欠陥品な刺客達 後編
俺は俺だけの知る秘密の抜け道へ向かうことにした。厳密には俺だけじゃないかもしれない。その抜け道はサッカーの授業、存在すること自体迷惑との理由で、どのチームにも拒否され、サッカーのたびに暇を持て余した俺が学校の敷地内探索を行った末にたどり着いたものだ。俺だけじゃないかもしれないのは単純に俺が人から聞くことがないがあの抜け道は結構重宝されるものとして授業サボラーに愛用されてるかもしれないからだ。
抜け道を使う理由としてはそっちのほうが高確率で安全に帰ることができるからだ。数分前のアホ毛女に情報を吐かせた結果(本人自覚無し)あと二人西園直属の部下がいるらしい。となると正門前と裏門に潜んでる可能性がものすごく高いだろう。なら一般生徒に知られてない抜け道を使ったほうが生存確率がグッと上がるのだ。ほんとアホ毛女のファインプレイだね!
そして、時間は掛かったが校舎裏の林に着いた。林を抜けた先に自分の追い求める秘密の穴がある。
というのも、この蛇足高校。秩序をほとんどの人が守り、治安が維持されている日本の何を警戒しているのかさっぱり不明だが、無駄に高い塀が学校の周囲を囲っているのだ。少なくともこの塀を超えてやろうと思う人間の強い好奇心を軽く挫くほど高い。
俺はひたすらにまだ物寂しい枝をひたすらにかき分けて、ようやくそびえ立つ塀と対峙する。まぁ実際は俺がほふく前進で人一人分の穴を這いくぐるだけなんですけどね。岩志君の大勝利!
そして塀まで着いたところで、
「クカカカッ!ようやく来たか、冷酷かつ残虐なる呪われし種族の血縁の者よ!」
魔女っ子帽子を深く被り、学校指定ブレザーも魔女の装いに近づくようにと改造にしている変な奴がいた。
もう嫌だ。なぜ今日に限って変な奴ばかりにエンカウントしてしまうのだろう。レベル99の冒険者を前に、出現しては無駄に挑んでくるスラ○ムくらいキモい。とりあえず穴を塞いでいて邪魔だからとっと失せて欲しい。
「あのすんません、キザなポーズしているところ悪いんですけど、ぶっちゃけ邪魔なんでそこどいてくんないですか? 俺沸点低いんで三秒以内どかないと殴りますよ?」
少しイラッとしてる感じで脅してみる。
「クカカカッ! そう慌てるでない。貴様の血が飢えているの承知のことよ。なぜなら今夜は―――うおっおぉぉぉおっ! 何すんだよこのグズ野郎! 我の全てを見通す神の眼で予知してなきゃ当たってたぞゴラァ!」
ちっ外したぜ。俺のパンチの遅さに感謝するんだな。
そこで、拳で掠めたのかポロリと帽子が落ちる。
また女だった。しかし前回と方向性が全く異なる。違う点の一つは右目を軸にして十字に大きく縫い跡が刻まれている右目。もちろん本当の縫い跡ではないと思うが本物と見て取れるほど見事のものである。二つ目は右側頭部に大きなネジが突き刺さってること。これには驚いた。マジで頭にざっくり刺さってるふうにしか見えないからだ。完成度高いなオイ。他は特に変わっていないが背が小学生並みに低く童顔。ややつり目。腰まで垂れる絹ような黒髪。まあこいつも美少女だと思わざるを得ない。それにしてもこの学校の女子は他校に比べて顔面偏差値が高いのだろうか? おかしいな、無性に腹が立つ。 でも良かった。俺がもしこの学校の女だったら校舎に真っ赤な赤いバラを大量に咲かせてしまったかもしれない。ちなみにこいつも後輩。
「ク……クカカカッ! 我に一撃を加える貴様……やはり秘密結社ブラックウルフズの一員か?」
「知らん」
「クカッ……さすがのものよ。秘密を漏らさぬようにと厳しく鍛えられている」
「……はぁ」
「クカカカッ! 我に怖気ついて声が出ないのだな? そうであろう? その我に悪寒を走らせるような気持ち悪い目つきはその……我に恐怖してのものなんだろう? そうなんだろう!?」
こいつの場合は変な装いをしないで普通に愛想を振りまいていれば大和撫子にでも見え、さらに美少女度が上がったのに、リアルタイムで見る少女はフランケンシュタインと魔女っ子といった半端な存在で、どうしようもなく残念だ。俺が言うのもなんだけど恋愛対象には絶対入らないな。
「あざっす。さよなら」
道ができたので話は終わり。俺はほふく前進の体勢に入る。
「待てぇぇぇえええい! 後にこの世の全てを制する我が主様ウェスティーサンフラワー四世。また現世で過ごす仮の名を西園向日葵主の右腕であり、ターニングゼロの異名を持つ我がそう簡単に通す訳にはいかないのだ!」
「お前が西園の下っ端?」
あいつの部活ろくな奴いないな。きっと目の前の少女やパンに飛びつくアホ毛女みたいに、どこか残念な人としか友達になれなかったのだろう。
「クカカカッ! この穴を通りたくば齢16にして国家一級黒魔術師である我を貴様の呪術で黙らしてみるがよい! まぁできればの話だがなクカカカッ!」
そう言って堂々と立ちふさがる。
……現在の状況を教えよう。
想像してみるがいい非モテ男子諸君。いいかい、俺はほふく前進の体勢。少女は俺と塀の間に立ちふさがっている。ここでさらに追加情報。俺の視線は低い、現在俺は長めの草とかが鼻をくすぐってしまう高さに頭がある。対して少女は腕を大きく広げて立ちふさがっている。最終ヒント、少女は今スカートを穿いている。繰り返す少女はスカートを穿いている。つまり、
「お前……高校に入ってくまさんはないだろ……」
パンティーが丸見えボーナスタイム。
万年彼女なし、童貞歴=年齢の俺にはパンチラさえもしんどい。超荒ぶっている俺のソウルとスタンドアップしそうな男のオプションパーツを何度も何度も押さえつけながら、平静を保ちながら言う。
「くまさん?」と一瞬顔にはてなマークが浮かび上がった少女だが『くまさん』でわかったのだろう。少女は茹で上がったタコのように一瞬で顔が真っ赤に染まり、両手でスカートを押さえる。馬鹿だな恥ずかしいなら穿かなきゃいいのに。ちなみに俺のパンツはブリーフだ。
「クカッ……クカカカッ! そ、そうこれは単に我を守護する眷属を象ったものだ! 断じて、断じて我の趣味ではないもん! くまさんが可愛いから穿いてきてなんかないんだから!」
「そうかそうか。そうだったんだなー。うん眷属なら仕方ないよなー」
「やめてぇぇぇえええ! 優しいふうに我を見ないでぇ、違うし。本当に眷属なんだもん……」
「……ふぅん」(もぞもぞもぞもぞ)
「……え、お前下半身モゾモゾ動かして何やってんだよ!? ……ぇぐっ、ひっぐっ、うわぁぁぁん西園お姉ちゃぁぁぁぁん! やっぱりこの人ただの変質者だよぉぉぉおおお! びぇぇぇえええん!」
少女は泣きながらこの場を走り去った。
俺のしたことを端的に述べると着用した状態の女児向けパンツの閲覧。不具合によって勃きた下半身の一部の方向修正くらいだ。大したことをした覚えはないが、見事、西園の刺客を追い払うことに成功した。俺スゲェ。それだけで泣かしてしまう自分の才能が怖い、変質者としての。
だが自ら泣かせるつもりがなかったため、友美ちゃんの件同様に心が少し痛む。これで、幼女の泣き顔さいっこぅぅぅだねぇぇぇえええ! とかやってしまったら真性の犯罪者として社会の闇に隠れて生きる掃き溜め人間になるしかない。
「まだだ……俺はまだ救いようがある……」
前を向け歯を食いしばるんだ俺! この残りわずかの俺の良心を大切に守っていくんだ!
「先輩でありながら後輩を泣かせた薄情者がどの口叩いて救いようがあるのかしら? 実に興味深い話ね。ぜひ聞きたいものだわ」
熱のこもらない声。姿は見えないが声の主をなんとなく察してしまった。どうか俺の察した通りの人物でないことを心の底から願う。
古いブリキ人形のようにギ、ギギギとゆっくり振り返る。そこには、
「ごきげんよう先輩」
ひょっこりと木から現れる西園。
ピッピッピピッーーーーー!
長い長いホイッスル。そりゃそうだよ16年のという時間生きてきたんだ。それが今終わった。
「よ、よう西園こんなところで奇遇だな! 何してんだ?」
立ち上がりできるだけフランクに対応する。
「そうね……死刑執行?」
「……いやいや可愛く首ひねったように見えても可愛くないから。全く可愛くないから」
「で、どうしましょうか?」
「どうするとは?」
「砂漠? 海? 森? 谷? 山?」
あかんこいつ俺を殺ったその先のことも考えとる。だが少し様子がおかしいような。ひょっとして、
「西園……お前もしかして怒ってるのか?」
「怒らないわけないしょ。私の部員達にこれだけ酷いことしておいてただで済むと思ってるのかしら?」
「部員達とはやはり」
「先輩が廊下で冷たい一言を浴びせた日々笑いの勉強している千春に、先輩が熟練の詐欺師テクで騙した梨乃に、先輩が汚らわしいものを突きつけた零菜のことよ」
あのぬいぐるみ女も仲間だったとは……。
「見てたのか?」
「当たり前よ部長なんだから」
「じゃあ何で今になって出てきたんだよ! 最初からずっと近くにいたのかよ!」
「場所を特定するのは簡単よ。先輩のバックに発信機仕掛けたから」
「なっ!?」
この女いつの間に仕掛けてやがったんだ……気づかなかった。
「私の手助けなしにあの子達が生まれながらにして猥褻物陳列罪の罪を背負う罪人を連れてくるのが今回の部活動だったの」
「いやさっぱりわかんねぇよ」
こいつらは何がしたいのさ? さっぱりわかんねぇぜ★
「それは今どうでもいいの、それより覚悟……できてるかしら?」
俺には見えてしまった。西園の奥で手招きしている笑顔が素敵な死神を……。このままだと本当に死ぬ! こうなったら……。
「後生だ見逃してくれ!」
「……知り合って二日の後輩に土下座する先輩って人としてどうかしら? 恥ってものはないの?」
「ないっ! 元から生まれてきたことそのものが事故みたいなもんだから俺! だから命だけは見逃してくれ!」
「……ふぅ。その台詞をノータイムで言える先輩には激しく嫌気がさすわね」
最後の審判が終わるそのときを待つ。もし裁きの鉄槌が下されるのなら甘んじて俺は受けよう。逃げても無駄なのは十分承知。
「……これが最後よ。今ここで部員になるならば殺さないわ。けど部員ならないなら殺す」
「おいおい殺すって言っても実際そんなことできっこないだろう? 花の女子高生がブス面負け組ライフまっしぐら男子高校生殺人ってどうなんだよ」
「まぁ実際に殺しはしない……流石にそんなことはしないわね。でも……やれるとこまで頑張るわ。先輩から『はい、私は西園様にお仕えする汚い豚でございます。どうぞ私の身は好きにしてくれて構いません』って懇願するようになるまで」
「それ殺人よりタチ悪くないか!?」
あるいは拷問の類かだな、考えるだけでおぞましい。
「でも……先輩の力が必要なのは本当なの」
「俺の力ねぇ……。なぁなんで俺なんだ?」
「先輩にしかできないからよ。入ってくれたら説明するわ」
俺にしかできない。すごくいい響きだ。だが過去のことを思い出してみよう。
過去に俺の力が必要だと頼まれ、助けてやったことの例を挙げると。
掃除当番(しかもやったぶん変わってくんない)
お金を捧げる(貸すことになっていたはずなのに返してくれない)
係当番(不器用ながらも全ての係を受け持っていたこともしばばし)
荷物持ち(終わったあとにサンキューすらない)
宿題を写す(最高記録が二年の夏の宿題13人分)
などなど切りがない。頼まれたことに関して言えば全て自分にとってマイナスの労働。見返りがないのがわかっていても、やらないと自分が不幸になるから断れない。
正直部活に入りたくない。どうせいいように使いまわされて捨てられるだけなら、やらないほうがマシだ。でも……。
「痛いのも嫌だな」
「先輩うじうじしないでいい加減決めてくれるかしら? 早くしないと私の荒ぶる左腕が先輩に危害を加えることになるわよ」
ならメリットとデメリットを各自考えてみるのはどうだろうか?
○部活に入らない
洗脳→終わりの見えない強制労働→豚のように痛めつけられる自分→そのうちそれが快感になる自分→飽きたから捨てられる→ゴミ箱行き→思考停止。
ダメだこれはあかん。次行ってみよう。
○部活に入る
終わりの見えない強制労働→豚のように痛めつけられる自分→そのうちそれが快感になる自分→飽きたら捨てられる→ゴミ箱行き→デジャヴッ!!
「未来が……未来が暗い」
「で、どっちなの早くして」
どうせ……どうせ未来が暗いならいっそのこと!!
「あーーーーやんよっ! 入ってやんよお前らの部活によぉぉぉおおお! もう好きにしろってんだい!煮るなり焼くなり調教するなりSMプレイするなり蹂躙するなり好きにしやがれこの野郎!」
「いや、そこまでしないわよ安心して。でもそう入ってくれるのね良かったわ……本当に良かったわ」
西園さん今こっそり後ろに隠したカッターらしきものは何に使おうとしたのか? きっと美術の工作用のやつだよね。今出す必要性皆無だよね。それとそんなに悲しそうな顔しないで!
「ふう……じゃあ途中で逃げられるのもなんだし、少し気を失ってもらうわ」
は?
そう言うと西園は俺から姿を消し、
「うごぉっ!」
後ろに回り、手刀で俺の首筋をぶっ叩いた。
可愛い顔に似合わない強烈な一撃。尋常にない痛みが全身に走る。
「あら、少し強すぎたかしら?」
ふざけんなよこの野郎。そこで俺の意識はプツンと切れた。
すみません遅くなりました。何卒表現などがおかしい場合に指摘していただけたら幸いです。よろしくお願いします。