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第四話「受け継ぐ孫たち」

 魔王の尾が宙を払った瞬間、大地が裂け、そこから黒い霧が吹き出した。

 霧が形を成し、巨大な獣の姿へと変わる。


 四本足に赤い眼、牙は鋼をも噛み砕くほどに長く鋭い。

 数も一体ではない。二体、三体、いや五体……。


「魔獣召喚……っ!」


 冒険者の誰かが叫んだ。

 街を覆うかのように並び立つその魔獣群に、兵たちの顔から血の気が引いていく。


 剣を握る手が震え、魔法詠唱の声が掠れていく。

 だが魔王は冷ややかに笑った。


「人間を屠るには、獣で十分だ」



 激しい戦いが始まった。

 矢が放たれ、魔法が飛ぶ。

 しかし魔獣の体は分厚い甲殻に覆われ、刃は弾かれ、炎さえも通じない。


 咆哮ひとつで兵士が吹き飛び、尾の一撃で十人が同時に地に伏した。


 仲間たちが叫びを上げ、そして次々に倒れていく。

 戦場は地獄と化し、わずかな希望すら打ち砕かれていった。


 ……それでも、まだ立っている者がいた。


 俺。

 そして――三人の影。


「あんた達、なかなかやるじゃないの! 私について来なさい!」


 元気いっぱいの声が、戦場に響いた。

 緑色の長髪を揺らし、トマホークを両手に構える少女。


「私はニイリス=コタルティス! ニイコタって呼びなさい!」


「……って、お前じゃねぇかよ、ニイコタ……」


 思わず返すと、彼女はにやりと笑った。

 昔からの顔馴染みだ。

 祖母・ニイナ=コタルティスの妹の孫……つまり遠い親戚で、幼馴染。

 名前が似てるからか、あだ名も祖母と同じ“ニイコタ”。

 俺が祖父と同じ永和を名乗るのと、どこか似ている。


 細身なのに両手に巨大な斧――二刀流のスタイルは、コタルティス家の血筋を感じさせた。


「あら、ニイコタと永和じゃないの」

「そうね、ニイコタと永和じゃない」


 背後から声が重なる。

 振り向くと、よく似た二人の少女が並んで立っていた。


 白銀の髪。

 同じ顔立ち、同じ細剣の構え。

 ハーフエルフの双子――ジュリとジョリ。


「何よ何よ! ジュリとジョリじゃない! みんな知り合いだったのね!」

「せっかく魔王との戦いなのに、結局いつメンかよぉ……」


 笑顔で笑うニイコタと、小さく肩を落とす永和。


「私達じゃ不満なの?」

「不満なの?」


 短髪のジョリが肩を竦め、長髪のジュリがぷすんと怒って見せた。


 彼女たちの祖父母も名高い冒険者であると聞いている。

 ガルザンとユーニスと言って、祖父の永和とも関わりの深い人物らしい。

 だが、その話にはどうも深い深い闇があるらしく、触れると本気で怒られるので深入りしないのが吉だ。


 加えてユーニスさんはエルフと聞くのでまだ生きているだろうが、十七年で一度もこの街に顔を見せたことはない。

 一体この町で何があったんだか…。



 魔獣の咆哮が再び大地を揺らす。

 俺たち四人は自然と背を合わせた。


 胸の奥で、何かが燃え上がる。

 これがただの仲間意識なのか、それとも――。


「行くわよ、永和!」

「おう……!」


 俺は剣を抜き、魔力を練った。

 手のひらが光を帯びる。


 祖父譲りの、膨大すぎる魔力量。

 普通の簡易攻撃魔法ですら、桁外れの威力になる。


 魔獣が牙を剥いた瞬間――


「……消えろ!」


 放たれた光弾は轟音と共に直進し、魔獣の頭部を正面から打ち抜いた。

 爆ぜる閃光。

 巨体が揺れ、そして跡形もなく霧散する。


「なっ……」

「魔獣が一撃で……!?」


 冒険者たちの間に驚愕が走る。

 俺自身も驚いていた。

 ただの魔力弾を放っただけなのに……。


 だが、そのとき確信した。

 俺は、祖父と同じだ。

 スキルなんてなくても、この力がある。



「フフ……面白い」


 空から、魔王ジュヤン=ゲケツの笑みが降ってきた。

 赤い瞳がこちらを射抜き、黒尾が大きく揺れる。


「まだ舞台に立てる者がいたか。

 よかろう……お前たち四人の血をもって、この祭を飾るとしよう」


 空気が震える。

 俺たちは互いに視線を交わした。


 恐怖も、迷いもある。

 だが――逃げない。


 ここからが、本当の戦いだ。

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