女性客を迎えよう
「ここは食堂だな。」
朝食後の一息ついた時間帯。昼食の準備にもやや早いし、家の中の用事を済まそう、なんてあたし以外の人が思ってほしい頃だ。
そんな中、一人のお客さんが入ってきた。
年の頃は二十台後半くらい女性だが、できるキャリアウーマン風のオーラが感じられるので、もう少し上かもしれない。
例えが悪いかも知れないが、場末の酒場で豪快に飲んでるのが似合いそうな「男前」の雰囲気がある。
服装は高級そうな紳士服をラフに着こなしているが、男装の麗人というにはちょっと違うような気もする。
が、残念なことに目の下にクマが見えたり、髪や肌のツヤが悪く、服もどこかヨレヨレしている。大変お疲れのようだ。
「はい、そうです。」
リーナちゃんが木漏れ日のようなさわやかな笑顔で応対する。
「そうか…… 今私は徹夜明けでお腹が空いている。私に相応しい朝食を頼む。」
「……かしこまりました。」
リーナちゃんは少し悩んだ後、こちらにやってくる。
「博士、あの方は何を求められているのでしょうか? お食事なのは分かるのですが、それだけではないような気がしまして。」
ほぉ、とジェルが感心の声を出す。
「良い読みです。
確かに食事を所望しているようですが、何を出すかでこちらを試しているようです。」
ジェルにしては素直に褒めると、リーナちゃんが照れ隠しに顔を伏せる。可愛いのぉ。
「試されるのは少々業腹ですな。ここはそれ以上の何かを見せることにしましょう。」
と、ジェルは悪そうな顔をして、リーナちゃんに二、三耳打ちをすると、厨房の方へと追いやった。
「お待たせいたしました。」
アイラがワゴンを押して店内に入ってきた。リーナちゃんが調理をした上に、別の準備があるそうだ。
細かいことだが、改築の際に床も大規模に直したため、ワゴンを押してもガタゴトいわずに使いやすくなった。さらに箱型汎用作業機械たちも、床が滑らかだと車輪で移動できるので楽になるらしい。
「芋の暖かいスープにフレンチトーストです。」
「ほぉ。」
お盆の上に湯気を立てたポタージュスープっぽいものと、柔らかいトーストが見えた。ただアイラが言葉を選ぶように言っていたので、彼女にも初めての料理のようだ。
「説明を頼めるかな?」
「はい。
お客様はきっとお疲れのことと思いますので、暖かく消化に良いものとしました。
スープで身体を温め、トーストには卵とミルクと砂糖を使っていて、滋養に富み疲れを和らげてくれます。」
「なるほど。見たことがない料理だが実に美味しそうだ。しかしこれだけかな?」
女性客はどこか挑戦的な目で見てくるが、横から現れたリーナちゃんがその視線をやんわり受け止める。
「僭越ながらお風呂を用意させていただきました。その後はお昼まで休んでいただければ、お腹にたまる物をご用意させていただきます。」
「ふぅん?」
目つきは鋭いが、それが興味深げなものへと変わっている。
「今一番身体が欲している物はおそらく休息です。ただ、空腹ですと寝るのにも支障が出ますので、消化の良い栄養のあるものをご用意いたしました。」
「なるほどな、確かにその通りだ。
ここは宿屋でもあったな。お言葉に甘えさせてもらおう。」
そう言うと、ゆっくり食べ始める女性客。スープをすくって匂いを確かめてから口に運ぶ。一瞬驚いて、二口三口と食べ進める。
スープの飲み方がとても上品だ。服装からも思ったが、育ちが良いというか、高い教育を受けている人だ。貴族とかそういう人種なのかも知れない。
「驚いた。こんなスープがあるとはな。しかも材料も決して高くない。」
期待を込めてフレンチトーストにナイフを入れる。一口大に切り分けられたパンが口の中に消えた。
「甘い…… でも心地よい甘さだ。これは砂糖の甘さか。なるほど、な。」
それだけ感想を述べると、後は黙々と食べ続けた。あっという間に皿を空っぽにすると、息を吐いた。
「もう少し食べたいな、と思わせるから大したものだ。これでゆっくり休んだら昼食が待っているんだろ?」
「はい、ご期待ください。」
「それではお風呂にご案内いたします。」
微笑むリーナちゃんからタオルを受け取ったアイラが、女性客を大浴場に案内する。
さぞかし驚くことだろう。
「で、ジェル。あの人なんだろうね?」
「何となく予想はつきましたが、本人に隠すつもりはないようなので、向こうから話してくれることでしょう。」
へぇ。
そこにお盆を持ったリーナちゃんがこちらにやってくる。あたしたちの前に皿とカップを置く。
「味見程度で良ければ、ですが。」
いやいや、下さい下さい。
さっき出された芋のポタージュスープとフレンチトーストだ。
「いい味だ。」
「うん、美味し。」
「恐縮です。」
あたしたちの評価に、嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「お昼はあのお客様に合わせて、少しボリュームのあるものにしますが、大丈夫でしょうか?」
「ん、任せる。」
「かしこまりました。」
今のうちに色々仕込むつもりなのか、厨房に戻っていくリーナちゃん。
しばらくすると、風呂上がりの女性客がアイラに連れられて店内に戻ってきた。そして、ジェルの方を見て意味ありげな目を向ける。
「あんな設備があるとは驚きだ。
おそらく、君の技術ってかな?」
「それは後程ご説明することになるかと思います。昼食の際にまたお会いしましょう。
――領主様。」
え?
ジェルの言葉に女性客の目がすっと細められるが、すぐに元の表情に戻る。
「なるほど、有意義な話ができそうだ。となれば、しっかり休んで体力を取り戻さねばな。」
楽しみにしてると、となかなか魅力的なウィンクして、謎の女性客は二階へと上がっていった。
……えっと、領主様、って何?
多分10万字突破!
1週間で6000文字のペースって意外と大変ざます




