王城へ向かおう
……おかしい。間に合うかと思ったのだが。
が、どうにかハロウィンイベントに間に合った!(←それが原因だ)
「とにかく来い!」
ギルさんはあたしとジェルの腕を掴むと、早口で呪文を唱える。
「ちょっと城へ行ってきますんで、グラディンさんに伝えてください!」
ジェルの声が届いたかどうか。魔力の光があたし達を包み込み、そのまま上空へと飛ばされた。
下で狐の尻尾と耳を逆立てて何か叫んでいるカエデが見えたが、その姿はすぐに小さくなっていった。
なんかすっごい昔からあるRPGで町から町へ移動する魔法が、空に舞い上って飛んでいくので、天井のある室内や洞窟内では頭をぶつけるものがあった。
まさかまさか、VRなんてもんじゃなく、実際に体験するとは思わなかった。
光の繭に包まれた感じで王都の空を飛ぶ。本当に二点間の移動用の魔法なのか、急角度で上昇し、鋭角ターンで王都の中心部――そう王城へと「墜落」していった。
すごい速度で飛ばされている割にはGを感じないのが魔法たる所以なんだろうか。
「……なんかズルいですな。」
科学者であるジェルがあたしを抱きかかえながら不満げにボヤく。どんな時も物理法則との戦いではあるのは分かるが、普段からズルの権化であるアンタが言うのはどうなの?
「なんか失礼なことを考えてますな。」
知りませーん。
「着地するぞ。衝撃はほとんどないから無駄に驚くなよ…… って余裕あるな、お前ら。」
そうかねぇ、と思わず顔を見合わせる。正味飛行時間は一分くらいだろうか。あのデカい王城が徐々に大きくなる。
今の角度を考えるとあの辺か?
着地地点と思われるところに幾人かの人影が見える。どこかで見覚えが……
「……ぬぅ、ちょっと遅いかもしれませんが。」
何かに気づいて少し慌てたようにあたしを白衣でくるむ。
え~と、何だ? 下からこちらを見上げて…… って、ああっ!
確かに遅いが、慌ててスカートを押さえる。短い、というと語弊があるが、そんなに長くないし、それこそ下から見上げられたら長かろうとも意味がない。
遠くに見える人影の一つが慌てたように顔を背けた、と思う。そこに紺色の――メイド服っぽいシルエットの人が近づいて……
思いっきりぶん殴ったように見えた。
うぉい! 遠目ではっきりしないけど、今のってもしかして王子じゃないの?
色々思考が追いつかないうちに、城の中庭らしきところ(いくつあるか知らないが)に着地する。ギルさんの言ってたように着地は思った以上に楽だった。なんかこー とん、って感じで。
あたしだって一般的な科学の知識はあるが、宇宙でも何でも移動のときに一番考えなきゃならないのは「慣性」だ。急発進・急ブレーキは身体にも機体にも悪い、とうことだ。しかし着地の際にその急ブレーキの感じがほとんどしない。これが魔法か。
「凄いですねぇ、魔法は。
それよりも先に……」
ジェルが未だ地面に倒れている男性――この国の第一王子、ゴルディウス王子にゆっくりと近づいて、口の端を歪める。
「記憶を消すか…… 目を潰しますか。」
いやいや待って待って。確かによろしくなかったとは思うが、どちらかと言うと事故だし、すでに制裁は済んでいる気もする。
「申し訳ございません! 女性に対する無礼なふるまい、主人に成り代わって謝罪申し上げます。」
絵に描いたような「メイド長」らしき初老の女性が深々と頭を下げると、後ろに控えていたメイドさん達も同じように頭を下げる。
「あ、いえ……」
「いえ! この! ような! ことは! しっかり! 謝罪! させないと!」
メイド長らしき人は謝罪をしながらもゲシゲシと倒れた王子の脇腹を蹴り続ける。あんまり効いてないのか、何か言いながら身を起こそうとしているが、断続的に蹴られてどうもままならない。
ただ何が凄いかと言えば、このメイド長さん、スカートをちょいと摘み上げて蹴り続けているが、その姿がなんともエレガントなことだ。なるほど、アレが熟練のメイドの振る舞いというところか。
感心したらいいのか呆れたらいいのか不明だが、さすがのジェルも毒気を抜かれて戦闘態勢を解く。
「……私も蹴飛ばしていいんですかね?」
「いや、それはさすがに不敬だろ。」
全然ダメージを受けてない顔で王子がよっこらしょ、と立ち上がる。と、すぐにこちらに向けて頭を下げた。
「すまない。不注意と事故とはいえ、女性の下着を見る羽目になってしまった。殴るなら殴られるし、目を潰すなら潰されよう。
しかしそれは少し待ってくれ。今は妹の、ルビリアのことが先だ。
それが済んだらいかなる罰でも受けよう。」
顔を上げると、王子にギルさん、そしてソフィアが厳しい表情を浮かべる。
「ルビリアの状態が一気に悪化した。ギルでも神官どもでもお手上げだ。
もうお前らに賭けるしかない。俺の勘がそう言ってる。」
また頭を下げそうになる王子をジェルが手で制する。
「事態は急を要します。
まずは彼女の所へ案内を。」
有無を言わせぬ口ぶりに、王子たちがお互い顔を見合わせるが、すぐさま王子を先頭に場内へと向かっていく。王子の後をギルさん、そしてソフィア。あたしとジェルが続いて、最後にメイド軍団が付いてくる。……いや、この人たち、いる?
「普段ならアポなしの依頼なんて受けませんが、生憎とラシェルと浅からぬ縁。今回は特別の報酬を貰うことを条件にお受けしましょう。」
久しぶりに聞くジェルの声。焦燥感が足を早めて、いつの間にかに駆け足じみた速度になっている。
「まずは観察。情報収集。推論。仮説構築。検証。そして実行。することはたくさんで時間は余りにも少ない。
……心底不謹慎とは思いますが、燃えますなぁ。」
医者であり、自称宇宙一の科学者。ジェラード=ビルビットがこの異世界に来て初めて、事態を解決するためにその知恵を十全に振るうときが来たようだ。
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