砂糖があるんか! それを『試作品』ってことで簡単に使えるだけあるんか!」
そういえば、ちょっと忘れかけてたけど、砂糖って貴重なんだよね。サトウダイコンのおかげで入手しやすくなった、というか、ここで砂糖作ってるし。
「余裕があるならウチに砂糖を譲ってくれへんか?」
「ちなみに、カエデさんの輸送能力はいかほどで?」
急にジェルに聞かれて、興奮しかけたのがちょっとおさまる。
「え? ウチ?
ウチは一頭立てやね。最悪、馬だけで逃げれるようにやな。」
「ふ~ん…… いえね、今ちょっと砂糖がらみで問題がありましてねぇ。」
含みがある口調のジェルに、周りが疑問符を浮かべてると、入り口のドアが開いた。
「よぉ、最近暑いなぁ。」
数少ない常連客のガイザックさんがひょいと顔をのぞかせる。
「って、なんか旨そうなモン喰ってるな。」
案内もされてないが、さっさと席について、無言で催促する。と、いつの間にかに厨房に行っていたリーナちゃんが、お茶の準備をして戻ってくる。皆の容器を片付けながら、冷たいハーブティを置いていく。
本当はガラスの容器でもあればいいんだろうけど、この世界ではまだお目にかかってない。ガイザックさんのところにはゼリーも置いていく。
リリーがうらめしそうにガイザックさんを見ていたので、彼女とついでにカイルの前にも追加のゼリーを置いた。
「へぇ、こいつはまた……」
アイパッチで隠れていない目を見開いて、ガイザックさんが唸る。リリーとカイルが同じような顔をしたうまうまとゼリーを頬張る。
外を見ると、結構な日差しだったようなので、冷たいゼリーはさぞかし格別だろう。最後にハーブティを一気に飲み干して、ガイザックさんが一息つく。
「いやぁ、ここは快適すぎるな。外は暑くても中は涼しいし、食い物も酒も旨いときてる。もう俺、ここで仕事しようかねぇ。」
いや、絶対仕事にならないと思う。
「ん? そこの狐耳は初顔だな。誰かの知り合いか?」
「ウチはカエデや。こう見えても商人の端くれや。」
「何?」
ガイザックさんの目が鋭くなる。
「お前ぇさん、どこの所属だ?」
睨まれた感じになって、一瞬身を竦めるが、それでも負けじと睨み返す。
「ウチは流れの商人や。今のところ、どこにもついてへん。」
「そうか。」
いつものどこかヘラヘラした感じから真剣な表情を浮かべる。カエデのいるテーブルの対面に座ると、肘をついて顔の前で手を組む。
「結構大きな仕事になるが、どうする? 話を聞くだけ聞いて、はいさよなら、はできんと思った方がいい。」
どこか挑発的な物言いに、バンとテーブルに手をついて立ち上がる。
「ウチの商人魂舐めたらあかんで! 大きい話ならガッポリ稼ぐで!」
立ち上がった勢いで、どこかがたゆん、激しく揺れる。
……なんか敗北感だ。
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