まずはやってみよう
……おかしい。時間に余裕があるはずだったのに。
あ、そういえば、人物紹介で2話分使っているので、今回が200話目です。
目の前に半透明になったルビリア姫――いや、ルビィが横たわっている。
わずかに胸元が上下しているので生きてるのは間違いないが、生命感が全然感じられない。このまま命の炎が消えてしまいそうだ。
「何をすればいいの?」
「う~ん…… することは単純なんですよ。
彼女に接触してください。」
は?
「ギルバートさんの言ってた『魔力の譲渡』も方法論としては間違っていなかったが、彼女に足りないのは『魔力』ではなく『存在の力』と言うべきものかと。」
「存在の力……」
「おそらくラシェルはルビィさんは親和性というか、何か繋がりがあると考えられます。」
ここでジェルが指を一本立てる。
「可能性としては三つ。
一つ目はラシェルが触れても何も起きない。
二つ目は触れたショックというか何かでルビィさんが目覚める。」
指を一本ずつ立てながら説明をする。
「そして最後、一番可能性が高く、一番危険が考えられるのは、触れた瞬間に何かしらの吸収行動が行われることです。
この前のように魔力枯渇で倒れるくらいならいいですが、それこそラシェルの『存在』をも奪われるようなら……」
「うん、分かった。あたしも消えちゃうかも知れない、ってことね。」
あたしが気負いもなく言ったから、ジェルが「ホントに分かってるんですか?」という顔をする。
消える、というのがどんなことか分からないが、死ぬのとはまた違うのだろうけど、そもそも純粋に「怖い」。
悪いけどあたしは周りがちょっと凄くて異常なだけで、普通の女の子だ。何も力が無いし、何も出来やしない。
それでも自分よりも幼い女の子がそんな「怖い」目に遭うのを見過ごせないし、自分でどうにかできるかもしれないなら、なおさら逃げるわけにはいかない。
これが「普通の女の子」としての意地だ。
ジェルが手を伸ばして制止しようとするのを無視してルビィに近づく。
何か引かれるような感覚がする。意識があるようには見えないが、もしかしたらあたしを呼んでいるんだろうか。
「ラシェル……」
珍しく心配げな声のジェルの声が背中にかかる。確かに珍しい。いつもは何があっても最後はジェルたちが力技で解決していた。でもこの剣と魔法の世界で、始めてジェルの小細工も力技も通用しない事態だ。もしかしたらもしかするかもしれない。
(それでもジェル……)
ルビィにかけられたシーツを少しめくる。うっすらと向こうが透けて見える腕が見えた。
「よし、」
自分を鼓舞するように声を出すと、一度深呼吸。チラリと後ろを見ると、ジェルがいつものように佇んでいた。……たとえあたしに何があったとしても、後はジェルに任せておける。なんて悲観はしていない。
(信じてるからね。)
ジェルならどうにかしてくれる。それだけだ。
透き通っているために精巧なガラス細工にも見えるその肌に手を近づける。思いっきり触れたら壊れてしまいそうな儚さで、恐る恐るとなってしまう。
ぱちっ、と乾燥した日の静電気みたいな感覚が手のひらを走る。弾かれるんじゃなく、何か引っ張られているような気がする。
いや、ホントに引き寄せられている。
色々考えていて、一瞬緊張感が切れた。
次の瞬間、ギリギリまで近づけていた手が、引き寄せられてルビィに触れた。
マズい!
とにかく全身が危機感を発してる。本能はすぐに離れろ、と言ってるが思いっきり無視する。
手のひらに穴が開いて身体の中身がごっそり持っていかれるような、全身から血を抜かれて身体を冷えてくるような、今まで経験したことない感覚。
どう考えても逃げなきゃヤバいんだが、でも手を触れたところのルビィの身体に色が戻ってきているのを見ると、もう少し頑張ってみたい。
「ラシェル!」
正直、視界もぼやけて音も聞こえづらい。身体の感覚も薄れてきている。それでもジェルの声や、肩に手をかけたのは分かる。
……あれ?
ジェルに触られているところが、なんかじんわりと暖かいというか…… あ、なんかこの感じ、記憶にあるぞ。そんな昔じゃなくてつい最近……
思い出した! そうだ、あの魔獣がわんさか来てルビィと一緒に「魔力」の行先を見ようとした時だ。二人で魔力を振り絞って、それでも見つからずに魔力切れで倒れそうになって、ジェルが支えてくれて…… あの時も意識が朦朧としていたけど、ジェルの手から何かが伝わってきて、もう一息頑張れたんだっけ。
あー 待って待って。
今すっごいピンチなのに、色々と思い出してきた。
多分今あたしはルビィに何か吸収されているんだろう。で、それはおそらく魔力のやり取りと同じようなプロセスなんだろう。
そうなると効率がいいのは確か…… 魔力は心臓かどこだかから出て、手や足から吸収や放出しやすいんだっけ? ルビィに触れてるのも手のひら、ジェルの手もあたしの肩に触れてる。
それなら、と空いてる手でジェルの手を握る。しっかり離れないように指を絡めるような繋ぎ方になってしまうのは緊急時なので考えている余裕はない。
手のひら同士が触れたためか、ジェルから伝わってくる「何か」の流入量が増えた気がする。ああ、でもまだ足りない。ジェル、気づけ。
「失礼。」
ジェルが手の位置に注意しながら身体の位置を変えて、あたしを正面から抱きしめる。とりあえず緊急事態だから許す。
抱き合う形になって心臓の位置が近くなり、ジェルの身体の前面から「何か」が伝わってくる。更にあたしと繋いでいない方の手を背中に回し、心臓の辺りに当てる。ポンポン、と軽くあやすように叩かれて少し安心感が増す。
まだ何とか見える目でルビィを見ると、あたしの触れた右腕の部分がハッキリ見えてきた。思い切って触る位置を変えて、彼女の手を握る。
「……!」
マズい、選択を誤ったかも知れない。
今までの比じゃないほど吸われる量が増えた。ジェルから受ける分よりも多い。
このままじゃあたし消えちゃう!
今から触る場所を変えるか? いや、それはダメだ。多分時間がかかりすぎたら、たぶん共倒れになる。
「ラシェルっ!!」
あ、ホントにマズいんだ。ジェルの切羽詰まった声が薄らぼんやり聞こえてくる。抱きしめられているはずなのにあんまりそれも分からない。ジェルが戦闘態勢のように身体を緊張させるが、それを止めるために声は出ないが、頭を振ってその意思を伝え……
あ、そういえばある。最後……というか、最後から二番目の手段?
もう緊急事態の三乗くらいなんで手段は選んでられない。たぶん必要なのは思い切りと覚悟と、ちょっとした勇気かも知れない。
あたしはその「最後から二番目の手段」に賭けることにした。
お読みいただきありがとうございました




