第五話「激戦」
魔王ジュヤン=ゲケツの翼が広がるたび、戦場全体に圧が走った。
咆哮一つで空が震え、影が広がる。
「……凄い迫力だな…」
思わず息を呑む俺の横で、ニイコタが歯を食いしばる。
「強いからこそ、叩き潰す価値があるんでしょ!」
彼女が飛び出した。
両手の巨大なトマホークを交差させ――
「早速だけど喰らってもらうわ! 《超双剣》ッ!」
刃が閃光を描き、二重の軌跡が魔王の黒鱗を斬り裂く。
地を割るほどの一撃。
その瞬間だけは、確かに魔王の巨体が押し返された。
「ほう……コタルティスの血か。懐かしいな」
ジュヤンの瞳が愉快そうに細まる。
◇
後方から、矢の雨と光弾が飛ぶ。
他の冒険者たちが魔獣を必死に押し留めているのだ。
「お前ら! 今だ!」
「分かってる!」
俺は手をかざし、魔力を込めた。
簡易術式――たったそれだけで、魔力が暴力的に収束する。
「――砕け散れッ!」
放たれた光弾は、大砲を凌ぐ轟音と共に直進。
魔獣の群れを数体まとめて吹き飛ばし、爆風でさらに数十メートル先まで薙ぎ払った。
「た、ただの簡易魔法で……!?」
「なんて威力だ……!」
冒険者たちがどよめく中、俺は歯を食いしばる。
抑えてこれだ。
本気を出したら、どれだけの範囲が吹き飛ぶのか、自分でも恐ろしい。
◇
「フフ、ならば次は我が楽しませてもらおうか」
ジュヤンが一振り尾を薙ぐ。
黒い稲妻のような衝撃波が走り、俺たち四人がまとめて吹き飛ばされた。
「ぐっ……!」
しかし、土煙の中から飛び出したのは、白銀の双子。
「ジュリ!」
「ジョリ!」
二人の声が重なり、双剣が煌めく。
完全に揃ったタイミングで踏み込み――
「削ぎ落とすッ!」
「落とすッ!」
バギンッ!!!
交差する刃が竜鱗を裂き、火花が散る。
弾き飛ばされながらも、確かに傷を刻みつけていた。
「なかなかの速度……人間とエルフの混血か。 だが――」
魔王の爪が振り下ろされる。
その一撃を、ニイコタの双斧が受け止めた。
「まだ終わってないわよ!」
衝撃で大地が沈む。
その隙を狙い、俺は再び光弾を放つ。
――ドゴォォンッ!
魔王の肩口に炸裂し、漆黒の血が飛び散った。
◇
「クク……いい、実にいい!」
ジュヤン=ゲケツは笑っていた。
痛みすら楽しむかのように。
「英雄の孫たちよ。貴様ら、ようやく退屈を晴らしてくれる!」
戦場の空気が震え、冒険者たちの叫びが遠くに聞こえる。
俺たちは肩で息をしながら、互いに視線を交わした。
「永和、まだいける?」
「……もちろんだ」
「私もよ!」
「私も大丈夫」
「大丈夫」
――四人は再び立ち上がる。
魔王との死闘は、まだ始まったばかりだった。




