おっさんを誘おう
土曜日の遅くにあげると、次の更新がきつくなる
つーか、もう少し執筆ペースを上げないとなぁ。
昼下がりのコンラッドの町の中心部の賑わいは思ったよりもおとなしかった。イメージとしては、通りの左右に色んな店が出ていて、活気のある声が響き渡っている、みたいな。
そういう光景かと思っていたが、なんか出店がまばらだ。そんなのが顔に出ていたのか、ジェルがふむ、と唸る。
「リーナも言ってましたが、物の流通が滞っているようです。売る物も無いし、売る者がそもそもいないとか。」
なんでまた、と言いかけたが、よくよく考えると、あたし達――ってあたしは何もしてないが――のせいじゃないかって気がしてきた。リリーが関わった砂糖密売をしていたのが、この町の商人ギルドの一員で、しかも密売だけじゃなく詐欺に強盗未遂までしていたという。それだけでも結構な罪状だが、違法な犯罪ギルドや貴族とも関りがあって……みんなジェルたちに叩き潰された。そらもう完膚無きままに。
ちなみに貴族の人はたぶんもうこの世にいないかも知れない。思った以上にクズどころか外道だったため処刑されるらしい。
で、連帯責任や内部の洗い出しのため、このハンブロンの町の商人ギルドが活動禁止になってしまった。真面目にやっていた商人にとってはとばっちり以外の何物でもないのだが、組織というのはそういうものだろう。更に言えば、無関係で無実であることを証明するのが難しいのはいつの時代でも変わらない。
「ままなりませんなぁ。
カエデさんが戻ってきたら、多少は落ち着くのでしょうが、それまではどうしようもありませんな。」
元凶が何か言ってるが、やり方はともかく平和のために必要だったと思おう。
やや人通りの寂しい道を歩いていると、見覚えのある建物が見えてきた。確かあれは冒険者ギルドって奴だ。ここも気持ち閑散としているような気がする。
前に聞いたら農家の娘リリーも、一応は冒険者として登録しているそうだ。彼女の両親も冒険者で、副ギルドマスターのガイザックさんとも知り合いだったからかもしれないが。
そういやぁ、ガイザックさんにあたし達も冒険者として登録しないか? って言われてたっけ。異世界人としては、何かしらの身分証明があった方がいいって理由だ。町の中にいる限りはいいが、下手すると町の外に出るのも怪しくなるらしい。
色々考えている間に、入り口にたどり着く。やっぱり人が少ないような気がする。
ジェルがスイングドアを押し開けると、二人で中に入る。前に来たときはもうちょっと騒がしかった気がしたが、中はスッカラカンだった。
この建物の一階は酒場も兼ねた広いフロアでたくさんのテーブルと椅子が並んでいる。壁の一面には羊皮紙や薄く切った木の板がビッシリ貼ってあった。前は。
今はやけに古いのを除いて、ほとんど姿を消していた。
その反対側の壁にはカウンターがあって、ギルドの職員が冒険者の対応をしているのだろう。四つあるカウンターも一つしか開いてなく、職員のお姉さんが暇そうにしていた。
つまるところ、開店休業状態だった。
「何事ですかねぇ。」
「そりゃ、このギルドにもロクデナシがいた、ってこったよ。」
カウンターの奥の階段からいつものアイパッチ姿のガイザックさんが降りてきた。あたし達の方を見ると、ニヤリと笑みを浮かべる。
「……なんか大物っぽい登場だろ?」
知るか。
前にリリーと来た二階の応接室みたいな所でガイザックさんと向き合う。
「つまりな、冒険者の中にも悪事をしていた奴がいたってことさ。」
言い方は悪いが、冒険者というのはそもそもアウトローなわけで、そりゃ悪いことをする奴もいる。ただ、そういうのを放っておくと、冒険者とギルドの評判が悪くなり信用を失うことになる。
で、今回に関してはリリーの畑を襲った輩の中に、冒険者ギルドのメンバーも何人かいたそうだ。そして、あの腐れ貴族の私兵の中にもいたそうだ。
つまりはこちらも痛くもない腹を探られる羽目になったわけだ。
元々こういう所の依頼は道中の護衛とか、珍しい物資の調達とか、商人や偉い人が関わるものが多く、その両方が今ダメになっているので、まさしくダブルパンチだ。
「まぁこの町のギルドはそんなに忙しいわけじゃないからな。それでも仕事はいつも通りいっぱいでよぉ。」
と、自嘲気味に笑うガイザックさんだが、微妙に疲れている感じだ。
「それはそれは。
そんな疲れたハートにキックを入れてくれるような話があるんですが……」
「よし、聞かせろ。」
眼帯に隠れてない方の目を光らせると、逃がすまいとジェルの肩をガシッと掴む。
「俺は本気で疲れている。くだらねぇ話だったら本気で落ち込むからな。」
どんな脅し文句だ。
「ところで、お酒の件はどうなりました?」
「ん? ああ……」
少し渋い顔になる。
「できたっちゃできたんだが…… ただキツいだけで、あんまり味が無くてな、」
「方法自体は確立できたのですな。」
「まぁなんとかな。
……って、その顔は予想済みって感じだな。まだ何か知ってるのか?」
前にジェルが教えたのはお酒の「蒸留」だ。ワインを蒸留したらブランデー。麦のお酒を蒸留するとウィスキーになる、はず。安酒になると合成したアルコールに合成着色料でそれっぽいの色と味にしているものもあったが。あ、あたしは多少は飲めるけど、基本的には飲まないよ。ジェルもかな? 飲んでる姿を見た記憶がない。
「ちょっと『雄牛の角亭』に少し持ってきてくれませんかね? ちょっとばかり『実験』してみたいので。」
「ほぉ、その顔は何か企んでいる顔だな。」
「企んでるとは人聞きの悪い。これでも自分たちに利がありそうなのでね。」
淡々というジェルに、ガイザックさんがニヤリと笑う。
「まぁ、お前さんが悪いこと言わないだろうから、ちょっと期待させてもらうぞ。」
「ご自由に。
私たちはもう少し準備があるのでそろそろ失礼させてもらいます。明日、昼過ぎに持ってきてください。」
それでは、と去るジェルの後を追う。
後は特にどこにも寄らずに「雄牛の角亭」へと戻ると、キューブを引き連れて裏庭に行ってしまった。
正直、お酒の話なのであんまり興味はないが、リーナちゃんも料理酒が欲しがっていたような気がした。
そして、いつものように夜が過ぎて、いつものように朝と昼が来て、約束の時間が来た。
お読みいただきありがとうございます。




