お姫様を助けよう
うわー 長く書いたなー と思いつつ、思ったよりもそうじゃなかったw
魔力というのは魔素を燃料として発生するエネルギーらしい。で、生物の体の中では魔素が魔力に変わり、魔力が魔素に戻る、という循環を常日頃繰り返しているそうだ。魔法を使いすぎるなどして起きる「魔力切れ」というのは、実は体内で魔素と魔力の変換サイクルが崩れることによる不調らしい。
魔力は血液に沿って体内を巡るため、血液が集まる心臓、比較的皮膚が少なく血液が集まる手と足、そして粘膜のある口と……性器が放出しやすいポイントだそうだ。
放出しやすいということは、逆に吸収もしやすいということにもなる。
で、今あたしはルビィと手を繋いで「何か」吸い取られてて、それと同時にジェルの手のひらと、身体の前面(心臓)あたりから「何か」を吸い取っている。
で、今のところ、収支が思いっきりマイナスなので「何か」をルビィに吸いつくされて、消滅の危機です。
今危機的状況なせいか、思考速度が凄い上がっている気がする。というか、はたから見たら「余裕あるな、おい」って感じだ。
で、どうにかする手は思いついたんだけど、それを実行するには、ちょっとどころじゃない思い切りが必要だ。
いや、本気で迷っている暇はない。
あたしだけがどうにかなるならもう少し悩んでもいいが、今はルビィの命がかかっている、んだけど、ホントに悩むのよ、乙女としては。いやマジで。
あー あー あー!
分かったわよ、やるわよ!
声を出す余力も無いので、繋いでいる手を下に引っ張る。
あんまりハッキリ分かられても困るけど、あんまり、それこそ朴念仁過ぎるの困る。
色々生命力的なものを吸い取られて立ってるのも辛いのだが、そこはジェルが支えてくれてるので、まだ立ってられるわけで。
顔を上にあげると、少しかがんだジェルの顔がすぐそばに見えて。不思議なことに視界が霞んでいるはずなのにその顔がなんかハッキリ見えて。眼鏡の奥の黒い目が色んな感情で揺れているのも分かった。
その中には不安に心配、恐れや怯えが見て取れて、今更ながら大事にされてるな、とは思ってしまう。あたしの方の気持ちがどうかは分からないが、ただ一つ言えるのは、
これから行おうとしていることは、ジェル以外にはきっとできない。
(ジェル……)
目で訴えてみる。たぶん涙目っぽくなっているから、向こうからはどう見えるだろうか。とりあえずあたしも決めたから、ジェルも覚悟を決めて欲しい。
勢いじゃなく、自分の意思で力の抜けた身体を動かして、わずかに背伸びをする。
もう諦めたのか、もう受け入れるのか、ジェルが目を閉じて顔を傾けて近づけてくる。こっちから行く予定なので、ギリギリまで照準を定め、目を閉じる。
そしてあたしは――
――ジェルと初めてキスをした。
なーんて! ちょっと待った! 何よこれ!
いきなりパニックです。いや、さっきまでもそうだろ? と言われればそれまでなんだけど、なんかこう、もっとアクティブにパニックです。
昔々のコミックにキスシーンで「ズキュウウウン」なんて擬音が着いてて、そんなわけないだろ、って思ってたけど、今がその「ズキュウウウン」状態だ! しかもあたしから!
なんでこうなった。
いや、確かにルビィに色々吸われて、その分をジェルから補充しようとして、効率よくするために、口の粘膜による接触を試みたら、強炭酸を一気に注ぎ込まれたような衝撃。
……お恥ずかしい話、こーゆーことは初めてで、比較対象が無く、普通なのかどうか分からない。
いや、普通なわけあるかい。
あたしの方でこうなんだから、ジェルの方だってなかなか大変だと思うが、なんか落ち着いているというか、なんか動じてないように見える。ちょっと悔しい。
今のあたしはおそらく変換器みたいなもんだろう。それも変換効率の悪い方だ。
ジェルから「何か」を吸収して、それをあたしの中で変換して、ルビィが吸収しているんだろう。
……え? ちょっと待って。
変換効率が悪い?
それなら今ジェルは……
恐ろしい考えが脳裏をよぎって、思わず手を振り払ってジェルを突き飛ばそうとするが、ここぞとばかりにジェルが放してくれない。
「バカですか。」
一瞬口を離して、辛辣にそれだけ言うと、再びあたしの唇をふさぐ。
手慣れてる、かどうかは分からん。
でもなんかこう、優しく、それでいてどこか力強く抱きしめてくれて、何というかクラッとくるというか……
ジェルのくせに。ジェルのくせに。
ジェルの…… くせに。
いつもはひねくれ者で、面倒くさがりで、意地悪で、人使いは荒いし、秘密主義で、悪趣味で。
なのに、なんでこんな時に限って優しいのよ!
これあれでしょ? ジェルだってヤバいでしょ? しかも、最悪の状況になってもあたしだけは助けられるんでしょ?
もういいよ、分かった。というか、分かっていたはずだ。ジェルはこういう奴だって。
しかし、いつまでこうやっていればいいんだろ。未だにルビィから吸われる感覚が…… あれ? なんか弱くなってきている? もしかしてもうすぐ終わりそう?
なんか状況が状況なんで目を開くのはためらわれるので、嵐が収まるのを待った方が良さそうだ。
正直、今の状況を外から見られたら、何とも表現しづらいだろう。ジェルがドアをロックしておいて良かったと言うべきか。
長いのか短いのか。息苦しくなってないのでそんなに時間は経ってないと思われる。自分から吸われる感覚が消え、ジェルから吸うような感覚も収まった。
どちらからともなく離れて、名残惜しむかのように手と指が離れる。ジェルがプイとそっぽを向く。まぁ、これは照れたり恥ずかしかったりした時のいつものクセみたいなもんだ。で、直後にその理由をもっともらしくでっち上げるところまでがワンセットだ。
「まずはルビリア姫の容態を。峠を越したようでしたら、外の人を呼ばなくては。」
確かにそうだ。
今もルビィと繋がれた手に目を向けると…… そこには向こうが透けない一人の少女が横たわっていた。
閉じられたまぶたが静かに震え、ゆっくりと開かれる。その奥にはそれこそルビーを思わせるような澄んだ赤い瞳が輝きを取り戻していた。
状況が分からずに、あたしが握っている手をわずかに握り返してくる。
「…………」
ゆっくりと首を傾けて、あたしの方を確認すると、その深紅の瞳が驚愕に見開かれた。
息を吸う音が聞こえて、震える唇が恐る恐る開くと――
「……ラシェル?」
と、あたしの名前を口にした。
え~と、本編でも登場してないラシェルとジェラードのキスシーンです。
いやー やっぱり書くの緊張します。特に一人称視点で書くのは初めてなので、どうしたものやら、となかなか大変でした。
お読みいただきありがとうございました




