お宝を探してみよう
「食糧庫、でしたっけ? ちょっと拝見したいのですが。」
「あ、はい。いいですけど……」
「リーナは仕立て直しを頼むな。スコッチは…… そこにいるな。」
ニャオ。
いつの間にかにリーナちゃんの膝の上にいた黒猫が返事をする。
「なら、一人でも大丈夫だな。」
一応「雄牛の角亭」は休業中になってるし、こんなまだ昼間だが、どんなアホが来るかも知れないので、短時間とはいえ、女の子ひとりにはさせたくないところだ。
まあ、ヒューイもカイルもすぐ外にいるわけだし、そこまで不安になることはないと思うが、念には念を重ねて、だ。
昨日も行った食糧庫にまた入る。
壁の隙間から僅かに光が入るとはいえ、窓のない食糧庫は暗かった。まぁ日の光が入りまくりなのは構造上問題があるだろう。
ジェルがポケットから何か取り出して、天井に投げると、明るい光が庫内に広がる。
もう何度も見てるから驚きもしないが、興味深げに天井の光を見つめるアイラ。
「……随分色々ありますな。」
穀物が入っていそうな麻っぽい袋に、籠に入った多種多様な野菜。天井から下がったフックに引っかけられた干し肉っぽいもの。昨日、だいぶ使い果たしたかと思ったが、まだまだたくさんある。
「でも、すぐ使えるような物はもうあんまりないのよ。それに、何かに使えるかな? ってあんまり知らない食材もついつい買っちゃったりしてね。」
あはは、と乾いた笑いをあげる。
「ふ~ん…… おや、これは?」
袋の一つを覗き込んだジェルが、中身を手にのせて見せてくる。って、これって米?
「あ、それね。穀物みたいなんだけど、ちょっと臭みがあって、どうやって食べたらいいか、微妙に分からなかった奴ね。」
「ほぉ。」
ジェルの声に何か感じ取ったのか、アイラが身体ごと振り返って詰め寄ってくる。
「え? 何? もしかして正しい食べ方知ってるの?!」
「まぁ、それは後程。と、これは……?」
なんか、ホントに奥から大根を取り出してきた。でも気のせいかも知れないが、白い部分がなんか太く、上から生えた葉っぱ部分が結構長い。
「それねー 生でちょっと食べてみたんだけど、妙に泥臭くて。なんか変わった味だったんで、使いどころが分からなくて。葉っぱもなんか苦かったし。」
「これはこの周辺で採れるんですか?」
アイラは気づいてないようだけど、ちょっとジェルの口調が変わった。
「そうよ。知り合いの農家さんが作ってるんだけど、この辺じゃ売れないらしくて。でも引き取ってくれる商人がいて、どうにかやっていけてるってさ。」
「ほほぉ。」
ジェルの声がちょっと剣呑な物に変わった。
「ちなみにその方は知り合いですか?」
「そうね。幼馴染でね、あたしと同じで両親がいなくて、一人で畑を頑張ってるのよ。」
「へぇ。」
「ジェル、どうしたの。さっきから。」
ただでも素っ気ないジェルが、いつも以上に素っ気ない。こういう時はちょっとムカついてる時だ。でも何に?
「面白いものをお見せしましょう。」
ジェルが大根を掴んで食糧庫を出ていくので、あたし達も後を追った。
キッチンに着くと、ジェルは葉っぱを切り落とした大根を洗って、まな板の上に乗せる。皮を厚めに切ってからサイコロ状に刻んでいくんだけど…… 思った以上に包丁使いが上手い。ちょっとショックだ。ジェルのくせに。
鍋にお湯を入れて、大根の角切りを放り込み、お湯が冷めない程度にヒーターを調整する。
「大根の水煮……?」
下味をつける様子もなく、食べられるのかどうか微妙に不安だ。アイラも同意見のようで、何をしているんだろう、という顔だ。
くつくつと煮える音が聞こえる。
「皆さん、何をされているんですか?」
リーナちゃんがキッチンに入ってきた。手にはおそらく完成したワンピースがある。
「リーナちゃんは?」
「はい、一着縫いあがったのでアイラさんに見ていただこうかと……」
と、アイラに元白衣を手渡す。
「えっと、着替えてきてもいい?」
「はい、どうぞ。」
ま、断る理由もないわね。
受け取ったワンピースを手に、食糧庫の方にある彼女の私室に向かうと、暫くして着替えたアイラが戻ってくる。
「ほぉ、なかなかお似合いですよ。」
白一色ではあるが、ボタンと大きなポケット、それに腰に巻いたサッシュがアクセントになって、シンプルながら地味にはなっていない。
これはリーナちゃんの腕と、それこそモデルの資質なんだろう。出会い方が衝撃的ではあったが、その時は相当荒んでいたのか表情が暗かった。それが一晩で一気に顔が明るくなったような気がする。そうなると、宿屋の看板娘としてハキハキした美少女っぷりが表に出てきた。そんな娘が真新しい服を眩しい笑顔で着てきたんだ。そりゃ、可愛くないはずがない。
「そ、そう?」
自分でも満更じゃなかったのか、クルリと回って、スカートの広がり具合を楽しんでいる。
「私は無粋なもので、女性を褒めるのは苦手でして。感想はご勘弁願います。」
と、ジェルは肩をすくめる。
まぁ、あんまり期待してないし、逆にそんなことを言うジェルはなんか違うと思う。それでも最初に一言あったからいいか。
「そういえば皆さん、どうしてこちらに?」
リーナちゃんの言葉で思い出した。なんかジェルが作ってたんだっけ。
ヒーターにかかった鍋を見つけて、首を傾げる。
「これは……?」
「ん? ああ、そろそろいい時間か。
……ヒューイ、カイル、ちょっと来てくれ。あとリーナ、お茶の用意を頼む。」
「はい。」
耳の通信機で外の二人を呼び、時間も手ごろなのでアフタヌーンティーにするようだ。
空いたヒーターにケトルを乗せてスイッチを入れる。その間にティーセットを用意する。出てきたのは変わった香りのハーブティだ。
「こちらで見つけた物ですが……」
広くなったキッチンに置いたテーブルに木のカップが並ぶ。ちょうど人数分がそろったところで、無駄にデカい足音が聞こえてきた。
「よぉ、久しぶり。って、アイラ、なんかいい服着てるじゃねぇか。見違えたぞ。」
「そうだな。よく似合ってる。」
一仕事終えたカイルとヒューイが戻ってきた。カイルは明け透けに、ヒューイはそつなくアイラの服を褒める。
「よく来たカイル。まずは手を洗え。」
「お、おう。」
ジャブジャブと石けんで手を洗う。
「次はその鍋の中身をここに入れる。」
「おう。」
ジェルがザルを入れて布を敷いた別の鍋を指さすと、カイルがさっきの大根の煮物をザルに流し込む。
煮汁が鍋に入って、布の上に角切り大根が残る。
「最後はその布を思いっきり絞ってくれ。」
「おうよ、任せろ。
……って、これ結構熱いじゃねぇか!」
驚いたような声を出すが、それくらいで済むあんたの方が驚きだよ。
「ったく、しょうがねぇなぁ。」
熱いって言った割にはそのまま角切り大根が入った布をギューッと絞る。
「こんなもんでいいか?」
「……相変わらず凄いパワーですこと。」
「鍛え方が違うんだよ、鍛え方がよ。」
ドヤ顔したカイルが鍋をヒーターの上に戻す。そして手を洗おうとして、手に着いた汁が気になって、ペロリと舐める。
「ん? 甘い?」
甘い、って……?
「まぁ、何となく気づいたでしょうけど、」
残った葉っぱを見せてくる。
そもそも大根自体あんまり見たことないが、何かが違うような気がする。
「こいつは大根ではなく、ホウレンソウの仲間であるビートです。別名はサトウダイコン。
その名の通り砂糖の材料になるんですが、そうなると変ですねぇ。」
なるほど、そうなるとなんで砂糖が高価になるんだろうか?




