事情を少し説明しよう
風邪はだいぶ収まりましたが、週末は80%くらい寝てました
人間って結構寝られるもんですねー
「まずは情報を整理しますか。」
あたし・リーナちゃん・アイラ・ジェルと四人で常識的な量のパスタを囲む。非常識な量のパスタは向こうのテーブルに放置しておく。大丈夫、余るはずがない。
「意味の分からないことを言うかも知れませんが、今は気にしないでください。まぁ、食べながらにしましょう。」
ちなみに向こうでうめぇうめぇと約一名がうるさいので、早く食べたかった。あたしたちは普通に、アイラは恐る恐ると食べ始める。
「これ…… すごい。」
アイラがリーナちゃんにそわそわ聞きたそうなのを見て、ジェルが小さく苦笑。
「申し訳ないですが、料理談義は後程。
とりあえず、この世界は我々がいたのとは全くの別世界のようです。」
「別の、世界、ですか?」
不思議そうな声を出すアイラがだ、あたしだって事前に言われてなければ同じだったと思う。
「ちょっと聞きたいのだが、この世界には魔法がある、で間違いないかな?」
「ええ、そうです。」
彼女の返事には「何当たり前のことを聞いているんだろう」というニュアンスが見て取れた。
「我々の世界には魔法がありません。
今天井に光っているのも、使い方さえ分かれば誰にでも使える『力』です。」
「え……?」
まぁ、あくまでも道具ですから、金銭的なものはかかりますけどね、とジェル。
「あのカイルの『鎧』も魔法ではない力で動いているものです。」
「はぁ……」
店内の隅に置かれた装甲服を見て、感心したような声を上げる。とはいえ、魔法だろうが、科学だろうが原理が分からなければ同じだろう。
「いずれ分かるとは思いますが、三日ほど前、凄い轟音とか揺れがありましたよね?」
「あ、はい…… って、まさか?!」
まぁ、これだけ言えばいくら何でも分かるか。何かに気づいた顔のアイラに、ジェルが無駄にドヤ顔をする。
「あれも、我々が乗っていた天駆ける船が思いっきり山に衝突したものです。」
さすがにこれは信じるのは難しいでしょうなぁ、とボヤくジェルだが、アイラはあたしやリーナちゃんが普通の顔をしているので、もしかしたら感が拭えないようだ。
「ラシェルが前に言った『大きな迷子』というのもあながち的外れではなく、今のところ我々が自分たちの世界に戻る方法はハッキリしていないのですよ。」
え? ちょっと待って?
「帰れ、ないの……?」
あたしが思わず出した声にジェルがちょっと失敗したような顔をした。
ということは本当なんだ……
言い方は濁してたが、つまりは現時点では戻る手段がない、ということだ。てっきり、シルバーグリフォンが山から掘り起こされれば帰れると思ったんだけど。
「…………」
ジェルが微表情の中に苦いものが混じる。
あたしが予想以上にショックを受けたのが分かったようだ。
そんなつもりじゃなかったんだけどさ。
「すぐには無理なんでしょ? でもどうにかするんでしょ?」
「まぁ、そうですがね。」
ひょい、とジェルが肩をすくめる。
「とはいえ、今日明日でどうにかできる状況ではないようで。
で、結構最初の方まで話を戻すと、それまで宿無し、ってわけにはいかないので、こちらの『雄牛の角亭』に是非ともご協力、というか取引願いたいわけです。」
「うん、大体わかった。
特に深い意味もなく、たまたま目についたからうちを頼ってきた、でいいのかな?」
なんかひどい言われような気がするが、それが顔に出たのか、アイラが否定するように両手を振る。
「違う違う。
両親が言ってたんだけどさ、そういう『偶然』を大事にすれば『縁』になるんでしょ?
それに助けてもらったのは事実だし。」
恩に着せるつもりもないけどね。まぁ、確かに「縁」になるかもしれない。
「それに、さっきのロックバッファローで先立つものも出来たようだし、長期滞在なんて上客逃がすわけないでしょ。」
ニコッとアイラが魅力的な笑顔を浮かべた。
「しまった。恩着せがましく値引きを要求すべきでしたか。」
「すんなよ。」
とりあえずツッコミを入れておく。
「ドアや店の修理代とか……」
アイラの呟きに、ジェルが背後のテーブルを振り返る。
「カイル! お前のせいで大損だ!」
「えぇ! 俺のせいか?!
いや、待て。なんか濡れ衣の予感がするぞ。誰かが俺を貶めようとしているのか?」
具体的に言うとジェルだがな。
「漫才はいいとして、ジェラード、誰か来る予定があるのか?」
ふとヒューイが入り口の方に目を向ける。
「ん? ああ、たぶん頼んでた奴だろ。」
ジェルが警戒する様子もないので、身体の力を抜くヒューイとカイル。って、カイルも外警戒していたのか。
「お~ 持ってきたぞ~」
バモンさんが手にデカい何かを持って入ってきた。
「肉か!」
カイルの目が爛々(らんらん)と輝く。
それだけじゃなく、アイパッチのおっさんや町の人たちが料理や瓶――酒なんだろうな――を持ってどんどん入ってくる。
「町の英雄様と呑みたいとさ。」
ま、俺もだけどな。とバモンさんがニヤリと笑みを浮かべる。
「お、おい、ジェラード!」
カイルがジェルにいいのか、いいのか? と視線を向けると、ジェルがへっと口元を歪める。
「英雄様は大変ですな。
……というわけで、大量のお客さんです。リーナ、悪いが人数が人数なんで料理の手伝いをしてくれ。」
「はい。」
「え? はい、あれ?」
リーナちゃんがバモンさんから肉の包みを受け取ると、台所へ入っていく。アイラも慌てて後を追う。
ジェルに言われて、台所から木のカップを持って行ってはあちこちのテーブルに置く。置いたそばから酒が注がれて、次々に乾杯の声が聞こえてくる。
なし崩し的に宴会が始まった。




