部屋の外に出よう
雪の降る時期になってきましたが、なかなか雪が降りません。
悪いことは言いませんが、良いこととも思えずに。
とりあえず、寒くなってきました。
ジェルがドアを睨むように視線を飛ばすと、入り口のロックが解除されたのか、ずっと待ち構えていた女騎士のソフィアが転がるように室内に入ってきた。
「ひ、姫様は?!」
寝台に駆け寄り、色を取り戻したルビィを見て、安堵でその場に崩れ落ちる。
「ひめさまぁ…… ソフィアはしんぱいいたしましたぁ……」
寝台の横に移動すると、涙声であたしの握っている反対側の手をとり、ひざまずいてその手を顔に当てる。
「ソフィア……」
ずっと寝たきりだったせいか、声が少し掠れているが、思ったよりもしっかりしていた。
「ソフィア様、姫様の御召し物を……」
いつの間にかに現れたメイド長(らしい人)がメイドさんを二人連れて…… あれ? もっといなかったっけ?
「姫様がお着換えしますので、殿方は退出願います。」
そりゃそうだ。
残ったメイドさんは入り口で王子やギルさんが入ってくるのをガードしている。
無言の圧力に押されジェルが出ていこうとするので、一人残されても困るのであたしもついていくことに。
廊下に出ると、そわそわとした王子とギルさんが待っていた。あたし達の姿を認めると、二人で視線を交わしてから大きく安堵の息をついた。
「ギル、お前はすぐに医師を手配しろ。俺は親父とお袋のところに行ってくる。
……あ~ お前らは、その、落ち着いたらメイドたちに聞いてくれ。悪いようにはしないはずだ。」
と一方的に言って、あたし達を置いて二人は走り去っていった。ポツンと残されてたわけだが、どうしよう。
「あ、そうだ。」
ジェルが思い出したように手をポン、と打つ。と、その場に崩れ落ち、横座りになってよよよと泣き崩れる。
「初めてだったのに……」
一瞬何言ってるか分からなかったけど、意味に気づいて自分でも分かるくらいに顔が紅潮する。
あ、あ、あたしだって始めてだったのよ!
ホントのこと言えば、相手はともかく、もうちょっとロマンティックというかさ、シチュエーションとかさ…… あたしだって女の子よ。色々夢見てたっていいじゃない。
あたしの空気が変わったのに気づいたのか、ジェルも顔色を変える。
「すみません。少し悪ふざけが過ぎました。」
ゆっくりと――あれ? ジェルにしてはゆっくり過ぎないか?――と立ち上がり、凄い申し訳なさそうな顔になる。
「ラシェルだって私みたいな……」
「それ以上言うな。」
ジェルの唇に指を当てて言葉を止める。
「あたしは後悔していない。」
「…………」
あんまり卑下されたらさ、あたしが切なくなるじゃん。自惚れろ、とは言わないけど、もう少し自信を持って…… いや、やっぱりいいや。
あんまりねー 最近ジェルの良さに気づいた娘が増えてきてねー もうあちこちで女の子助けすぎだよ、もう。
「とりゃ!」
なんか乙女心でムカついたからチョップした。どうせ効かないし。
なんて思ったら、手に予想外の衝撃。
あれ? ジェルが避けなかった……?
ふと手の先を見ると、ジェルが俯き加減で頭を押さえていた。……あれ?
「…………」
声は出てなかったが、口がわずかに動いたかと思ったら、
ジェルがその場に崩れ落ちた。
え……?
あれ? なんで……?
「!」
ルビィのことがあって忘れてたけど、ジェルから吸収した「何か」をあたしを通してルビィに注ぎ込んだわけだが、その変換効率はそんなに良くなかった気がする。
ということは、ジェルはルビィを回復させるためにどれだけの「何か」を消耗したんだ? ついでにあたしが消えてしまわないように「何か」を補充していたに違いない。
そうだとしたら……
「ジェル!」
倒れたままピクリともしないジェルの上半身を起こす。意識が無いのと体格差でやけに重い。
呼吸が荒い。妙に汗をかいている。
身体がガクガクと変な痙攣をしている。……そうだ。前も見たことがある。体力を急激に消耗したときにこんな状態になったっけ。
そうじゃない!
マズい! マズいよ! このままじゃあジェルが……
「誰かぁっ! ジェルが! ジェルがっ……
誰か助けてぇ!!」
あたしには助けを求めることしかできなかった。
どれだけ喚いてたか分からないが、不意に肩をポンと叩かれる。
「ラシェル様。ジェラード様を休ませますのでこちらへ。」
黒髪をおかっぱにしたメイドさんと、金髪を頭の上でまとめたメイドさん。そんな二人が、あたしの左右に座っていた。
あ、たぶん今あたし泣いてる。泣き顔を見られたくはないが、今ジェルの上半身を両手で支えているので手が離せない。
「「失礼いたします。」」
ハモりながら頭を下げると、二人がかりでジェルの上半身と足を持って、ひょいと持ち上げる。
「「こちらへ。」」
成人男性一人の重さを、小柄な――あたしよりも年下くらいの――メイドさん二人が軽々と運んでいく。涙をぬぐいながら慌てて後を追った。
正直、城のどこにいるのかサッパリ分からないが、一つ客間と思われる部屋に通された。中には別のメイドさんがいて、ベッドのシーツをめくると、最初の二人がテキパキと靴と白衣を脱がせて、ベッドに横たえる。白衣を持った時に一瞬その重さに手が止まるが、そこはプロ意識か、気にした様子も見せずにベッドの足元に軽く畳んで置く。
「今、ギルバート様を呼んでまいります。」
元から部屋にいた一人が足音も立てずに外に出ていくと、残った二人が重そうな椅子をベッドサイドに据える。
「「少々お待ちください。」」
ペコリと頭を下げると、壁際に移動して風景の一部になる。
やや呆然としながらも、用意された椅子にポスンと腰を下ろして、あたしは青白くなったジェルの顔をジッと見つめていた。
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