後片付けをしよう
全員で後片付けをし、流れ作業のように食器洗いに勤しむ。この世界には洗剤が無く、油汚れも謎の植物の汁みたいので洗っていたのはビックリだった。見かねたリーナちゃんがトランクに入っていた洗剤とスポンジでアイラに新たなカルチャーショックを与える。
とはいえ、水がめからタライに水を移して、その中で洗っているので、綺麗になった感じがしない。
汚れた水は裏口から庭の畑に捨てて、また水を汲む。水がめが空になったら、井戸に行って…… 無駄な力自慢がいるから、労働力には事欠かないが、今までの生活を考えるとあまりにも原始的だ。余談だが、洗剤は天然素材かつ生分解性があるので、自然にも優しい。ジェルのお手製なので、そこはかとない不安があるのだが、実のところ何もないのが微妙に悔しい。
それはさておき。
「ジェル…… しょーじき、色々欲しい。」
「まぁ、確かに。衛生的な問題を早急に解決すべきですな。」
腕のコンピュータから周囲の立体映像を投影して(またアイラに驚かれた)、ゆっくりと回す。
「ところで聞きたいのだが、いいかな?」
「あ、はい、なんでしょう?」
「土地はどこまで使えるのかな?」
「土地……ですか?」
ジェルが指を振ると、「雄牛の角亭」の立体図が小さくなって、町の地図へと変わる。目を丸くするだけのアイラに、図形に触れられることを説明すると、恐る恐る手を伸ばす。
「うわ。」
触ることができる立体映像なんて初体験だろう。それにあれは慣れてても苦手な人は苦手な独特の感触だ。
「う、わ、わ…… あ、でも嫌いじゃないかも……」
お、新たな扉が開いたか。
初めての技術だが、意外とアイラは適応性が高そうだ。きっとジェルのことだ。これから魔改造するんだろうし、そうなると未知の装置も使えるに越したことはない。
しばらく映像をくるくる回して楽しんだ後に、水平に戻して、じっと考える。
「この辺……までかな?」
アイラの指が触れたあたりに光点が灯る。
ちょんちょんちょん、と店の後ろ側の結構広い土地が指定される。
「……ふむ。」
ほかの人には分かりづらいが、あれはどこか満足げな顔だ。自分の要望する以上の広さがあった、ってことかな?
「ふむふむふむ。」
投影されたディスプレイとキーボードを前に軽やかにジェルの指が踊る。ディスプレイが文字で溢れるかと思えば消えて、また文字が溢れる。
こういうジェルの姿、って意外と……ね、悪くないというか何というか。うん、きっと無駄口を叩かないから、普段と比べるとマシに見える、ってことで。
「……?」
アイラも興味深げにジェルの作業を見ているが、途中で首を傾げる。
「……全然読めない。どこの言葉?」
あれ? ちょっと待って。
今まで全然気にしてなかったけど、なんで言葉通じるの?
「あたしの言ってること、分かるよね?」
「ええ、分かるわよ。」
全く違和感がない。でも文字は読めないという。どういうこと?
……まぁいいや、そのうちジェルがドヤ顔で説明してくれるだろう。
アイラと他愛もない話をしていると、片付けが終わったリーナちゃんがヒューイとカイルを連れて戻ってきた。
もう1時間もしたら日付が変わる。
あたしたちの世界では起きていても不思議じゃない時間だろうけど、たぶんこの世界では深夜も深夜なんだろう。
アイラも今日は色んなことが起きて、興奮と緊張で眠気も忘れているんだろうけど、もう限界だろう。
よく見るとリーナちゃんもどこかフラフラしているのを、ヒューイがジェントルに支えている。
「さすがに寝る時間ですな。」
お、ジェルが復活した。いつの間にかにディスプレイとかも片付いてる。
「忘れかけてましたが、一応我々は客なので、部屋に案内をお願いしたいですな。」
「あ…… すぐ案内します!」
アイラと出会ったときからずっと一緒にいたので、もしかして部屋用意されてないのかなーって不安があったが、そこはどこぞの白衣とは違って真面目なのか、朝の内に全部屋用意されていたらしい。
三部屋分のカギを持ってきて、二階に案内される。
「たぶん、寝られるとは思うんですが……」
大男の上から下まで眺めて、部屋の中をちょっと覗き込む。首を傾げながらもカイルに鍵を渡した。
そこから二つ三つ離れたまで進むと、廊下の左右にあるドアを指さす。
「こちらとこちらの部屋に二つずつベッドがありますので、ご自由にお使いください。」
それではごゆっくり、とランプを手に階段を下りていく。確か台所の奥に彼女の部屋があったはずだ。
カイルは全員分のトランクから、自分の分を外すと、じゃあな、と与えられた部屋に入っていく。ベッドに身体が収まるといいが。
で、あたしはリーナちゃんとで、ジェルとヒューイで一部屋、という考えるまでもない部屋割りだ。
「まぁ、とりあえず寝ますか。」
「疲れたろうから、二人ともゆっくり休んでくれ。」
ジェルが部屋の一つに入っていくと、ヒューイも後を追おうとして、足が止まる。
「どうかした?」
「えっと、その……」
自分でも無意識だったらしく驚いていたが、あたしたちも驚いていた。。
リーナちゃんの指が、名残惜しそうにヒューイの服の端をつまんでいた。
寝る前にもう一波乱あるの?
章をどこで区切るか悩む……




