食糧事情を検討しよう
「ところでよぉ。」
昼食後、ちょっとまったりとしていると、カイルが口を開いた。勝手な思い込みだが、こいつに食事と闘争以外の話題があるのだろうか。
「食糧事情、どうにかならんかなぁ。」
リーナちゃんが顔を曇らせ、ジェルとヒューイが表情を険しくする。
「待った待った待った! リーナちゃんは全然悪くない! 俺は無実だ!」
「「だろうな。」」
と、示し合わせたようにジェルとヒューイの雰囲気が戻る。
「ちなみにリーナ。この世界の食材を見てどう思った?」
「そうですね…… 一般的な野菜は普通にありましたが、やはり流通と保存の関係で長持ちしやすい物がほとんどです。
肉は豊富ですが、土地柄魚介類は塩漬けや乾物しかありません。」
そうねぇ、チルドコンテナとかないだろうしねぇ。
山の中だけあって、海は遥か遠くにあるらしい。
「カイルさんの言ったのはおそらく調味料のことかと。」
と、リーナちゃんが顔を曇らせる。
「味付けが基本的に塩しかありません。
その塩も結構な高級品のようでして、砂糖や油、香辛料などはもっと高級品です。」
「やっぱりなぁ……」
カイルがどこか悲し気にボヤく。
「そうねぇ、自分で食べる範囲ならともかく、店で使うにはあんまり高いものは使えないのよねえ。」
アイラがシミジミと言う。更に言えば、基本的にこの「雄牛の角亭」は宿屋なので、食事をウリにするにしても、そこまでコストはかけられない、というところだろう。
「というわけで、どうにかならねぇか?」
「あのなぁ……」
ミスター空気読めないの無茶ぶりは今に始まったことじゃないが、それを毎度毎度叶えるジェルも今に始まったことじゃないが。
「食材はともかくと、調味料か。」
「無理ねぇ。調味料や香辛料は外からくるから、どうしようもないわ。」
「それでも保存の関係上、塩や香辛料は必需品ですな。」
冷蔵庫も冷凍庫も無ければ、長期保存のためには乾燥させるか、塩漬けにするかのどちらかだ。そしてその両方に塩は勿論、香辛料もあるに越したことはない。
「そこでジェラードの出番だ!」
「勝手に決めるな。」
ブツブツ言いながらも視線を宙に彷徨わせてから、耳元をトントンと叩く。
「時にタイガー。地質調査はどうなってる?」
《うえぇ? 俺ですかい?》
「お前以外に誰がいる。」
《まぁ、そうですけどね。》
あたしたちは耳に着けてる通信機から声が聞こえるからいいが、アイラにはジェルが見えない誰かと話しているアブない人に見えかねない。
(ねぇねぇ、誰と話してるの?)
アイラがそっと耳打ちしてくる。
ジェルにしか見えない妖精さん、と言ったらこの場は面白そうだが、あとあと面倒だから正直に話しておく。
(これでね、)
耳の後ろに張り付いているCの形をした通信機を見せる。色も肌色だから、
(今遠くにいる味方と話してるのよ。)
(へぇ~。)
なんて話している間に、ジェルとランドタイガー――シルバーグリフォンの艦載機の内の一機。ごっつい装甲車だ――の会話が続いている。
《ああ、ありますぜ。》
「……妙だな。」
《ええ、妙ですぜ。》
ちなみにカイルが鉄板を張り付けたら、あんな感じだ。
「まぁ、いいや。どれくらいある?」
《数トンはありますぜ。しかも標本用に板状にしてありやすから、少し持たせますぜ。》
「ああ、百キロほど頼む。」
《了解!》
プツン、と通信が切れる。
「……というわけで、塩は壁材に使えるほど手に入りそうです。」
「壁材……」
何言ってるんだか、と半信半疑のアイラ。まぁ、そうだろうけど、今の会話がホントなら、それくらいには来るかもしれない。明日には届くかな?
「で、何が妙なの?」
一応聞いてみた。
「ん~ それに関してはもう少しデータが揃ったら説明します。『魔法』のルールがどこまで適用されるか、見極めたいので。」
よく分からんからいいや。
で、次は何だっけ?
「次は、甘味ですか……」
「できるならお菓子も作りたいですね。」
「お菓子?!」
リーナちゃんの言葉にアイラが喰いついた。
そうか、お菓子も貴重か。
というか、今のままだとリーナちゃんのお菓子が食べられないのか。それは大問題だ。
「ジェル、何とかしなさい。」
「そうよ! ジェラードさん何とかしてください!」
「そうだそうだ! 旨いもん食わせろー!」
女子連合軍に元祖大食い王が加わって目も当てられない状態になってる。ヒューイが少し離れたところで苦笑している。いや、あんたもリーナちゃんのお菓子は食べてるでしょ。
「……今初めて、この世界に来て心底後悔しておりますよ。」
ジェルが面白くなさそうに嘆息した。
うるせぇやい。女の子には甘いものが必須栄養素なのだよ。
「単純に考えると、蜂蜜か水飴か砂糖、ですかね。ただ、できるなら砂糖、それも白砂糖が欲しいところですな。」
「白砂糖! 王様でもめったに食べられないそうですよ!」
……おおぅ。
そんなもん、手に入るの?
素晴らしきスウィーツへの道は随分と険しそうだ。




