通知欄に残った名前
それからさらに、時間が過ぎた。
私が高校一年生になった頃。
彼は高校三年生になっていた。
別々の高校へ進学したけれど、学校はすぐ近くだった。
⸻
ある日。
部活の練習試合で、彼の高校へ行くことになった。
体育館へ向かう前、ウォーミングアップで校舎の周りを走る。
見上げた校舎。
(ここにいるんだ)
それだけで、少し胸がざわついた。
⸻
グラウンドでは野球部が練習していた。
白いユニフォーム。
土埃。
遠くから聞こえる掛け声。
彼も、まだ野球を続けているのかな。
そう思いながら何度も目で探した。
でも――
その中に、彼の姿を見つけることはできなかった。
⸻
高校生になっても、結局一度も会えなかった。
あんなに近くにいたのに。
⸻
それからまた時間が流れて。
私は社会人になった。
毎日に追われながら、昔のことを思い出す時間も少なくなっていた頃。
ある日、スマホに通知が届いた。
SNSの友達申請。
表示された名前を見た瞬間、胸が大きく揺れた。
彼だった。
⸻
懐かしい。
ただ、その気持ちだけが一気に溢れた。
迷うことなく承認した。
⸻
でも。
その頃の私には付き合っている人がいた。
だから、自分からメッセージを送ることはしなかった。
「久しぶり」
たったそれだけの言葉なのに、打つことができなかった。
⸻
彼から連絡が来ることもなかった。
結局、私たちはまた何も話さないままだった。
⸻
それでも。
通知欄に彼の名前が並んでいた数日間だけは、
少しだけ昔に戻れた気がした。
三階の窓から校門を見下ろしていた頃に。
体育館の扉を開けるだけで胸が苦しくなっていた頃に。
⸻
今でも時々思う。
もしあの時、
どちらかがあと一歩だけ踏み出せていたら。
何か変わっていたのかな、と。
⸻
でもきっと。
届きそうで届かなかったからこそ、
あの時間は、こんなにも綺麗なまま残っている。
これは、前作「出席番号だけ書いたバレンタイン」のその後を書いたお話です。
大人になっても、ふと思い出す人がいる。
そんな記憶を書きました。
読んでくださってありがとうございました。




