野暮用1
視点:三人称
深夜。
町中ですら明りに乏しいのに、朝早く夜早い農家の多い区画ではもう星明りしかない。今晩の月はあまり光を投げかけないようだ。
建物のシルエットがわずかに見えるような闇の中、静けさを破るように物音が聞こえてきた。音に続いて、炎の明りが見えてくる。何人かの人と馬車のようだ。
そんな姿を少女は見つめていた。
「来ました。人数は十人以上。馬車は二頭立てが二台。武装内容は不明です。」
リリーの家の屋根の上で暗視装置越しに迫る集団を監視していたリーナは、通信機にささやく。
『こちらでも確認した。
打ち合わせ通り、指揮官や伏兵、魔術師、逃亡するものを中心に狙撃してくれ。』
「了解しました。」
リーナは改めて伏射の態勢で二脚に乗せたライフルを構えなおした。
「来たな。」
「来たねぇ。」
「来たかい。」
男三人がリリーの家の物陰でよっこらっしょ、と立ち上がった。
二人は顔にアイマスクのような暗視装置をつけたヒューイとカイル。もう一人はアイパッチのおっさん呼ばわりされてるガイザックだった。
「あんたらのそれって、魔道具なのか? 闇を見通せるそうだが。」
「魔法じゃないが、わずかな光を増幅して見るための道具だ。」
「へぇ。」
ガイザックが二人の装備を見て、興味深そうな声を上げる。
「魔法じゃない道具、となると、魔法で妨害も検出も出来ないのか……」
「そんなこと言われても分かんねぇな。」
「そうだな。俺たちも原理とか知らずに使ってるからな。」
カイルとヒューイの言葉に、ガイザックが気を削がれたような顔をする。
「確かにそうだな。俺も魔法の原理なんてよぉ知らんな。」
「そうだそうだ。細けぇことなんか、分かる奴に任しとけばいいんだよぉ。」
「じゃあ、こちらも分かりやすい仕事をしますか。
リーナちゃん、オープンコンバット。灯りを潰してくれ。」
『了解です。』
ある商人に雇われた一団。金になるという作物を秘密裏に収穫しろ、という命令だ。もし抵抗するものは適当に処理しろ、と。その畑には年は若いが、女一人でやっているらしい。程々の金払いと、追加の「楽しみ」があるということで、結構な人数が集まった。
目立つのは仕方がないが、松明やランタンで灯りを確保する。どうせこの時間なら、起きている人間は皆無だ。物音にさえ気を付ければ、どうにかなる、という考えだった。
そこに常人には聞こえない音波が夜空を走る。
理解できるものはいないが、超音波による衝撃波が松明やランタンを破壊した。
「なんだ!」
「灯りだ! 魔法を使え!」
男たちの中の一人が、小さい棒を構えてブツブツ何か唱え始め、棒がうっすらと光を放ち、消えた。
わずかな星明りの中で、ブツブツ言っていた男が倒れたのが見えた。
「お、おい、何が起きた!」
「気を付けろ! どこかに……」
指示を飛ばそうとした男の声が倒れるような音とともに途切れた。
暗闇の中、見えない何かが襲ってくる恐怖に逃げ出そうとするが、その前に何かが立ちはだかった。
「逃がすかよ。」
その巨大な何かは、逃げた男の胸倉を掴みあげると、そのまま腕を振り上げて、無造作に元来た方へ投げつけた。
一寸先も見えない方から投げつけられた人間を避けることは不可能だ。
何が起きているのか分からずに恐慌状態に陥り、身動きが出来ずにいるところに、あらためて暴力の嵐が襲い掛かってきた。
拳や蹴りに棒による打撃。襲撃者は闇をものともせずに次々と男たちに武器を抜かせる暇も与えずに無力化していく。
『状況完了です。相手の抵抗力を完全に奪いました。お疲れ様です。』
リーナの声がヒューイとカイルの通信機に届く。
「歯ごたえねぇなぁ。」
「こんなチンピラみたいのに期待するだけ無駄だろ。」
「……知った顔も少しいるな。最近見ないと思ったらこれか。」
炎じゃなく、電気式のランタンで周囲を照らすと、うめき声をあげて転がってるのはまだマシな方で、ピクリとも動かず失神している男たちがゴロゴロしていた。ただ、気を失っているのと、今でも痛みに呻いているのとどっちが幸せかは分からない。
「後片付け面倒くせぇ。」
カイルがブチブチぼやきながら、男たちの靴を脱がせ、足の親指同士をワイヤーで結束する。手も背中に回して親指同士をワイヤーで結束する。
それで身動きを封じたら、男たちが乗ってきた馬車にポイポイ放り込んでいく。
全員放り込んだあたりで、リーナがスタンライフルのケースを手に三人のところに戻ってきた。
「リーナちゃんもお疲れさん。」
「援護、助かったぜ。」
ヒューイとカイルの言葉に、いえいえと照れたように首を振る。
「嬢ちゃんもやるねぇ。おじさんビックリだよ。」
リリーの家の屋根と、ここまでの距離を目で見て、ガイザックもアイパッチを戻しながら感嘆する。道具の補正があったとしても、この暗闇で狙撃は見事なものだった。
「後はお任せしてもよろしいんですか?」
「おうおう、おじさんに任せておけって。おーい英雄殿ぉ、馬車二台あるから、一台頼むわ。」
また俺か! ってボヤきが聞こえたが、カイルとガイザックの二人で馬車を引いていく。
「俺たちも戻るか。」
「はい。」
ヒューイとリーナがお互い微笑み合うと、町の方へ歩き出した。
「あ、そうそう。」
不意にヒューイが振り返りざまに、銃を抜き、虚空に打ち込んだ。消音機のおかげで大きな音は聞こえないが、静かな夜には異音として感じられる。
その瞬間、今まで感じなかった気配が現れ、すぐに消える。
「ヒューイさん、今のは……」
「ま、当てる気は無かったしね。」
小さく肩をすくめると、リーナの背中を押して、帰路へと促した。
ホントはサウンドサプレッサーと書くべきだろうか、サイレンサーと書くべきだろうか。
でももうすでに表記ゆれ多いんだよなー 一度どこかで見直して訂正せんと。




