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第九話「異端者」

 白い石畳を踏みしめ、俺とニイコタはマセマに導かれて街を歩いていた。


 建物の壁には、どこを見ても同じ模様――太陽と翼の紋章。

 まるで街全体が「一つの神の下にある」ということを誇示しているかのようだ。


「なんか、やけに整いすぎてねぇか? どの建物も同じ顔してやがる」


 思わず俺が呟くと、マセマはにこりと笑った。


「それは神に対する敬意です。住まいも、衣服も、形を揃えるのは“平等”を示すため。すべての人間は神の御前において同じ存在なのです」


 その言葉は美しい。

 ……が、俺の背筋には寒気が走る。


 同じ建物、同じ服、同じ紋章。

 まるで個性を消し去って「信仰のためだけに生きろ」と言われているようだった。


「……俺には窮屈に見えるな」


 小声でそう漏らすと、横のニイコタがコクリとうなずいた。


「永和、わたしもそう思う。笑っているけど、街の人たちの目が……みんな同じに見える」


「おっと、聞こえてますよ?」


 マセマが振り返り、にっこりと笑う。

 その笑顔は眩しいほど完璧で、逆に怖い。



 やがて、視界を覆うような巨大な建物が姿を現した。


「これが……神殿か」


 白亜の大理石でできた、荘厳な宮殿。

 天を突くように高い尖塔がいくつも立ち並び、その先端には例の“太陽と翼”のシンボルが輝いている。


 入り口には二十人近い兵士が並び、槍を構えていた。

 甲冑に刻まれた紋章もやはり同じ。


「すげぇな……」


 俺が素直に感嘆すると、兵士たちがこちらをじろりと睨む。

 目つきが鋭い。歓迎というより“監視”。


 マセマは慣れたように彼らに一礼し、俺たちを堂々と中へ導いた。



 神殿の内部はさらに異様だった。


 壁一面に描かれた巨大な壁画。

 そこには「神に従う人々」と「神に背く異端者たち」の姿が克明に描かれていた。


 神に従う者は光に包まれ、豊かに暮らしている。

 神に背く者は炎に呑まれ、地獄へと落とされていく。


「……こりゃあ、露骨だな」


 俺が呟くと、ニイコタが苦い顔をする。


「子どもが見たら、怖がるどころじゃないよね……洗脳だ」


「ふふ、信仰教育と呼んでください」


 マセマがくすりと笑った。

 その言い方は冗談めいているのに、目は笑っていない。



 長い廊下を抜け、俺たちは広間へ通された。

 中央には巨大な祭壇。

 天井のステンドグラスから差し込む光が、祭壇に置かれた黄金の聖典を照らしていた。


「こちらが“御言葉の間”。神官である私たちが毎朝祈りを捧げ、戒律を読み上げる場所です」


 マセマはそう説明すると、祭壇の前でひざまずき、両手を組んだ。

 その姿は清楚そのもの。

 ……いや、胸の谷間が強調される姿勢だから、目のやり場に困る。


 俺がつい視線を落としかけると――


「永和」


 隣から低い声。ニイコタだ。

 肘で小突かれ、慌てて視線を逸らす。


「ち、違う! ちゃんと真剣に見てた!」


「……真剣って、どこを?」


「そ、それは……」


 ごまかす俺をよそに、マセマが立ち上がり、改めてこちらを振り返った。


「さて。お二人は旅の途中で迷い込んだ……そういうことにしておきましょうか」


「そういうことに?」


 俺が眉をひそめると、彼女はにこりと微笑んだ。


「この国では、身元の分からぬ者は“異端”とみなされ、厳しい取り調べを受けるのです。……余計な騒ぎを避けるために、私が保証人となりましょう」


「っ……!」


 ニイコタがわずかに目を見開いた。

 つまり、マセマが庇わなければ、俺たちは捕らえられていた可能性があるということだ。


「……助かるが、どうしてそこまで?」


 俺の問いに、マセマは一瞬だけ口元を歪め、すぐに柔らかい笑みに戻した。


「さぁ……どうしてでしょうね。神の導きか、それとも……」


 その言葉の続きを言わず、彼女は歩き出す。


 その後ろ姿を追いながら、俺は胸の奥に奇妙なざわめきを覚えていた。


 この国。

 そして、この女。


 どうやら一筋縄ではいかなそうだ――。

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