昼食にしよう
新しいキッチンに慣れてもらうためにアイラとリーナちゃんで昼食を作る。
最初は驚いていたアイラだが、便利さにあっという間に文明の利器の虜になってしまった。
「これはいけない……」
たっぷり使える水にお湯。しかも汚れた水はそのままシンクに流せばいいし、そのシンクもさっと一拭きで汚れ知らず。火力だってとろ火から強火まで自由自在。煙が出たって強力なファンが全部吸い込んでくれる。
更に便利な調理家電の数々があなたの料理の手間を省いてくれます! 全部合わせてお値段格安! てな具合だ。そりゃ堕落しかねない。
「リーナたちの世界、って皆こんな感じなの?」
聞かれたリーナちゃんが、ちょっと考え込んで表情を崩した。たぶん、あんまりしたことないから下手だけど、苦笑いをしたみたいだ。
「自覚していませんでしたが、いざ無くなってみると、いかに自分が便利な道具に頼っていたか痛感いたします。」
と言いながら、ジャガイモっぽいものの皮を包丁でするする剥いている。まぁ、あたしだと普通に指を切りかねない。ピーラーは偉大だ。
「……ちなみにラシェルは料理しないの?」
「どうしても、と言われればできなくはないけどー ね?」
「つまり作れない、ってことね。」
見解の相違、と思いたい。話を聞いてると、実はジェルも料理ができると知って、ショックを受けたのは秘密だ。
「で、昼は何作るの?」
こういう時は話題を逸らすのが一番。
「グラタンにしようかと思います。」
「グラタン?」
「はい、熱々で美味しいですよ。」
いや、それ以前にアイラが「グラタン」の存在自体知らない可能性が高い。
ジャガイモっぽいもの(いや、もうジャガイモでいいか)の皮をむき終わり、お湯を沸かした鍋に入れてゆでる。
と、食糧庫の方から箱型汎用作業機械が小さな樽を載せてやってくる。
「あ、ありがとうございます。」
樽を開けると、中には黄色い塊が見える。
リーナちゃんが黄色い塊を取り出して、フライパンで熱すると、その中に放り込む。って、普通にバターか。バターが溶ける香りが広がる。
「え? 油、じゃなくて……?」
バターが溶け切らないうちに篩にかけた小麦粉を入れる。
キューブが大量に来たことで、細かい作業を任せられるようになった。小麦粉を篩にかけたのもキューブの仕事だ。
バターと小麦粉をダマにならないように火にかけながら混ぜ合わせるとペースト状になるので、今度はそこに(たぶん)牛乳を注いで伸ばしていく。後は塩で味を調整、と。
ま、全部リーナちゃんがやったんですが。
「これで基本のベシャメルソースが完成です。後は……」
ゆでたジャガイモと(おそらく)タマネギ薄切りにしたものを用意したところで、リーナちゃんが手を止めて小首を傾げる。
「アイラさん、その、火に強い容器ってございますか?」
「はい?」
ちょっと待てよ。そういやぁコップも食器も木でできてたような。陶器ってもしかして貴重? となると、耐火ガラスなんて夢のまた夢だろうし。どうやってグラタンを焼く?
「……フライパンで作りますか。」
さすがにフライパンは鉄製だ。持ち手まで鉄製なので、大丈夫だろう。
タマネギと水で戻した干し肉を薄切りにしたものを炒めた後、一度皿に取る。フライパンを洗い、全体にバターを塗ったところにジャガイモとかを敷き詰めて、ひたひたになるくらいにベシャメルソースを入れる。そこにチーズを薄く削った物を載せて準備はできたかな? 何度も言うけど、あたしじゃなくてリーナちゃんなんだけどね。
「それではこれを焼きます。」
とフライパンを持ったリーナちゃんが裏口に向かう。
「?」
疑問符を頭に乗せながらアイラが後を追う。あたしもついていくことにした。
なるほどー。
建物の庭に、レンガで組んだ窯があった。
ピザとかパンとか焼ける奴だ。
すでにキューブ(さっきとは別の個体)が薪をくべて窯を温めていた。
キューブを労ってから、リーナちゃんがフライパンを窯の中に入れた。元々具には火を通してあるので、そこまで焼かなくてもいいはずだ。
ほどなく、チーズが焼ける匂いがしてきた。実に香ばしく食欲をそそる。
ゴクリと、隣と頭の中から唾を飲む音が聞こえる。……頭の中?
(美味しそうなのー ラシェルも食べてくれるんだよね?)
ルビィもあたしが食べたらわかるの?
(うん、今日の朝ごはんも美味しかったの。あんなフワフワなパン、なかなか食べられないの。)
それは良かった。見るだけだとしたら拷問に近いだろうに。
グツグツ、というか、プチプチとソースが焼ける音が聞こえてくる。異世界の人たちにとっての未知の料理はもうすぐ完成だ。
『いただきます。』
さすがにフライパンは一つしかないので、テーブルの真ん中にフライパンをおいて、それぞれが取り皿を使う形になった。あとは町で買ってきたパンを置いておく。
「うめぇ!」
騒がしいのはいつも通りカイルだ。何でも旨い旨い言いそうだが、意外とそうではないので侮れない。
「熱っ! ……すごい、初めて食べた味。」
アイラはアイラで味を確かめながら食べている。
「このソースは応用が利きそう。小麦粉とミルクは分かったから、あとはあの脂の正体が分かれば……」
(美味しい! 熱々で美味しいの! こんなの初めて食べたの!)
なかなか好評だ。こちらの世界の人たちの口にあって何よりだ。
「ん? あれ? 氷?!」
飲み物らしい飲み物が無かったので、レモンっぽい柑橘系の果物を入れた水に氷を入れて出したら、今度はそれにアイラが喰いついた。
あ、冷蔵庫すらないんだから、氷を簡単に作るのは不可能か。
「これが全部魔法じゃないなんて……」
……やりすぎたんじゃないだろうか。
今更ながら不安になってきた。




