ルビィと再会しよう
いちおー 山場の一つが近づいてきています。
自分のテンションが耐えられるか否か!
……まぁ、書こう。
小走りで石造りの建物の中を進んでいく。
先頭がゴルディウス王子たちであたし達が続き、後ろからメイド軍団がついてきている。
気にしちゃいけないと思うが、メイドさん達は直立から少し前のめりになった態勢でティセットやお盆を持って、ついてきている。足元は長いスカートのせいで見えないので、地面を滑っているように見える。どういう走り方なんだろうか。
いや、そんなことを考えてる暇はない。
時折、鎧姿の兵士を見かけるが、前を走る王子の姿を認めると、壁際に避けて敬礼らしいポーズで直立不動になっている
結構ややこしく走りながら――後で聞いたら、攻め込まれても時間を稼げるようにややこしく作っているそうだ――、ってそういえばゴールがどこかあたし知らんぞ。
「何か感じませんか?」
「え?」
ジェルに言われて、よく分からないけど集中してみる。
……あ。
何かに「引かれる」ようか感じが前方から感じられる。あそこにルビィが……?
「もう少しだ。」
王子の声が聞こえる。
物静かな中を足音と、ソフィアの鎧の音だけが響く。些細なことだが、ジェルの足音はしない。たまに数ミリ浮き上がってるんじゃないかって気がする。
そして、程なくして一つの扉の前で王子の足が止まる。
「ここだ。」
うん、確かにこの扉の向こうにあの子がいる。弱々しくだが感じられる。
ギルさんが扉に触れながら何かを唱えると、扉を覆っていた何かがパンと弾けるような感触があった。
ゆっくりと扉が開いた。
扉の向こうには、どこかシンプルかつ高価な家具を取りそろえた部屋で、あちこちに年頃の女の子らしさが見える。
が、現在室内の調度品は壁際に集められていた。
その代わりに部屋の中央に豪華な天蓋付きベッドが置かれ、その下の絨毯を剥がされた床には円形の複雑な文様――魔法陣が描かれてあった。
「!」
言葉が出ない、というのはこういうことだろう。
ベッドにはこの部屋の主であるだろう金髪の少女――ルビリア姫が寝かされていた。何かしらの薄い生地がかけられているが、裸の肩が見えるのでめくってはいけない状況と思われる。
が、それ以前に、
「……向こうが透けて見える。」
「そうだ。」
あたしの言葉を継いでギルさんが口を開く。
「二日ほど前…… それこそ、あの騒ぎの直後に急に容態が悪くなって、身体が透けるようになったそうだ。」
二日前…… ルビィがあたしにお別れを言ったときか!
「俺の見立てでは、魔力で身体が構成されている『生物』の魔力が枯渇すると、このように存在が希薄になってから消滅する。それに似てはいるが……」
ただ、ルビィは普通の生身の肉体を持っているから、それには当てはまらないはずだが…… あ、そうか。
「自分の存在が代償……」
「……なるほど。」
ふと口を突いて出た呟きにジェルが一瞬思考モードに入ったが、すでにいくつかある想定の一つだったのか、すぐに復旧した。
「とりあえず聞き流してください。
まず、この現象を我々の世界の『法則』では説明できません。ですので、そこには期待しないでください。」
「それじゃあ!」
悲痛な声を上げる姫直属の女騎士ソフィアだが、ジェルがそれを手で制する。
「色んな予想を踏まえた上での仮定ですが、おそらく魔力の譲渡は行ったのですよね?」
「無論。」
「でもさほど効果が無かった、と。」
「そうだ。魔法使い一人分の魔力を注いだが、ほとんど反応が無かった。」
「なるほど、というかやはり、ですか。」
納得したような感じのジェルにあたし以外の視線が集中する。
「少し調べたいことと確かめたいことがあります。少しラシェルと二人きりにさせてもらえませんか。」
「「「…………」」」
王子とギルさんとソフィアが黙り込む。
「何をするか、は教えてもらえないのか?」
「申し訳ありません。確証も無い上に、危険が伴うので言えません。」
「……誰が危険なんだ?」
「私は、安全だと嬉しいですな。」
やや感情を消した声で肩を竦める。
ということは、危険なのはあたしとルビィ、ってことか。ある程度は覚悟の上だったが、ジェルの口からそう聞くと、ちょっと気が重くなる。
「そうか。」
「それと、もしも最悪の事態になったら、ルビリア姫を見殺し、もしくは私が手をかけるかもしれません。」
「!」
ジェルの言葉にソフィアが反射的に腰の剣に手をかけて、どうにか思いとどまる。
「王族殺しは一家郎党死罪だな。」
「生憎と天涯孤独の身でして…… その際は全力で逃げます故。」
「分かった。」
重々しく王子が頷くと、他の人たちに退室するように促す。ギルさんとメイド軍団は素直に従うが、ソフィアがやはり心配故に食い下がった。それでも王子の言葉には逆らう訳にいかず、部屋の扉の前で待機して異常があればすぐに入る、というところまで譲歩してくれた。
「「…………」」
部屋の中があたし達とルビィだけになって、急に静かになる。壁も扉も厚いのか、外の音も聞こえない。
白衣のポケットから何かを取り出して軽く放り投げると、扉に張り付いて広がり開かないように簡易ロックとなる。
「一応、私の指示なしでロックは解除しないようにだが、異常事態があった場合はお前の判断に任せる。」
《了解。》
パンサーに指示を飛ばしてからいくつかの観測用のドローンを飛ばして、ルビィの周りに配置する。
「とりあえず透過率九〇パーセント程度、ただ、皮膚が透けているのに内臓が見えないということは、外観のまま透けている、ということですね。重量もおよそ十分の一。ただ、生命活動は未だ続いてますが……」
ある一点を超えたら一気に崩壊する可能性も否定できない、と。
「どう、するの?」
「さっき王子にも言いましたが、ラシェルが危険になるくらいなら、私はこの国や世界を敵に回してもよろしくてよ。」
最後にエセお嬢様言葉になって茶化しているが、間違いなく本気だろう。だから先に釘を刺しておく。
「ジェルの言いたいことは分かった。
けど、危険かどうかを判断するのはあたしがする。ジェルはホントにギリギリまで我慢して。」
真正面から眼鏡の奥の目を見つめて、そう宣言する。ここでうん、と言ってくれないと多分困る。
しばらく見つめ合いというか、睨み合いが続く。
「一番引いてほしい時に引いてくれないですな、ラシェルは。新手の嫌がらせですか。」
ジェルの身体から力が抜けて、諦めのため息が漏れる。
「分かりました。残念ながらラシェルの意思を尊重しましょう。」
ジェルからそこまで言葉を引き出したところで、あたし達は再びルビィに向き直った。
お読みいただきありがとうございました
……あれ? 今回で200話か?




