▼綴導術・綴導術師(ていどうじゅつ・ていどうじゅつし)
▼綴導術・綴導術師
●概要
物質の様相を変成させ、通常の製法では作り出せない特別なマテリアルや特殊な効果を持つ物品を製作する秘術と、その使い手を指す。
物質界全般を扱う〝学問〟のことでもあり、関連とする分野は化学・物理学・工学・神学・哲学に至るまで、数え切れないほどの多岐に渡る。
その秘術の本質は世界を〝情報〟と見た時の構成要素である〝蒼導脈〟を操作誘導して元素と固有情報のレベルから物質の再構築を行なうことであり、つまり、物質などの〝存在〟を〝存在の根源〟から作り変えることである。
ゆえに綴導術師の作り出すアイテムには余人には作り出せない特別な効果や効能が付与される。軍事や医療、一般家庭の消耗品まで、世界経済にとって尽きることのない需要を生み続けている。
●綴導術の源流
綴導術師たちの〝蒼導脈〟へ干渉する能力の素養は、はるか古代に存在した〝魔術師〟と呼ばれた人種から受け継がれたものである。
魔術師は綴導術師とは根本から理念を反する。綴導術が物質の新たなる形を導き紡いでゆくのに対して、彼らが行使した〝魔術〟とは、物質の形相を強引に捻じ曲げ、崩し、エネルギーへと変換する秘術だった。
彼らの行なう強引な情報への変成と崩壊は<アーキ・スフィア>の崩壊を招き、世界へ〝霧〟を発生させる原因となった。
その後に最初の綴導術師であるフィースミールが〝霧〟への対症処置方として魔術を綴導術へと再体系化・発展させたことが、綴導術の起こりであるとされている。始祖フィースミールが元は魔術師であったかについては、綴導術師たちの間でも重要視はされないことである。
また、綴導術師の道についていない一般階級層の中にも綴導術の素養を持つ者は多数存在する。
綴導術師を志さなくても、自身の〝タペストリ領域〟の制御訓練を受けて戦士職や、綴導術師の工房を補佐する職人の道に入る者も多い。
受け継がれる素養は単純に遺伝的な問題というわけではなく、個人ごとの存在を司る〝情報〟が重要であるとされる。
そのために綴導術や〝タペストリ領域〟の制御に対する親和性の大きさは個人ごとに異なってくるし、まったく素養を示さない者も存在し得る。
しかし現在の世界の人間はかつての魔術師たちの末裔であるので、〝因子〟の顕在・不顕在を問わなければ、ほとんどすべての人間は綴導術師の素養的因子を保有していると言える。
●職種としての綴導術師と作り出される品々
綴導術師が〝蒼導脈〟から行なう存在情報への干渉は、元素構成だけに留まらない。
その本質は〝情報〟の操作と再構築であり、そのため、たとえば『人間の認識』へ働きかける情報を持たせることによってある種の催眠効果を持つ『人払いの護符』などといったアイテムを作り出したり、綴導術師の掘り込む情報を特別に記録できる触媒を素材に含むことによって『発火』『発風』といった事象干渉情報を持つ発信媒体(護符や杖など)、精霊理論を用いて自律する行動支援ゴーレムを作り出すことも可能である。
これらのアイテムはシンプルな護符や一般家庭にまで普及される生活消耗品、国宝として納められたり伝説の中に謳われる〝建造物〟とまで呼ぶべき超精緻・超精密構造を持つ秘法級の品まで、多岐に渡る。
あらゆる業界、あらゆる社会階層、あらゆる用途において、綴導術師の作り出す素材や品物に対する需要は尽きることがなく、彼らが世界経済、世界情勢に及ぼす影響は計り知れない。
扱われることになる素材や道具も通常では作成が不可能な特別製品であることが多い。それら素材を作成する環境の管理者や関連分野に携わる者にも特別な知識と技術、教育が必要であるために、それにかかる費用、維持にかかる手間、管理費などなどが重なり、綴導術師たちの取り扱う品の取引額は高ランク品に分類されるほどに莫大な規模へと跳ね上がってゆく。
また、彼らが取りかかる品の質によっては、彫金や彫刻、薬学や物理学、工学や料理に至るまでの膨大多岐に渡る分野の技術が付随してそろえられていなければならず、その上で綴導術の概念を組み込み、素材に対して綴導術を用いた特別な処置の数々を練りこまなければならない。
どの分野に向いた綴導術師であってもかならず各々がそうした『付随周辺分野』の技術をもあるていどまでは習得しているものの、行なう製作の難度が上がるほど、ひとりの手にはとても負えるものではなくなる。
そのために綴導術師には彼らを補佐するための、それぞれの専門的職業技術を習熟し、さらに彼らの要望に応えるため限定的綴導術にまで精通した特殊加工処理技術をも習得した特別な専門職人集団が必要である。そのための専門的教育支援機関の数々もまた、綴導術師を養成する機関と並列して、各国にいくつも併設されている。
一級かつ大規模な工房ともなれば、複数の綴導術師や職人を合わせて数十人から百人以上の規模の組織体勢を持っていることもあり、上級の術者や一級の人材と機材をそろえた工房は大国の王宮に召抱えられることも珍しくはない。
これらのことから一般の人々にとっての綴導術師に対する認識とは、余人には届かない最高の教育と特別な知識を授かった『魔法使い』、特別な品を作り出す『最高級の職人集団』というものになりがちである。
綴導術師たちにはその理念が指示するもうひとつの『特別な使命』があるものの、ほとんどの人々にとっての綴導術師とは、こちらの『職種としての綴導術師』となる。
●世界の守り手としての綴導術師、〝霧〟への対症処置法としての綴導術
しかし綴導術の起こりは前記の通り、〝霧〟への対象処置方としてフィースミールにより体系化されたものが始まりである。
綴導術師たちの根底にある活動理念は、その秘術の行使によって<アーキ・スフィア>の〝綻び〟が進行するのを防ぐことである。
そのための(<アーキ・スフィア>の崩壊を招く強引な変性を行わないための)〝綴導術〟という再体系化であり、さらなる発展形として〝EFM〟〝EFロジック〟と呼ばれる概念を持ち、実行しようとしている。
かつての魔術師たちが強引に物質情報の形相を崩して世界の崩壊を招いてしまったのに対し、綴導術師は『より強い情報を持った』『情報を強化された』物質を作り出す。
より強い情報を持った物質を<アーキ・スフィア>の情報循環に還してゆくことによって、〝霧〟によって常に消失の危機にさらされている<アーキ・スフィア>の補強となしている。
〝霧〟を根本から消すことにはつながらないものの、このように世界がより強い情報を持つ物質の循環に満たされてゆくことによって、もしも〝霧〟が徐々に拡張を果たしたとしても、容易には消去されない強い『情報的』地盤を築くことが可能である。また、場合によっては、〝霧〟の拡張そのものを防げる見込みまでも示唆されている。
これらの理由から、世界経済的な観点のみならず、綴導術師の作り出す物質や物品は人類文化の存続にとってなくてはならないものである。
同じ理由から、綴導術師が作り出して世に流通取引されるほとんどの品の組成は〝EFM〟基準に準拠している。
また、あまり知られていることではないが、これらの理念に賛同して国家単位で行われる活動のひとつとして『大陸流通結界路』と称されるプロジェクトが存在する。
ディングレイズ聖王国においてはアルン(金貨)とファロネ(銀貨)が『EFM化』したマテリアルを使用して鋳造されている。同時に偽造防止工作も兼ねた特殊加工処理によって『環境情報に対する干渉能力』が付与されており、各土地にかならず発生している不活性化した〝蒼導脈〟を誘引して拡散する効果を(1枚あたりにつきごく微量ではあるが)発揮する。EFM貨幣がその土地を通りすぎた場合、少しずつその土地の〝蒼導脈〟の淀みが解消されて環境情報に対するリフレッシュ効果が見込まれる。
巨視的に見れば、〝蒼導脈〟や、特に不活性〝蒼導脈〟の影響を受けていると思われる害獣やモンスターの発生・凶暴化に対しても連動して効果が期待できると考えられている。ただし1枚1枚の持つ効果はごく微量なので、モンスターなどに対して明確に認識できるレベルの効果を得るためには、さらなる流通の強化や、効果の追加が必要である。
ディングレイズ貨幣、特にアルン金貨は魔よけの力を持つお守りにもなるという俗説が民間には古くから伝えられているが、このことが由来であると思われる。ごくまれに変性を果たしてさらなる特別な効果を持つ金貨が発生することがあるという俗説も存在するが、鋳造加工の段階で生じる『突然変異説』、経年その他の理由による『成長説』などさまざまな憶測にまみれており、実在を証明する実物が提出されたという記録もなく、詳細が不明なフォークロアの領域を出ない。
これらの強化された特殊な貨幣を領土内に流通させることで、大陸内に、常に一定の『強化された物質の網』と『流れ』を作り出すという国家プロジェクトであり、ディングレイズにおいては、すでに400年間実行され続けている。同時にこのプロジェクトは、綴導術師たちの使用する素材を育むための〝特定採取指定保護区域〟の保全活動の一端としても機能している。
ディングレイズ聖王国のほかに同様のプロジェクトを持つ国家としては、東方大陸フェリス王国、北方大陸リンカーイェルバ皇国などがある。




