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Waves Tones 【ウェイブストーンズ】  作者: 海月 恒


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第四十七話   波の音階


 


 

 数週間が経った。

 切島とその息子の犯行は露見し、処罰は免れなず、社会的にももう居場所がなかったように思えた。

 しかし極秘な会議である故、真実をそのまま伝えることはできないとNWSは判断。

 加えて、切島の周到な策により、その証拠となるものが、今会議内での言動しか残っていなかった為、コンバーターの不備による事故として関係者に報じられた。

 しかし組織としての対応は面目上必要で、切島は組織の脱退を命じられたが、切島が参加しなければ会議の条件的に続行できないということもあり、日本でのプログラム終了まで切島の処罰は延長し、それまでに被害者の回復が完了すれば、非公開での処罰を行われることとなった。

「いやぁ、一時はどうなるかと思ったよー」

 いつものような調子でビールを注ぐ勘九郎。事件が落ち着き、サシで飲もうという話になった。

 もはや心臓を握られているような切島が、断る理由はない。

「はいよ! せんまい二人前! 」

 行きつけの高級焼肉店の店長は、やはりなにも知らずに、現日本総理大臣と最高位の国際連盟機関のトップにせんまいを出す。

「親父! ビールもう一本! 」

「はいよっ! 」

 絶妙な焼き加減で焼き上げられたカルビを、切島の皿に滑らせる。

 切島はボーっとしてカルビを見たまま、箸に手をつけない。

「おい! 冷めちまうだろうが! 食え食え![#「!」は縦中横] 」

「・・・はい」

 拙い手つきで肉を取り、そのまま口に入れた。

「・・・美味しいです」

「だろうな! 」

 鬱陶しい程の美味は、閉ざされていた切島の口を開かせる。

 店内に客は一人二人しかおらず、景観も和やかな和様で、心の音を溢すには文句無しの雰囲気だった。

「どうして、私は・・・ まだここにいるのでしょうか」

 痩せ細った頬で零す。

「まぁ、懲戒は後からのお楽しみになったってことさ。あっはっはっは! 」

 飲んだ勢いで、笑えないことを笑う勘九郎。

「死刑になっても当然のことでした」

「そうだなぁ。この人殺し! あっはっはっはっは! 」

 少ない客が、こちらを振り向く。

「ちょっと、少し声が・・・ 店にも迷惑でしょうし・・・ 」

 持ってこられたビールをぐびっと飲み込む。

「まぁ、アヌの会議の条件には、お前が必要だからな。個人的にも、お前のこと嫌いじゃないないし。ほら、ちゃんと食べろ」

「またカルビじゃないですか それに、私はそこまで肉は・・・ 」

「キャンキャンゆうな! ほら食え! 」

 言われるがまま、無理やり頬張る。

 ザ、余計なお世話。

 放っておいてくれれば、勝手に自殺でもするのに。そしたら妻にも会えるのだろうか。

 しかし、いま口に入れたこの肉が、また私をそこから遠ざけて、地獄のような生という十字架に縛り付ける。

 また俺を生かしていく。

 溶ける肉片と、まろやかで軽い油の甘みがふわっと鼻を抜けていく。

 体は正直に言う。

「美味しいです・・・ 」

 緩やかに落涙すると、一つ一つ言葉を立てて、ゆっくりと語った。

 「彼らは、なんの力ももってない子供だった。ほんの少し、世の中に対する不満と怒りを抱えた子供。

 彼らがこれほどの恐怖に耐えて、こんなにも、抗っていたなんて」

 目を閉じて、激しくうねる感情の波に、身を委ねる。

「まだ、戦えたんですね。人は。まだ、終わっていなかった・・・ 」

「泣いてんじゃないよ男が! 」

「勘九郎さんだって、泣いてるじゃないですか・・・ 」

「あら? 」

 不本意に片目だけから、涙は溢れていた。

「不思議なこともあるもんだなぁ 」

 自らせんまいを焼き上げて、食べた切島。

「勘九郎さんは、いつから私の計画に感づいていたのですか? 」

「んー。拓扉が、動画を見せてきた時ですねぇ」

「あの書記ですか。動画? 」

「あなたの機関の事務局から、もらって来たんですよ」

「もらって・・・ そんな報告は受けてませんが・・・ 」

「ほら・・・ くすねてきたんじゃないかなぁ」

 小声で耳打ちをした。

「くすねるってそれどういう・・・ 」

「どうかしたのか? 」

「盗んだ・・・んですか? あ、あのセキュリティから? 」

「なんかすました顔で、特に難しくなさそうだったが? 」

「・・・馬鹿な。現在のスーパーコンピューターでもな十年は掛かるはずです。アヌの設計のもと、絶対に裏取引出来ないように、内部にも最先端のセキュリティーを重複してかけているのに」

 あまりピンとこない様子の勘九郎。

 あの男。ただ感が鋭いだけじゃなさそうだな。

「勘九郎さん、俺の言葉なんて信じられないでしょうが、あの秘書には気をつけて下さい」

「あ、あぁ、わかったよ」

 またおかわりのジョッキが届き、半分を一飲みする。

 勘九郎の焼き加減で配られる肉を、切島は丁寧に頬張った。

「礼は・・・ あの子たちは今、どうしているしょうか」

 ビールを飲み干して机に置く。

「元気にしてますよ。俺たちが思うより、とても強い子供達だったじゃないですか」

「・・・ええ。そうですね」

 注がれたビールを一口、しみじみと飲み込んだ。

 




 同じ頃、二十時過ぎ。

「こっちー! 火もってきてー 」

「あいよー!  」

 勝平は火を焚火に移した。

 夜の海の渚、一行は何やら作業をしている。椅子やテーブルが並んでいて、調理道具があった。

 野外での食事準備をしているらしい。

「おぉー」

 身の丈程の炎が燃え上がり、その迫力に昂った。

「アンタ達! これ運ぶの手伝いなさいよ! 」

 アルたちが引きずってきたのは、大きなトムソンガゼル。プレアも、あと一頭、猪を引きずっていた。

「おお! よくとったなぁ! 」

「僕じゃないだぁ。アンガーとヤマが仕留めたのを置いて行っただよぉ」

 人間勢が抱えて運ぶと、空は手を合わせて一礼する。そして切れ味の悪い石包丁で叩くように捌きだした。

 水のタンクを総司と柊は持ってきていて、竹や缶のコップに、伊都は水を注いだ。

 飛沫の上がる音がして振り向くと、ルルとラック、そして礼が、大量の魚を取って帰ってきた。

「すっげぇ! 」

 みんなで出迎えて、帰ってきたルルの道具を預かり、魚を一緒に引き揚げた。

「礼どうだった? ルル凄かっただろう? 」

「本当。僕は見てるだけで精一杯だったよ」

「ヴィア、礼帰ってきたぞ? 」

 急ぎ足で礼の肩に飛び乗ったヴィア。すりすりと顔に鼻を擦り付ける。

「待たせてごめんよヴィア。お腹が減っただろう」

 そして、魚や肉を食べれるように加工する準備開始。

 捌いて捌いて。洗って焼いて。それぞれの役割を考えて動く。動物達はジャレあいながらも、虫や他の動物を寄せ付けないように走り回る。

 いろんな事があった。

 ここに来てまだ数ヶ月しか経ってないなんて嘘だ。すごく濃厚だった。一年間って考えると、俺たちはまだまだここに居なきゃいけないんだけど。

 まだまだ分からない事も多い。知らない事だらけ。心も体も怪我だらけ。でも生きていかなくちゃいけなくて、手を取り合った。

 礼とヴィアは、とても優しい奴だ。一番静かで、穏やかに過ごしてる。仲間になるまでは、いつもの通り。

 あの戦いから何週間か経って、みんななんか変わった気がする。なんとなくだけど、強さというか、芯というか。挫けにくくなったっていうのかな。

 ていうかこれだけの事があって命懸けで戦ってるのに、これを見てる大人達は、何も思わないのかな。

 普通、中止とかしないのかね・・・

 そんなに甘くないか。

「よし! 焼いて食べよう! 」

 まぁ、いいけどさ。

 肉を焼くための焚き火の上に、肉を枝に下げて焼き上げていく。人力で回しながら、遠火で火を通す。これが結構疲れるんだ。

 魚は、棒に挿してそれぞれ焚火で好みに焼く。

 なんかに当たれば、下痢になるだけだ。

 ちょっと疲れて、岩に座った。

 隣にきたアンガーは、こちら見てニッコリと笑う。

「空。プライドってこういうものなのかな」

「どうだろう。・・・うん、きっとそうだ」

 波に足を濡らして、歩いている伊都。伸ばした腕の先にはエールが飛び乗った。目が合うと、伊都も首を横にして、澄んだ笑顔を見せた。

 暖かな感情に包まれながら、見渡したみんなの笑顔と世界は、スローモーションに映される。

 勝平が持っていた魚を、カルが奪って食う。

 ルルはラックの背に乗って空を見上げている。

 総司は腕を組んで立ったままフェイトと海を見てる。

 柊は髪を結び直して、ミラと話してる。

 慧真は笑顔で、プレアに魚を投げる。

 峯呂はヤマと一緒に寝転がって夜空を眺めていた。

「ほら、見てみんな! 」

 ルルは遙か彼方を指差す。

 それは、眩い七色の流星群が、暗い海の向こうへ、世界を照らして落ちていく瞬間だった。美しく、巨大なそのエネルギーは、未知への恐怖を悟らせる。

 それぞれの顔が一瞬の輝きによって照らされて、瞳にその流れ星を宿す。

 思い返すのはそれぞれの思い、過去。

 落ちていく神々しい星の欠片に、願いを、ほんの少しだけ乗せる。

 俺思うんだ。

 俺たちは生きている。

 ここで今を生きていく。

 これまでと。そして、これからの喜びも悲しみも、共に背負って。

 命の篝火はずっと、ここで燃えていたんじゃないかな。

 みんなの笑い声。

 動物の鳴き声。

 瞬く星の煌めき。

 押しては引く、波の音階。wavestones.

 その全てが、俺たちの心の波と共に共鳴し合って、優しく波紋を立てて広がっていく。

 

どんな思いにも意味がある

 全ての思いは

 目に見えぬ心の波として

 何処まででもひろがっていく

 そんな気がした


 水平線に反射した偉大な彗星の輝きは、光速で海を伝って目の前に迫った。

 瞬いて、世界を真っ白な温もりが飲み込んだ。


  

 


           完 (第一部)

 

 

くらげこうです。

ここまでもし読んでくださっていた方がいたら、溢れんばかりの感謝の気持ちで一杯です。

本当に、ありがとうございました。

文章も物語も、右も左も分からないまま描き始めたのがこれが初めての作品です。

何もかもが下手くそで読み進めづらさが目立つ、極めて読み手の気持ちを考えない小説であると存じております。

そんな私の作品をほんの少しでも読んで下さった方がいたら、心から感謝申し上げます。


これにて、全第3部の第一部が終わりとなります。

ここからまた本作の物語は加速していき、より深く、より過激な展開を繰り広げていきます。

第二部は現在執筆中ですが、別作品と同時に並走しておりまして、まだまだ投稿には時間がかかりそうです。


本作の主人公は、神経質で感受性の高い男の子です。

近年の少年漫画も主人公は、単純で強く、淡々と正しいことを述べる、最初から強い存在なものが多いように感じます。


空は、それらとは少しずらした男の子にしたかった。

他の作品で言えば途中で敵にやられてしまいそうな、愚かなまでの思慮深さをもつ子です。

ですがそれ故に、どことなく誰もが同じように悩んだことがある部分があったりするのかなとも思います。

そして深く心が沈んだ時に見せる、狂気的な危うさは、彼の子供じみた部分でもあり、自分を守るのが不器用で、過剰に出てしまうでもあります。

まぁそんな彼ですが、これからどんなことを学んでいくのか、私自身楽しみです。

他にもキャラクターについても話せば長くなりますのでこのくらいしておきます笑


さて、第二部では今出ているあらゆる謎が解決します。

火星の計画はどうなるのか。切島の裏にいる存在は。

改谷の正体。アヌの意思は。アンガーたちの正体は?

この一連の事象の裏にある、真実とは。


執筆頑張ります。

このもし1話だけでも、読んで頂き、本当にありがとうございました。


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