服を調達しよう
ダラダラ感が否めない……
「ところでさ、」
ちょっと気になったことを聞いてみる。
「それ、なんでまだ着てるの?」
「え?」
何故かアイラは昨日からずっと、ジェルの白衣(量産型)を着ている。丈はともかく、胴回りは布を帯状に巻いてるし、肩回りは思いっきり捲って肩パットみたいになってる。それでもブカブカ感は否めない。
まさかなんかフラグ立っちゃった? 単なる白衣(量産型)なのに……
「あたしね、あんまり服無くて…… それにこの変な服、肌触りも着心地もすごくいいのよ。この布何なの?」
「……変な。」
常用している誰かさんがちょっとばかり傷ついたようだが、気にする必要もない。
アイラが着ているのはジェルがポケットから出したやつで特に変わったところはないのだが、本人が着ているのは防弾・耐衝撃・熱にも薬品にも強く、レーザーも通さないという心底不気味な一品だ。ちょっと重いけど、それでも普通の布みたいに裾が翻るから、不思議でしょうがない。……実際に着たことあるので、よく知ってます。
「ねぇ、リーナちゃん、」
「はい?」
何か書き物をしていたリーナちゃんが顔を上げる。そういえば、この世界だと書く物も書かれる物も不自由してそうだ。
「あの白衣、仕立て直せる?」
「仕立て直す、ですか?」
「そう。せっかくだから店に出る時の服ってことにしてさ。」
白だから清潔感もバッチリに違いない。
「分かりました…… 博士?」
「どうした?」
「白衣をあと二着ほどいただけませんか?」
「…………」
お、ジェルが絶句した。
あたしが言ったら皮肉や嫌味で返してきそうだが、リーナちゃんだとそんなことも出来んだろうに。まぁ、ちょっとだけそうなるんじゃないかな? と思って振ったんだけど、見事ドンピシャだったようだ。
「二着な……」
白衣のポケットをゴソゴソとすると、ポケットよりも遥かに大きい白衣が二枚出てくる。相変わらずどこからどうやって出てくるか謎だが気にしても始まらない。
「ありがとうございます。」
「あ、うん、そうだな……」
キラキラした笑顔の前にどこか歯切れの悪いジェル。その態度にどこか不安になるリーナちゃん。慌ててジェルがパタパタと手を振る。
「いや、リーナは何も悪くない。
何が悪いか、といえば……我々はどこで道を誤ったんだろうな。」
遠い目をするジェルにどこからどうツッコんでいいものやら。
あたし達二人が行く末を見失っている間に、ヒューイとカイルは午後の作業に。リーナちゃんは自分のトランクからソーイングセットを取り出すと、裁ちばさみでジョキジョキと白衣を切り始める。
「…………」
リーナちゃんが不安にならないように表情には出さないが、どこか切なそうにリメイクされる白衣を見つめるジェル。正直、どうでもいいが。
てきぱきと手が動くと、白衣がいくつもの布に裁断された。お次はハンディミシンでチクチクと縫い始める。型紙も何もないが、リーナちゃんの動きは正確だ。
少しずつ新しい服が完成してくるのが楽しいのか、嬉しそうな笑顔を浮かべて鼻歌まで聞こえてくる。
「仕方ありませんなぁ。」
小さな呟きが聞こえた。ジェルがリーナちゃんにダダ甘なのは今更だが、確かにあんな笑顔を見せられたら、甘くなるのも分かるような気がする。
「時にラシェルさん。」
ジェルがこっちを向いて、口元を歪める。あたしのことを「さん」付けで呼ぶときは、照れ隠しか嫌味を言いたい時だ。今回は無論後者。まぁ聞く気はこれっぽっちも無いが。
「後で覚えておいてください。」
あたしがそっぽ向いたのを見て、捨て台詞を吐かれる。とはいえ、二人してリーナちゃんの邪魔にならないように、ひそひそやってる時点で、ちっとも険悪じゃないいつものやり取りだ。……多分ね。
「いかがでしょうか?」
静かな争いが行われていたのを他所に、リーナちゃんが布から服に変わった白衣を掲げて見せてくれた。
さすがに仮縫いなのか、あちこち隙間があるが、それでもちゃんとワンピースの形をとっていた。
なんかこう、見かけは前を閉じた白衣みたいだった。全体的に細くして、ボタンや襟の雰囲気はそのまま。ただしワンピースなので、ボタンは飾りだし、前は開かない。ちゃんと女の子らしいスタイルになるように、腰回りは細くなっていて、そこから下は膝下くらいのスカート状になっている。
余った布を縫い直して、サッシュみたいにして腰に巻く予定だとか。
左胸と両腰にポケットがあり、使い勝手も悪くなさそうだ。
「あ、いいかも……」
アイラも気に入ったらしい。
白一色なので、華やかさには欠けるが、清潔感もあり、動きやすく肌の露出も少ないので、料理の時も安心だ。三着もあれば使いまわせるだろう。全自動洗濯乾燥機もあるし。
あ、でもあたしも「こちら」の服、少しは揃えないとな。




