狐さんを迎えよう(その2)
もう少しシズル感というか、グルメ系小説みたいな濃厚な表現ができんもんか……
「お待たせいたしました。」
ワゴンを押してアイラとリーナちゃんが入ってくる。ジュージューという音と、広がる香りが食欲をかきたてる。
ふぅん、この感じは……
「なんやこれは……」
狐の獣人さん――長いから「狐さん」にしておこう――がテーブルに身を乗り出すようにして置かれた皿を覗き込む。そうすると、ある体の部分がドンとテーブルに乗り上げてしまうのが見えてしまう。くぅ…… なんて戦闘力だ。
けど、ジェルがそれをチラッと見ただけで、つまらなそうに運ばれる皿に目を向けたので、ちょっとばかり溜飲が下がった。
「ホンマになんやこれ。肉みたいやけど、ワザとひき肉にしてる……?」
くんくんと鼻を近づける。
「牛肉みたいやな。でも変な臭いがせぇへんなぁ。
そうか。ひき肉にしてるんから、ハーブの匂い消しが効果的にはたらくんか。」
グルメリポーターのようなことを、大声ではなくブツブツと小声で呟く。その間にもあたしたちの前に皿が置かれる。
まだ熱い鉄板の上で湯気を上げているのはハンバーグだった。匂いからするとドミグラスソースのシンプルなハンバーグである。
付け合わせとして、レタスっぽい葉物野菜にピクルスと丸いパンを二つに割ったものが付け合わせとして別の皿に載せてあった。
ほほぉ、これはアレか。
「そのまま食べてもよろしいですし、パンに挟んで食べても美味しく食べられます。」
と、リーナちゃんが実際にハンバーガーを実演する。
「なんや…… この店は想定以上や……」
お客さんを除いたみんなでいただきますをしてから昼食に取り掛かる。あたしとジェルはハンバーガーにして。アイラはハンバーグの味を確認したいのか、そのまま食べるようだ。
狐さんはキョロキョロと周囲の食べ方を見比べて、ハンバーガーを選択したようだ。
「!」
それまでグルメ番組のように色々コメントをしていた狐さんだが、意を決してかぶりついたところで、完全に言葉を失う。
後はムシャムシャ無言かつ夢中で食べ続けて、正気に戻ったのは手の中が空になった時でった。
水を飲み干し、一息つくと見せかけて、氷水を一気飲みしたせいか、頭がキーンとなったようだ。おそらく初めて経験する痛みに頭を抱えて悶絶している。
……ああ、何となくわかった。この狐さん、来たときは、なんかセクシー路線を目指していたが、気づくと普通にドタバタキャラになっている気がする。
「大丈夫ですか?」
リーナちゃんがすかさず暖かいハーブティを差し出すと、ゆっくり舐めるようにして飲んでどうにか回復する。
「おおきに……」
心なしか、耳も尻尾もくたっとなった狐さんだが、周りからの視線を感じて、急にシャキッと立ち上がる。
「な、なんや! そんなジロジロ見て。ウチは安かないで。」
微妙に扱いに困っていると、ドカンと入り口が開け放たれた。
「昼だー!」
「ご飯ー!」
事態を更に混乱させそうな凸凹コンビが帰ってきた。その後ろから苦笑いしたヒューイが入ってくる。
「ま、そんなわけで…… お客さん?」
ヒューイが微妙なポーズでシナを作ってる狐さんに気づいた。
「お! 客がいるなんてすげーな!」
「ちょっとぉ!」
カイルの(たぶん)誉め言葉にアイラが抗議の声を上げる。そんな中、リリーはマイペースというか何というか、あたしたちのテーブルに着くが、すでに昼食が始まっているのに気づいて心底悲しい顔でテーブルに突っ伏す。
なんか状況がカオスになってきた。誰かこのグダグダ感を何とかしてくれ! 特にあたし以外で!
「お、なんか眼福な奴がいるな!」
初めて期待していたリアクションが来たのか、ここぞとばかりに胸元を強調して、カイルに近づく。
「そんなん言うけど、うちは安かないで。
どうしても、って言うんやったら、これからのあんた次第やな。」
嬉しそうな顔をしたカイルだが、次の瞬間にどこか寂しそうな表情に変わる。
「でもなぁ、俺、無理してる女にどうこうする気なんかないぞ。」
「へ?」
不意を突かれたのか、中途半端な前かがみのポーズで、狐の耳と尻尾がへにゃっとなる。
「いやだってそれ、演技だろ? 多分、そういう露出の高い服も本当は嫌だったりしてないか?」
「いや、ウチ、その……」
なんか急にうつむいて、胸元を合わせるようにして身を縮みこませる。
「おーい、ジェラード、白衣。」
「またか……」
急に話を振られて、渋い顔をしながらも、来ている白衣のポケットから、別の白衣を取り出して、カイルに投げつける。
受け取った白衣を狐さんの頭からバサッとかぶせる。
「…………」
上目遣いでカイルを見上げる狐さん。
カイルがゆっくりと口を開く。
「リーナちゃん、俺たちに昼メシをくれ。」
まぁ、カイルだとそんなもんか。
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