夕食に誘おう
今更ながら、リリーをぼくっ娘にしておけば良かったかな? と思いつつも、本当にそうすると、あざとすぎるので、まいっか。
残されたあたし達四人。
「えっと、リリー落ち着いた?」
「アイラ……」
色々衝撃的な展開に呆然としていたリリー。アイラは少し耐性ができたのか、復活が早かった。
じゃなくて。
アイラに声をかけられたリリーの目にじんわりと涙が溢れてくる。
「あたし…… 騙されてたの?」
雫が零れ、地面を濡らす。ジェルはこういうのが心底苦手なので、あからさまに後ろを向く。どうにかしてくれ、と背中が語ってるので、あたしが一肌脱ぎますか。
「あのね、聞いて。」
寄り添いあう二人に近づいて、こちらを向かせる。泣いているリリーと、もらい泣きしそうなアイラの目をジッと見つめる。
「リリー。あなたは騙されてたの。
あのヘラヘラした商人に言葉巧みに持ち上げられて、あいつらの酒代の為に汗かいて働かされてたの。」
「…………」
「ちょっとラシェル!」
言葉を失うリリーに、あたしをとがめるアイラ。でもあたしは止めない。
「まずはそれを認めて。何かの勘違いだったとか、本当は違うんだ、みたいな無駄な希望を持つような嘘にしないで。」
「「…………」」
A級捜査補佐官としては何一つ活躍できてないけど、それでもいくつかの犯罪を見てきたつもりだ。騙される、というのは騙した相手に何らかの好意を持つから騙されるのだ。だから自分が騙されたと知っても、その好意が判断を誤らせズルズルと引きずってしまい、最悪の場合はまた騙されるハメになる。
「で、そんなことしたあいつらは、酷い目に遭うわ。信じるとか信じないじゃない。そうなるのよ。」
「今から全速力で逃げるなら、さすがに難しいですけどね。」
ジェル的な修羅場が終わったのが分かったのか、こちらに身体ごと振り返る。まぁ、と前置きをする。
「あの手のタイプは、自分が悪いことしておきながら逆恨みすると見ましたがね。」
と、分かりやすく悪い顔をする。
「楽しみですねぇ。」
だいたいの用は済んだので、リリーも連れて「雄牛の角亭」戻る。数日何も食べてない、というなら夕飯を一緒にしよう、とアイラが呼んだのだ。
そしてまた町を横切って「雄牛の角亭」が見えてくると、香ばしい匂いがしてきた。あたし達には馴染みのあるものだが、アイラとリリーは初めてかも知れない。
不思議な香りがするのか、あちこちから人が出てきて、どこから流れてくるのか探しをしているようだ。
(おそらく)改装中のため休業、みたいなことが書いてある木の板が貼ってあるドアを開ける。すると香りが強くなったので慌ててドアを閉じて中に入った。
「よぉ、お疲れ。」
店内ではヒューイがこちらに背を向けて、テーブルをセッティングしていた。
「で、そちらのお嬢さんは?」
聞きながら、片方のテーブルに椅子を一つ追加する。無論、こっちは見てない。
「お、カイルも早いな。
リーナちゃん! もう出していいよ!」
(はーい!)
台所の方から声が返ってくる。
それと同時くらいに、遠くから足音が近づいてくるのが聞こえた。
お、ヤバいヤバい。
展開についていけないアイラとリリーを突き飛ばすようにドアの前から退かす。あたしがドアの正面になってしまうが、
「メシだーっ!!」
爆発のような音を立てて、入り口のドアが開く。開かれたドアはその速度と重量を恐るべき凶器として、か弱い少女を襲う!
「カイル。私じゃなきゃケガしてるぞ。」
「ああ、だから大丈夫だろが。」
ジェルがドアとあたしの間に入り込んで、背中でドアの強打を受ける。まぁ、ジェルの白衣じゃあ痛くも痒くもないので、あたしも無事だ。
「大体、ドアの前にのんびり立ってるのが悪いんじゃねぇか?」
「……注意してドアを開けろ派との永遠の論争になりそうですな。」
「そんなことよりもメシメシ!」
というやり取りを見ると、カイルがすっげー無責任で乱暴者に見えなくもない。ただ、どういう勘が働いてるのかは不明だが、こういうことでホントに怪我するような事態になったことは一度もない。アイラの時みたいにドアごとぶっ飛ばしてやろう、って時は当然違うが。
「お待たせいたしました。」
手押しワゴン(アイラとリリーは見たことが無かったので、また驚いていた)に鍋を乗せてリーナちゃんが店内に入ってきた。
すでにカイルはテーブルについて、今か今かと待ち構えている。もう香りが充満しているのでメニューに間違いはない。
カレーライスだ。
古来からあるメニューで、ライスにスパイシーなルーをかけて食べる料理だ。栄養バランスも良く、大量に配膳するのに向いていて、材料も色々工夫できる一品だ。
さっき食糧庫でお米を見つけたから作ったんだろうか? とはいえ、スパイスを調合したカレー粉はまだこちらじゃ見つかってないはずである。まぁ、手持ちのカレー粉で作ったんだろうけどね。
「牛ですが、カツも用意しましたので、仰ってください。」
「よっしゃー! リーナちゃん、俺は超激盛にカツ三枚な!」
「はい。」
ニコニコとしながら、大皿料理用の皿にライスを山盛りにして、その上に一枚カツを置き、それが見えなくなるほどルーをかけ、さらにその上にカツを二枚置いた。
結構な重量があるように見えるが、リーナちゃんには重たそうな様子はない。意外と力持ちなんだよね。
ヒューイは大盛カツ二枚。あたしとジェルとリーナちゃんは普通盛でカツ一枚。
「お二人はどうされますか?」
リーナちゃんに振られた二人は、ひそひそ顔を突き合わせていたが、食欲を刺激する香りには逆らえず、おずおずと自分のオーダーを言う。
アイラはあたし達と同じ。リリーはヒューイと同じ大盛カツ二枚だ。あたしよりも小柄なのに、なんともまぁ。
「「いただきます。」」
チーム・グリフォンでは、あのカイルですら先に食べ始めるような行事の悪いことはしない。全員席に着いてから食事だ。
「うめぇっ!」
食べ始めると相変わらず騒がしい。
まぁ、でもあたしにとってはちょっと辛いが、リーナちゃんのカレーは絶品である。カツもちょっとレアっぽいのがまたいい。
「熱辛い?!」
空腹だったのと、周りが美味しそうに食べるのを見て、リリーが未知の料理にも関わらず、スプーンでルーをすくって口に運ぶ。そりゃ辛かろうて。
「冷た! って、氷?!」
「これは、米と一緒に食べる料理なのね。確かに辛みはあるけど、米と一緒に食べるとマイルドになって食べやすいわ。」
アイラはリリーの失敗を見て、冷静にカレーライスを賞味している。
「このカツって料理も凄い。焼いてるように見えるけど、何か違う? 後でリーナに聞かないと……」
とはいえ、一度食べ始めたら、後は早い。二日ほど食べてなかったリリーは一気に食欲を加速させる。
「おかわり!」
「な、なにぃ! リーナちゃん、俺もおかわり!」
カイルも張り合うな。まぁ、リリーにも笑顔が戻ったので良かったとしよう。
こういう賑やかな食卓って、平和の証拠だよね。うん。
未来世界から見た現在の料理って、表現が難しいなぁ(ふと)




