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Waves Tones 【ウェイブストーンズ】  作者: 海月 恒


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第四十二話  前半戦


 

「どう言う意味ですか? 」

「君は有名だ。経歴も調べればすぐわかる。その繋がりを辿れば、誰と親しかったかも」

 切島はガラリと空気を変えて黙った。

「君が唯一、心を信じた人。そしておそらく、君が、心を拒むようになったあの出来事・・・」

「・・・黙れ」

 震えながら、言葉を溢す。握った手の甲に、筋が浮き出る。

「私たちは、数々の歴史の物語を紡いできた。君の性格と、経歴を見れば、その道のりはすぐに組み立つ。大きな物事を動かす際のエネルギーは、いつの時代も、どの人も、苦しみから生まれるものだ」

「黙れと言っている! それ以上言ったら・・・」

「凄まじい嫌悪だな。それほどまでに心の中を覗かれたくないか」

 テーブルを叩き、立ち上がる切島に、冷静に言葉を返す。

「お前、終わらせてやる・・・ 」

「構わん。君が前に進めるのなら。だが覚えておけ。前に進むとは、一方を捨てることだけではないことを」

「何を言ってい・・・ 」

「そう単純ならば、人は誰も、間違ったりしない」

 言葉を失い、停止した切島。

 茫然と、記憶を辿り始め、ゆっくりと時間をかけて座った。

 


 

 ルルを庇って殴られていた勝平は、奇跡的に鼻血という軽傷で済んでいた。

「大丈夫なのか? 」

「余裕っすよ! 」

 一行は輪になって集まる。

「よし、いいかお前ら! 伊都は俺が何とかするから、時間を稼いで欲しい。あの壁壊したら、エールが突入して結合して脱出する手筈だ」

 今にも砲弾が放たれそうな戦車軍を前にし、緊張が張り詰める。

「いいのか? あのラスボス取っちゃっても」

 悪戯な顔で言う峯呂。

「勘違いすんな? あくまでの伊都の救出作戦なんだ。用が済んだらズラか・・・ いや、ちゃんと倒していた方がいいか。峯呂、やれるだけとことんやってやれ」

「よぉし! 分かりやすくていいぜ 」

「じゃあ私たちはあの玉の相手をしましょう。軍隊と戦車に気をつけながら、一個ずつ確実に破壊します」

「ありがとう。頼んだ」

「空さん! 俺たちはどうしやしょう! 」

「お前らは結合できないから、どっかに隠れてろ」

「空っち! ウチらも覚悟決めてここに来たんだよ? 」

「そうっすよ! 俺らだってなんかできるはずっす! 」

「分かったよそんな怒るなよ! 出来れば一緒に伊都のこときて欲しかったけど、あの防衛線超えるのは生身じゃ流石に無理だ。いつでも戦線離脱できるように、この森の安全地帯から、ヒットアンドアウェーで、あの軍隊をかき乱せ」

「ラジャー! 」

「ちゃんと、私と総司さんでフォローしますから、花時丸さんは、あの壁に集中して下さい。あの男のことです、一筋にはいかないはず」

「助かるよ。後は、えっと慧茉は・・・ 」

 巨大な獣は、静かな上空で、火山の頂を眺めている。

「まぁ、戦いが始まったら、入ってくるんじゃないですかね? 」

「かな」

 一列に並び、禍々しいオーラを漂わせる礼と向き合う。

「ありがとうみんな。俺、こんなに人に恵まれたの初めてで上手いこと言えないけどさ。忘れないで欲しい。これは勝つ為の戦いじゃない。生き抜く為の戦いだ。だから死んでしまったら、どうにもならない」

 大きな獣の手を握り締める。

 

「生きて帰ろう。みんなで」

 

 球体の一つが光った。

 環境変化による、砂を纏う強風が一行に襲いかかる。

 柊は先頭に出ると、後ろに宙返りするように周り、下半身の蛇の尾を鞭のようにしならせ弾きだした。

 その攻撃は衝撃波を生み出し、向かってくる豪風を縦に、空間ごとを切り裂き、一行に進むべき道を切り開く。

「今です行ってください! 」

 いっせいに駆け出す一行。大地が震えるほどの唸り声を上げて、慧茉も歩き出した。

 礼が手をかざすと、戦車はゆっくり前進し始め、軍隊は一斉に銃口を向けて走ってきた。

 戦車の地響きや、風の音。この戦場にいる全ての者の気迫が、極限まで高鳴っている。それは共通意識を支配していき、敵を否定し、自分の望みを強引に叶えようとする姿勢しか許さない世界を創り上げていく。

 それが、戦いを、戦争にしていった。

 敵集と向かい合って全力でぶつかり合おうとする瞬間は、とてつもない緊迫感と、恐怖に見舞われた。

 今、この瞬間。気が付いた時には、弾丸が脳天にえぐり込んでいるんじゃないか。

 そうだとしたら、俺はいつだ。痛みは感じるのかな。段々思考ができなくなっていくのかな。パッとなにも考えきれなくなるのか。消えてしまうのか。不安は増殖していく一方だった。しかし、軍隊がとても近くまで来ているにも関わらず、未だに意識を持っている自分がいる。

 よくよく見ると、無数の小さな鉛は、空中を切り裂いて飛んできていた。頭上を超えたり、脇の間を抜けたり、太腿をかすめたり。驚いたのは、その動きが、恐ろしいほどの解像度と大量のコマ数で、ゆっくりと、滑らかに。いわばヌメヌメとした動きであったことだ。

 だから弾丸には当たらなかった。当たる気は全くしなかった。あまりのヌメヌメ感に、その銃弾の軌道が、はっきりと理解できたからだ。

 そうか。これがアンガーの。動物たちが見ている世界。超人的な動体視力。

 そのまま銃弾を後にし、目の前にきた兵士を一人、殴り飛ばした。

 まるで発泡スチロールのように。人の重さは全くなく、データ化して消えた。

 よし。これなら。

 アンガーは心の中でも穏やかに喋る。

 ガンガン行こうぜ! 空!

 少し微笑んで、また地面を蹴って飛び出した。

 後ろに続く、峯呂、総司、柊、と共に、兵隊を目まぐるしい速さで壊滅させながら進んで行く。礼へ向かう自身のスピードを殺さぬまま、まるで通りすがるだけのように。

 真横まで近づいた戦車。それらの攻撃はまるで当たらなかった。地響きと爆発によって地形をえぐるだけの存在だった。しかし、後ろには勝平とルルがいる。生身で爆発を受けてば、一溜りもないだろう。なるべく速く、兵器は処理したい。

 左腕で、思い切り殴ってみる。現実離れしたこの力でも、少し揺れはするが、破壊できるほどの力はなかった。

 本当に大丈夫かな。みんなに任せても・・・

 そう思った時、その戦車はいきなり空中へ浮き上がると、遥か彼方へ飛んでいく。現れたのは巨大な獣。慧茉はまた戦車を持ち上げると、叩き落とし、木っ端微塵に自爆させた。

 空はまた脚乗りを早めた。

 しかし安心感が芽生えたのも束の間、真打ちはその先すぐに見えた。 

 目の前の直線状に礼が構える。

 その背後に立っている伊都の姿。

 礼はまた球体を発光させると、伊都の周りにある見えない壁に、なにやらコーテイングし、水に浮いた油のような模様を浮き出した。

 空と礼は猛スピードで向かい合う。

 何も考えなかった。空の目に映るのはやはり、伊都がこちらを心配そうに見つめる顔だけ。

 そしてぶつかるその刹那。お互、相手の行動を知っていたのか。

 ただ何もせず、側を駆け抜けた。

 礼は白目を抜いた威嚇と共に、全力で殴りかかってきた峯呂の一撃をガードする。

 空は、真正面に近づいてくる油模様の壁を強く睨む。

 絶対助ける。絶対壊す。すぐに伊都を取り戻して、みんなで帰る。

 この最初の一撃に、すべてを込めろ。

 かつてないエネルギーが右腕に蓄積されていく。

 いける。絶対いける。

 限界まで振り被り、空間を毟り取る重い一撃を、壁に思い切りぶつけた。

 凄まじい衝撃と音が、火山そびえる青空に響く。衝撃を反発し、エネルギーの残滓を花火のように散らかしていった。

 

 一方は順調に歩を進めていた。

 柊と総司は、軍隊を減らしつつ、球体を追いかける。

 しかし球体の動きは素早く、動物の身体能力と目を持ってしても、追いつけない程のスピード。何しろ球体は浮遊していて、手の届かない場所に行かれてしまっては、どうしようもなかったのだ。

「なんて機動力だ。これじゃ消耗戦だぞ! 」

 総司は、兵士の首にハイキックを決めて言う。

「どうにかして動きを抑制しなければ。しかし兵隊も強風も邪魔でどうにも! 」

 慧茉は、戦車を兵隊の方へ投げて大幅に数を減らしていたが、球体の破壊には参戦できず、現状維持に努める。

「おい! モブキャラどもは任せろおおおお! 」

 アル達を連れた勝平とルルが戦場へ飛び出してきた。

「危ないですよ! 」

「舐めんなよ柊っち! 」

 そう言いって背後から飛びかかり、兵隊から銃を奪い、次々と撃ち倒していく。銃撃が苦手な勝平は、銃をバットのように振り回し、バッタバッタと兵隊の頭を殴り倒していった。アルたちも続いて兵隊達に真っ向からかぶりつき、手足を噛み砕いて、デリートした。

「っへ、楽勝だぜ! 」

 勝平は次々と兵士の道具を拾い上げ、手榴弾や、ナイフ、拳銃を装備し、岩陰にルルと隠れた。

「おいルル! あんま無理すんじゃねえぞ? 」

「お前に言われたく無いっての! ・・・でも、ありがとう。優しくなったね。勝平」

「ば、バーロー! こんな時に優しい言葉かけてんじゃねえよ! フラグ立っちまうだろうが」

 同じ岩陰に総司と柊が入ってくる。

「勝平、絶対死ぬんじゃねえぞ・・・ 」

「四阿さん、会えて良かったです」

「お前ら俺を殺そうとしてるだろ! 」

 慧茉が蹴り飛ばした戦車が、岩陰のすぐ横を転がって過ぎる。

「真面目な話、俺たちが球体を壊すまで、兵隊を頼めるか? 」

「良いけど、なんか作戦あんの? 」

「特にない。だが球体一つに専念できれれば、触れない事はないはずだ」

「球体が破壊出来なくては、一向に奴の力を削ることができません。一番厄介な創造の球体を破壊することが望ましいですが、選ぶほどの余裕はなさそうです」

「やってみるしかねえよ。総司、一瞬でもこっち振り返ったらブン殴るからな! 玉に集中しろよ! 」

 総司は鼻で笑い、土埃を上げて飛び出した。

「言われなくとも」

 宙に浮いた球体は、いきなり目の前に現れた狼男に驚いたようなリアクションを見せた。

 パンチとキックの猛打を、間一髪で避ける球体。その下で、勝平、ルル、柊は兵士の注意を引いた。

 高速で回避し続ける球体のスピードに、しかし、今一つ追いつかない。

 もっと速く。もっと、速く動けるはずだ! 力を貸せ、フェイト! 

 筋肉がよりシャープに、しなやかになっていった。眼光は銀色に輝き、集中力のその先のゾーンに入り込む。

 むしろスロウに見え始めた世界で、猛攻を球体はすり抜けていく。徐々にそのスピードに慣れ、一手先の動きを理解したとき、左フックが球体をかすめる。

 バランスとコントロールを失った球体を、総司は見逃さなかった。

 銀の残像残る、高速の回し蹴りは球体に直撃し、破壊成功に思えた。

「ダメだ。浅い! 柊! 」

 粉砕させられたはずの威力が分散し、押し出されて飛び出した球体。まだコントロールは戻っておらず、蹴りの衝撃に煽動しながら落下していった。

 総司の声に気づくのが一瞬遅れた柊。

 飛んできた球体に、合わせて動き、うねる下半身を捻り弾く。確かに球体に当たった。

 しかし完璧ではなく、またしても紙一重の差で威力が分散。跳ね返った球体はコントロールを失ったまま、ルルの方へ向かう。

「ルル! 危ない! 」

「任せろ! 」

 時速百八十キロ以上の超豪速球。ブレ球。

 掴んでいた兵隊を投げ倒し、銃をバットのように構える。

「あ」

 ルルは、平然と構えるのをやめて、銃口を向けた。

「こっちが正解っしょ! 」

 片目を瞑り、もう片目で視覚を絞って狙う。

「当たれー! 」

 トリガーを引き、銃声と激しい反動がルルをひっくり返す。

 球体の破片が飛び散った。

「まだだ! 」

 端を砕かれてもなお、球体は発光を続けていた。

 衝撃によって高速回転し、スピードを失った球体を、皆が狙う。

「もらったあああああ! 」

 一番近かった勝平が、銃で叩き割ろうと飛びかかった瞬間だった。

 巨大な影が辺りを暗くすると、視界を遮る巨大な足が、球体ごと踏み潰していったのだった。

 低い声で、巨大な獣は、笑ったような鳴き声を出した。

「なんだよそれ・・・ 」

 勝平は遺憾の念を、兵隊の頭に叩き入れた。

 将又一方、一対一の殴り合いを興じていた峯呂と礼。

 隙のないフォームに、乱れないステップと呼吸。常に集中を絶やさないその精神力は、まさにプロ。

 ジャブからストレート。フックかわしてボディ。

 それぞれの動きの繋ぎ目に無駄がなく、コンパクトでありながら強烈。一つ一つの手が、丁寧かつ、正確に発射される。

「流石だね。峯呂君。あのデータ通り」

 脅威の左フックをガードしたが、それでも上から揺さぶられる礼。

 瞬間移動し背後に回ると、前蹴りを喰らわせて距離を取った。

「クソ。俺が背後取られるなんて」

「君は強いよほんと。診断も、全部のステータスが標準より高い。理想的な思考回路だ」

「試合中にあんまベラベラ喋ってんじゃねぇよ」

「でも、それじゃダメなんだ」

 またテレポートし、峯呂の背後から掴み掛かると、またテレポートした。

 そこは上空。すぐに手を離されて、空中に放り出された峯呂は、一瞬の出来事に、体制を整えることが出来ない。

 気持ちの悪い浮遊感と共に、そのまま落下し、地面に激突する寸前、礼はテレポートの加速を用いたタックルで、峯呂を強く吹っ飛ばした。何度も跳ねて転がっていく。

「環境変化が壊されたようだ。正直侮っていたよ」

 後ろに見える空を振り返り、礼は悲しそうな顔をした。

「もう終わりにしよう」

 一つの球体を光らせ、創造を開始した。

 落胆した空の顔が青ざめていく。

 壊れた右腕をぶら下げて 

 

 

 

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