第六話「優位」
ジュヤン=ゲケツの巨体が、確かに後退した。
さっきまでとは違う。
ただ押されるだけじゃない。俺たちの刃も、魔術も、届いている。
「……永和! 今の魔力弾、いいとこ入ったわ!」
ニイコタが笑いながら斧を構える。
「お前の一撃もすげぇだろ……! あんな切り裂き方見た事ないぞ!」
「フフ、二人とも甘いな。 決め手を入れたのは私とジョリよ」
「どっちが入れたかで喧嘩すんなよジュリ……!」
「いやいや、私の刃が先に入ってたでしょ!」
「どっちでもいいだろ! 倒せりゃな!」
戦場の真っ只中だというのに、気づけば口角が上がっていた。
――祖父たちも、こんな風に仲間と笑いながら戦っていたのだろうか。
◇
俺たちの攻撃は、確かに魔王を追い込んでいた。
ニイコタの《超双剣》が鱗を裂き、
ジュリとジョリの連撃が肉を削ぎ、俺の高火力簡易魔術が、隙間を狙って爆ぜる。
「……ふ、フハハ……!」
ジュヤンが笑った。
苦痛ではない。歓喜に震えている。
「やるな。 まさか、この我をここまで追い詰めるとは……!」
冒険者たちがざわめいた。
誰もが「勝てるのではないか」と思ったのだ。
「……押してる……!」
「ジュヤンが、退いてるぞ!」
「もしかして、あの四人が……!」
俺も思っていた。
本当に――勝てるんじゃないか、と。
◇
「永和! みんな! 一気にいくわよ!」
ニイコタが叫ぶ。
「合わせろ!」
「了解、任せて!」
「任せて!」
四人の気配が、同時に収束した。
ニイコタの双斧が唸りをあげ、双子の剣技が閃き、俺の魔力が爆発する。
「これで――終わりだぁぁッ!」
轟音。閃光。衝撃。
全力の連携攻撃が、魔王の胸を直撃した。
黒鱗が砕け、肉が裂け、血が飛び散る。
――沈んだ。
その瞬間、俺たちの胸に「勝利」の二文字がよぎった。
◇
だが。
「……ク、クハハハ……」
立ち昇る黒煙の中。
ジュヤン=ゲケツは、不敵に笑っていた。
砕けたはずの鱗の奥から、禍々しい光が滲み出す。
大地に黒い紋様が走り、空気が一変する。
「英雄の孫よ……確かに貴様ら、素晴らしい。 ――ゆえに、見せてやろう。 古き魔王の秘術をな」
黒い尾が大地を貫いた瞬間、戦場全体に禍々しい魔法陣が展開された。
押していたはずの俺たちの心臓を、一瞬で鷲掴みにするほどの絶望が広がる。
「な、何だよこれ……!」
「空気が……重い……ッ」
俺たちの四人連携は確かに届いた。
だが、それでも。
――相手は”原初の魔王”だった。




