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いきなりの人生終了のお知らせ

 次の日。


「おはよう先輩」


 学校に到着してわずか数分の内に俺の戦争が終結した。


 西園が俺の教室にいて、しかも俺の椅子に座っている。クラスメイト(仮)は西園を避けるように四隅にかたまっている。なんかもうすごく怯えてらっしゃる。ねぇ西園さん、何かしたんですか? 何をやらかしたんですか?


「ど、どうしたんだ西園。俺に何か用か?」


 察しはついてる。西園は今日朝から例のクズ野郎すなわち俺を探していたんだろう。それで聞き込み調査を行って今日この教室にきた。流石にその本人のいる教室では動揺を隠しきれずに、いつもと違う反応だった。そこに西園は気づき強行手段に。そんなこんなで俺が探していたクズ野郎だとわかってしまいましたとさ。めでたくなし、めでたくなし。


「先輩はもう気づいていてるのでは?」


 ドッキンコ! 心臓が跳ね上がる。


「さ、さぁー気づくてなんのこと? 見当もつかねえなー」

「そう。この場に及んでなおしらをきるとは……見上げたクズ精神ね」


 西園の人類最低のクズを見ているかのような冷ややかな目に俺は多大な恐れと、自分の中に芽生えつつある新たな快感を少々感じた。


「……ほ、ほう証拠は? 俺が西園の探してたやつだという証拠はどこにある!?」

「証拠人ならここにたくさんいるわよ。ねぇ」


「俺は前に点東にテニスラケットで殴られました!」

「私はノートを破かれた!」

「僕の買ったパン食べられた!」

「クラスの観葉植物を枯らした!」


 その他もろもろクラスメイトが文句を言う。


 これがクラスメイトですよ。完全のアウェー。サッカー日韓戦の韓国の本拠地での試合みたいになってるんですけど。


「これが動かぬ証拠よ」


 文句を聞いてる限り俺が全部悪いみたいな子となってるけど、俺だって全部悪意をもってやったわけではない! テニスラケットで殴ったのはたまたまだし、ノートを破いたのは自由帳みたいで落書きしかなくゴミだと思ったからだ。植物を枯らしたのはそもそも俺じゃない! パンはおいしそうだから食った! 置いたやつが悪い。


「違う! 俺はそんなに悪くねえ!」

「「「「うるせぇ、ゴミクズ!」」」」

「……すんません」


 驚異のシンクロ率で奇跡のハモり。集団の敵対するものがいるときの団結力のやばさを俺再認識。


 集団は勢いを増し誰が何言ってんのかさっぱりわかんない。これは動物園で餌をもらうために格子をガンガン叩く猿より獰猛ですわ。てか収まりつかないことひどいことした記憶がないんだけど。 


 バンッ!


 おもいっきり手のひらで机を叩く西園。集団の喧騒は一瞬にして鎮まる。


「先輩がクズなのはこれでわかったでしょ、それとも自分はこれだけのことをしてもクズでないと現実から目を背くのかしら?」

「……ああ。認める、俺はクズだ。でも西園は昨日こう言ったよな『そこまで悪い人には見えない』ってあれはどうなんだよ!?」

「どうやら私にいかがわしいことをするために私の目を欺いたのね。流石クズのプロ、器量と場数が桁違いだわ。よもやこの私を策に嵌るとはね」

「んなことしねえよ! てかやめてくれ! クズのところ評価されると俺が本当のクズみたいじゃん! そうじゃねえんだ! 俺はクズだけどそこまでのクズじゃないんだよ!」

「「「「いや真のクズだろ!」」」」


 やったぜよ母さん! 称号ボッチの他に真のクズを獲得したぜよ!


「時間もないし本題に入るわ。先輩あなたは私の部員になりなさい」

「拒否権を行使する!」


 得体の知れないものに関わるなんて御免蒙る!


「無駄よ先輩。あなたは昨日こう言ったわ『手伝う』って」


 そうだ確かに俺は手伝うと言った。紛れも無い事実。今からじゃどうしようもない過去の話。この超絶に大ピンチを切り抜けねば未来がない! もとから俺の未来は日本の50年後の高齢化問題と同じくらい真っ暗だけどな!


 俺は足りないおつむで必死に考え、一つの行動に出る!


「さ、さぁーなんのことですかね? 俺には全くこれっぽちもわかりませんなぁ」

「そう。この期に及んでまだしらをきる、いやきれるとはね。軽蔑を通り越し、尊敬の域に至るわ」

「しら? 俺はしらなどきってないですぞ」

「これを聞きなさい」


 なにやらポケット中からトランレシバーみたいな機械を取り出し、ポチポチいじってる。でも機械に弱いのかまごついてる。ふっ、これだから見た目美人は……うっかり公共の場で女子に抱きつくという醜態を晒すことになりそうだったじゃないか。このまま変態の称号まで獲得してしまったら人生破綻者の称号にさらに近づいてしまう。


「いくわよ『ごめんな! 力になれなくて! あーこのことじゃなければ快く手伝えたのに残念だわー』はいこれでどう?」


 ととと盗聴器か!? 俺が昨日口走ったことを機械がまんま再生する。


「お前昨日の段階で俺に目星つけてやがったのか……!」

「いいえ。これは単に後々のことを考えて交渉材料に使おうとしただけ。例え使えそうにない駒でも一枚でも多く持っておいたほうがいいのよ」

「西園……お前ってやつは本当に恐ろしいやつだな。友達とかいないだろ?」

「ごめんね先輩。私こう見えてお友達は多いの」

「何人だよ?」

「先輩が単細胞生物の核の数だとすると。私は多細胞生物の核の数だと考えるの妥当じゃないかしら?」

「それはおかしい! それだと差がありすぎんだろ!」

「は……せ、先輩に友達がいるわけ……ごめんなさいね。人して嫌なことをしたわ」

「うるせぇ! 俺に友達なんかいねぇよ!」


 一遍身投げして末代まで呪ってやりたくなったんですけど。ミーやっちゃう? やっちゃいなよミー。


「そろそろ朝のホームルームなので失礼するわ。続きは放課後ね。教室で待ってなさい迎えにくるから」

「おう二度とくんなよ……て、放課後!?」

「あなたを部室まで連行するためよ。逃げたらどうなるかわかってるわよね?」


 くくっ。


「くくっ……くははは! 甘いぞ甘すぎるぞ! この俺に対して『逃げたらあなたの秘密とかばらしちゃうんだから★』作戦が通じるとでも? 浅はかなり西園! 元よりこの岩志、人として恥ずかしい思いを幾度なく経験してきた。もはや人生16年まるごとが黒歴史だったと言っても過言ではない! その上俺が残念なことを周囲がなにより熟知してる! よっぽどのネタがあったとしても周囲にはまた変なことしたんだくらいの認識でしかない! 故に最底辺のこの俺にはきかないぞ! くはははは!」


 勝った! これでさらに手伝う約束を破るのだ! 口約束だから仕方ないんだ、うんほんと仕方ないよな!


「もし教室にいなかったら……。私、先輩をぶち殺すわ」


……why?


 最高の笑顔と共に発せられた殺人予告。なにそれ聞いたことない。部活を行かなきゃ失われる対価が名誉とかメンツとかそんなんじゃなくて生命? その発想卓越しすぎて俺理解でっきなーい。まぁ当然嘘に違いないけどな。


「まっさかー」


 その時。


 キチキチキチキチと擦れる音。


「西園!?」

「何かしら道端に吐き捨てたガム?」

「お前……今後ろで何かやってなかったか?」

「そうあなたは道端に吐き捨てたガムなのね。じゃあガムに話しかけれている私ってかなりレアじゃないかしら?」

「知らねぇよ! それよりお前後ろで何やってんだよ!?」

「それでは放課後会いましょう先輩」

「ちょっ待て逃げんな!」


 目もくれず西園は階段を降りていった。


「は、ははは冗談だよな」


 俺は乾いた笑しか浮かべることができず、その場に立ち尽くした。



○1時限目数学


「よーしこれから小テストをやるぞー」


 その先生の一言にたちまち騒ぎ出すクラスメイト(敵)


 よし! 西園のことは一回忘れようか。目の前の小テストに集中しよう。集中しても解けないけどな。 


 手早くシャーペンを取り出し、いざ問題に挑む。


 わっかんないなー。やべぇーここ一年生のとこじゃん。でも数学って基本一回やったこと予習しないから、こうやって出されると公式とか思い出せないんだよなー。いやそもそも覚えてないな。とりあえず何か書くか。


 ……あれ?


 白紙なのに字が書けない。


 手で触ってみてろうが塗られていることに気づく。先生のミス? そんなわけない隣の人は問題をスラスラ解いてる。じゃあ手の込んだいたずらか? ありえない。そもそもいじめられるほど人と関わっていない。


「ん?」


 全部がろうで塗られているわけでない。


 俺は紙全体を薄く塗りつぶす。文字が浮かび上がったぞ! なになに?


『今日部活に来なさい。じゃなきゃ殺す。』


 それは西園からの素敵な素敵な脅迫状だった。


 これどうやったんだろうって考えよりも西園の真意を計るほうに思考がいってしまう。


「……冗談だよな」            


 ……。


 気のせいかもしれないが窓の外から鎌持ちで黒装束の骸骨が俺に手を振ってる気がした。



○体育の時間後


「ふぅーマラソンとかマジねぇわー」

「ほんとなーマジなんなのって感じだったしな」


 今日も青空の下で体力強化のためのマラソンが行われた。幸い先生が俺の顔が青いのを気遣い走らなくてもいいと言ってくれたため。皆さんが走ってる中、俺は悠々と休むことができた。


「いやー毎回毎回マラソンとかあの先公マジ鬼じゃね?」

「それな! ホントマジ鬼すぎだわ!」


 どうでもいいけど最近の多用されるマジ~って結構ウザいよね。そんなマジマジ言ってると魔法少女になんぞゴラ。


 俺は心の中で男子が魔法少女の衣装を着ている姿を想像してしまった自分を殺したくなりながら下駄箱を開く。


「にゅふぉふぅううひゃ!?」


 開くたび臭い匂いが垂れ流れる下駄箱内に似合わない、シンプルながらも女子がやりました感溢れる手紙らしきものが入っていた。


 落ち着け俺素数を数えるんだ。素数は孤独な俺と兄弟。ボッチな俺に勇気を与えてくれる。


 普通に考えると、これはイタズラだ。男子からの手の込んだイタズラ。だがしかし、それはある程度の友好関係ないし、やって面白い人にしかやらないものだ。中学の時に散々やられてしまった俺は高校に入ってすぐにやられたがすぐに嘘だと看破することに成功した。それ以来その手のイタズラはされていない。


 つまり! これは!


「ラブレター!?」


 俺は勢いよくハートのシールを剥がして中身を見ると、


『いつからこれがラブレターだと錯覚したのかしら? 残念! 脅迫状よ、期待させてしまったかしら? それと部活に来なさい』


 ビリッ。


 もう。何も。信じない。 


 ………。


 気のせいかもしれないが先程の骸骨が俺の後ろで俺の頭部を値踏みしてるような気がした。



○購買部にて


「おばちゃんハンバーガー一個」

「はいはい」

「おばちゃん俺フライドポテトとチーズハンバーガーで」

「はいよー」

「スマイルください」

「潰すぞ」


 この購買部はおばちゃんが一人で作って、売っている。つまるところおばちゃんスゲェって感じ。


 それで俺はというと、母ちゃんの愛妻弁当があるというものの、迫り来る恐怖に喉が飯を受け付けないので、購買にある比較的食べやすいサンドイッチを買いに来たわけである。


「あら? 先輩じゃないどうしたのこんなところで?」


 殺気!


 俺の可能なスペックで大きく後ろに飛ぶ。


「お、オッス西園。俺はだな、パンを買いに来たんだ」

「ふぅんそうなの。じゃあ放課後に会いましょう」

「あれ? 意外だなもっとしつこく言ってくると思ったぞ」

「心外だわ。私はそんなにくどい女じゃないわ。それに先輩と違って一緒にお昼ご飯食べるお友達もいるのよ」

「そうか邪魔して悪かったまたな」


 「ええ、待た」と言い残して西園は去っていった。


 俺の考え過ぎかもな。もっと楽観的にいこうか。


 でも少し心配事が減って腹減ってきたぞ。俺もベストプレイス(個室)に籠って飯にしよう。


 俺は手早く買い物を済ませ、ベストプレイスに駆け込み昼餉にする。


「いたっだきまーす!」


 ガリッ。


 ムニッとかフニッなどなど柔らかいパンに聞こえるであろう擬音とかけ離れた音。


 とりあえずその「ガリッ」とした物を特定しようと、パンに手を突っ込み引っ張り出す。


『こ、な、い、と、こ、ろ、す』


 鉄プレートに血で文字が書かれていた。


 あぁ、その、何だ、脅迫状だな、これ。


 ……………。


 気のせいかもしれないが骸骨がゴルフバックのようなものに大量に刺してある鎌のどれを使おうかと、実に気分よく選択しているような気がした。


 俺は個室でおいおい泣いた。


              ★


 必死に考えた。どうすれば自分の命を守れるのかと。


 とりあえず大まかに俺のできる選択は二つしかない。


 一つはこのまま西園に捕縛されモルモットがごとく推測だが非人道的な実験を受けること。だってクズを部員に欲しいだぜ? せめて形だけは人間やってんのでそれくらいはできるでしょ的な。ふぅふぅー!ナイス人柱! じゃねえよなるかボケ。


 んで二つ目はずばり逃げる! この狭い学校から飛び出すんだ的な感じ。


 俺はこの二つの選択肢の後者を当然ながら選ぶことにした。しかしこれには幾つか問題がある。


 はじめに逃げたら西園に殺される。あの目はマジで人を殺ったたときの目だ。生憎人生負け組街道まっしぐらの俺でも希望は持ちたい。せめて自殺とかは高校過ぎたあたりから真剣に考えようと思う。なので絶対逃げ切んなきゃ行けないのが条件。


 次の問題はクラスメイトだ。彼らは既に西園の手駒である。いついかなるときも鉄砲玉になれるくらい優秀な狂戦士と化しているだろう。多分放課後になった瞬間に俺を捕縛して女帝西園に俺の身柄献上するはず。となると放課後になる前に逃げなくてはならない。


 そして最後の問題。それは現在が本日最後の授業であることだ。それも残り15分しかない。ここまで決断するのに時間を使ったとか先生がものすごく怖いとかじゃない。どのような言い訳をすればいいかが分からないのだ!これには参った。どうすれば一番いいのかあれよこれよとか考えているうちにあっという間に学校の一日の終わりと俺の人生の終わりが近づいてる。やばいどうしよう。普段こういうことしないからサボり方がわからん。それに一緒にサボるサボり仲間も俺にはいない。やべぇよまじやべぇよ俺。いや、まだ終わったわけじゃない考えろ俺! 


 …………。


 気のせいじゃないかもしれないが骸骨が俺の席の後ろで鎌を素振りしてる。ブオンブオン振りましてらっしゃる。ねぇその鎌は誰にむけたものなの! 俺なのか! なぁ、おい!


「点東!」

「はい!」


 いきなり先生に名前を呼ばれて立ってしまう。


「どうした顔色悪いぞ?」

「そ、そそそそうですかね?」


 誰だって自分の死が迫れば自然と顔は青くなるもんだ。


「お前保健室行ってこい。べ、別にお前に指導すんのを諦めたわけじゃないんだからな!」

 

 ツンデレ口調がキモイが先生のファインプレイ! これを逃すわけにはいかない!


「はい、そうします! ありがとうござーじゃなねえや。行ってきます!」


 授業残り時間5分。ギリギリのところで俺の命はほぼ救われた。もちろんこのあと保健室に行かずにまっすぐ帰る。明日からは悔しいけど自衛のために自宅で警備する職業に一時就こう! なぁにことが収まったら学校に行くからそれまでの間厄介になるだけだ。自宅で学校サボるのが癖になってそのまま本職に就くとかそんなことはしない。うん多分。



 俺はこれからの生活を計画しながら軽い足取りで玄関へと向かうのだった。

 


遅くなりました。すいません。誤字脱字または文の表現がおかしいとこがございましたらご指摘のほうよろしくお願いします。

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