準備を始めよう
遅れた…… すまぬ……
「聞く気は無いが、結構な訳ありなんだろ? どこか行く当てとかあるんなら別だが、ないなら後ろ盾の一つくらい持っていた方がいい。
脅すわけじゃないが、誰が倒したかなんて嗅ぎつけられるのも時間の問題だ。それが『冒険者』だったら、結構誤魔化せるもんなんだぜ。」
へぇ、この世界の「冒険者」って結構自由なのかな?
と、ガイザックさんがいきなり口ごもる。
「それに俺の勘だが…… あんたらは敵に絶対回しちゃいけねぇ、って気がするんだ。」
「いやですねぇ、我々は見ての通り平和主義なんですが。」
ジェルがそう茶々を入れると、ガイザックさんの口元にどこか皮肉めいた笑みが浮かぶ。
「ま、正義を謳うよりはマシだな。
色々言ったが、ホントに悪いようにはしないし、気が向いたらでいいから一回顔出してくれや。」
また来るぜ、と言ってガイザックさんは出ていってしまった。
「あ、」
不意にリーナちゃんが声を上げた。
何かを思い出したかのような顔をする。
「どうしたの?」
「はい…… ガイザックさんにお茶を出すのを忘れてました。」
うん、そこじゃない。
リーナちゃんの天然ボケで場が和んだところで、さて、とジェルが切り出す。
「冒険者ギルドの件はおいおい考えるとして、まずはこの『雄牛の角亭』の住環境を整えます。」
ジェルの腕のコンピュータから、空中に立体映像を投影する。
「まずは水回りですね。
幸い、このあたりは水に困っていません。地質調査をしたところ、地下水も豊富で、井戸が枯れる心配もありません。」
アイラが微妙に置いてきぼりだが、今は放置しておこう。
「水質は硬水に近いので、井戸にポンプと浄水器。水道に下水処理施設。それを稼働させるための電源を設置します。」
おお、敢えて言っては無いがアレもあるに違いない。
「材料はグリフォンにある物をメインで使いますが、建物用の木材がそれなりに必要です。
なのでアイラさんにお願いですが、お金はあるので、建築用の資材の調達を。荷物持ちはヒューイとカイルで。留守番の必要もないのでリーナもついていってくれ。」
ジェルの言葉に四者四様の返事が返ってくる。
「私とラシェルは、資材の受け取りに町の入り口に行くので、そんな感じで。」
へいへーい。
大雑把すぎる打ち合わせが終わると、二手に分かれて、あたしたちは「雄牛の角亭」を後にした。
「よぉ、町の外で逢引きかい?」
「どうやら死にたいようですね。」
「なんでや。」
バモンさんのからかいに、ジェルがボケて、あたしが(物理的に)ツッコむ。
「で、何の用だ?」
どう見ても外に出かけるような格好じゃないあたしたちに、バモンさんが改めて聞いていくる。
「荷物を運びたいんだが、外から来る荷物の扱いってどうなってるんですかね?」
「隊商がくるのか?」
「ん~ なんと説明すべきか……」
……ん? なんか向こうから来た?
なんか、人でも動物でもなさそうな物が近づいているような気が……?
あ、もしかして……
「わ、あれは何だ! 魔獣か!」
バモンさんが慌てて槍を構える。
「わー! ちょっと待ってちょっと待って!」
慌ててバモンさんを止める。原因のくせにジェルは傍観者を気取って、どこか生暖かい目で見ている。
殴るぞ。
「ああ、すみません。
あれが運び人でして。」
ジェルが指さす先から、四角い荷物を抱えた四角いものが地面を滑るようにやってくる。ちなみに、こっちの世界じゃあ無限軌道なんて分からないだろうなぁ。
下の四角いのは、シルバーグリフォンとかジェルの研究所で使っている、三十センチ四方の箱型汎用工作機械だ。普段は立方体で壁の中とか格納庫の隅に積んであるのだが、使うときにはキャタピラだのアームだのを生やして動き回るのだ。
汎用、だけあって、輸送や整備、清掃に工作まで何でもこなすナイスボックスだ。ちなみに何個も積み重なって椅子やテーブルにもなる。資材のこともあるが、今後のことも考えていくつか呼んだ、ってところだろう。
「……ありゃ何だ?」
まだ見たことないけど、この世界なら魔法で動くゴーレムとかそういうのがあるんだと思う。が、さすがに箱型の物を動かす、って発想はないかも知れない。
「私の作った…… 魔法の道具、みたいな物ですかね?」
「いや、仕事柄、変わったもん見ることは多いが…… 一応聞くが、危険はないんだろうな?」
最終的に十六体揃ったキューブが縦四個横四個で整列している。幸か不幸か、今の時間は町を出る人も入る人もいなかったのか、キューブの行列を見た人はいなかったようだ。いたとしたらちょっとした騒ぎになっていたかも?
しばらくキューブとあたしたちを交互に見て、大きくため息をつく。
「きっと、あんたがその気になったら、俺たちが許可出そうが出さなくたって関係ないんだろなぁ。」
「ははっ、そんなことはありませんよ。」
一番胡散臭い爽やかな笑顔を浮かべるジェル。ワザとやってるだろ、こいつ。
「……つまり、嬢ちゃん達がこの町の平和の最後の希望、ということか。」
悲壮感に満ちた顔をして、首を振る。
「ま、町に入るのはOKだ。
ただこれだけは言っておく。」
町の守護者としての顔を見せたバモンさんが、重々しく口を開く。
「もう手遅れかも知れないが、変なのに絡まれたら、俺たちか、ギルドのガイザックさんに相談してくれ。自分たちで解決しようとしないでくれ、マジで。」
「ふむ…… 善処しましょう。」
ジェルの返事は相変わらず不安に満ちたものであった。
しかも全然話が進んでない……(がくり)




