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Waves Tones 【ウェイブストーンズ】  作者: 海月 恒


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第四十話   線引き

 

 

 人と動物が混じったようなその異様な姿に、言葉をなくす大人たち。切り替わる度、互いの肉を削ぎ落とし合う生物に固唾を飲み込む。

「この映像は、SSTPの映像ですか? 」

「ええ。そうです」

「日本ですか? 」

「ええ。」

「監査として言いますが、この事態は処罰の対象です。プログラムの全権限、またプログラム実行中の内容に関する情報は、実行委員のみにて共有されるものとす。漏洩は、流したもの、受けたものどちらも対象となります」

 WTO監査、津島大聖は淡々と話す。

 一新された政府の中で、孤立して存在する専門機関WCPO(world criminal protection organization )

 監査はそこからそれぞれの専門機関に必ず配属される。どんなに些細な会談であれ、携わることは義務であり、法に触れる行いを阻止、またその場での対応の自由が許されている。

 新政府の新たな国際警察と言ったような機関であり、NWSにより制定された秩序にのみ基づいて、徹底的な法の遵守を生業としている。

「所詮あなた如きが何を言おうと、私は罪に問われませんよ」

「そうでしょうか。今の発言もしかり、少し調べれば、このご時世、証拠はいくらでも出ると思いますが」

「どうぞ、探して下さい。見つけられるのならば。それまで私は咎人でもなければ、悪人でもない。会議は続けさせていただきます」

 津島は小型タブレットに、切島剛の名前を打ち込み、情報を検索する。

 監査に持たされているタブレットには、全国民の個人情報が記憶されており、個人の私生活から、性格、経歴、趣味、思考パターンに至るまで、AIを駆使した個人ステータスが登録されている。

 こと細かな行動の記録も、世界全土に散りばめられた小型カメラにより撮影されており、文字通り、誰が何処で何をしているか、数秒で検索が可能。

 表示されたのは、だがしかし、当たり障りのない桐島のそれあった。

 問題があれば、通常AIが自動的に行動をマークし、事件や、怪しげな動きや発言を一目できるようにピックアップする。

 怪しげというのは、法に背く恐れのある初動、人権を無視した発言などによって足し引きされ形成される個体精神骨格レーダーチャート表と、予め用意された理想的な社会適応モデルのそれと比べた際の差異を表すものだ。

 例えば中高生同士の暴言などもこれに当たる。何気ない動作も、その人間の本質を見定める根拠としてデータを集めていく。

 これは国民の誰の名前で検索しても、十、二十はあげられるのが普通なのだ。

 桐島の情報には、趣味嗜好も、出来すぎた人間のパラメータを写しており、その数値は全て基準枠からはみ出ないものであった。

 それは明らかに異常であることを、津島はすぐに気付く。

 切島は小さく息をして、津島から目を冷たく離した。

「では、続けます。生きるとは、食べる事。喰らう事。喰らう事とは、奪うこと。奪いすぎて、もはや奪えるものがなくなってきたと。ならばどうする? なにも奪わなくとも、生きていくことはできないのか。我々は、何か命を奪わなければ、生きていけないのでしょうか? いいや違う。二百万年もの間歴史を紡いできた我々は、ようやく辿り着く。命を奪わずに、命を育む力を獲る」

 プレゼンは熱を帯びていく。

「各国のプログラムで、リタイアが続出しているのは、詰まるところ、人と手を取り合って助け合うことができなかった。協力して人数分の食事を確保できず、人の食料を奪うことを選んだということ。

 知能あるはずの人間が、たかだか無人島で生活するのに助け合うことができず、傷つけあっている。これは時代が進むにつれて、人間本来の機能が低下していることに関係します。

 本来あった機能。例えば免疫力や骨強度等。数十年前からの平均値の減少は著しい。清潔で安全になった生活の中では、あまり必要がなくなってきたからでしょう。

 それは身体的な機能だけに限りません。オンラインでの、画面越しの対話、声のみの繋がりが日常的になりましたね。そこで対立するに至るような発言があっても、画面を通しての暴言ならばと、好き放題罵る大人も増えた。

 実際に人間を目の前にしていれば、表情や仕草から感情を感じとることもできたかもしれない。喧嘩になり取っ組み合いにでもなれば、少しは理解し合えるのかもしれません。傷つける痛みと傷つけられる痛みを知らないままの人間は、簡単に他人へ誹謗中傷を浴びせ、言葉に責任を持たなくなった。

 これは相手の気持ちを推し量る道徳的な観点。つまりは忖度を忘れ、生身の人と人が手を取り合い助け合うことができなくなってきているということ。コミュニケーション能力というよりも、もはや単に、人の立場から物事を考えることができないというような精神的な変化。

 これらは、携帯の長時間の使用により視力が低下する等と全く同じ問題なんですよ。新薬が完成する度に、新たに病気が増えるのと同じなんです。時代が変わるにつれて、失うものがある。それが今回は目に見えぬ、人間の精神的な面であった。

 それは今、争いの原因となっている。人が理解し合えない社会では、協力し、補い合うことができない。皆が平等に、安全で健康的な生活を誰かに与えられなくては、生きていけなくなってきている。その結果がこれです。

 ではその解決策は。人が争わなくて良いようになるには。常に何かを奪い合うならば、いっそ無くしましょう。癌を取り除くように。まず急を要する火星から。争いの種、一個無くしましょうよ。それが食事だった。それだけの事。

 ・・・私には時代に、『必要ない』と言われているような気がしました」

 事実、統計的結果を用いた切島の論理は、反論を生み出さなかった。

「完全栄養食。それは時代に求められた変えようのない流れです。牛一頭を育てる二年半、それで得られる食糧を考えても、完全栄養食なら、一時間の生産時間で全国民の一日の食事を提供できます。どうか皆さん。冷静かつ、妥当な検討をよろしくお願い申し上げます」

 整然とした論弁と栄養食実用化への固執。

 勘九郎は切島の行動と目的を理解しかけていた。

 確定的だな。

 どうやってかはまだ謎だが、切島がプログラムへの強引な介入を成功させたことは間違いない。そして自身の有利な方へ結論を導こうとしている。

 しかしまだ解からないことは多い。

 WCPOの監視を掻い潜る神懸かりな戦略。ほぼほぼ不可能なはず。アヌがこれを見過ごしたというのか。一体どうやって・・・  それに、参加者をバケモノにした理由はなんだ? ただ殺し合いをさせたいなら、バケモノにする必要ないはず。

 殺すといっても、実際リタイアした参加者たちは一時的に植物人間状態になるだけであって、現代医学なら高い確率で治せるはず。加えて以前、現実世界の肉体に与える影響は少ないと切島自信が言っていたじゃないか。

 何か見落としているのか? 

 WTOの望む結果に運ぶためだけに、ここまでやらなければいけないのか?

 なにがそこまで切島を動かしている。

 情報が少なすぎる。少し揺さぶるか。

 勘九郎はテーブルに肘をついたまま、目の奥で思考していく。

「このバケモノは、参加者が変態したと考えてもいいのですか? 」

「知りません。この映像は貰っただけですから」

 しらばっくれるか。

 続けて津島が聞く。

「誰から貰ったんですか? 」

「答えかねます」

「私たちにはそれを知る権利があります。もし答えきれないのであれば、法的な・・・」

「それは万が一、私が法を侵している証拠が、そのタブレットにピックアップされ、執行許可と危険思想の判を押された場合でしょう」

 誰も言い返すことができず、無言のまま時間は過ぎていく。

 切島が手札から出したカードは、想定以上の効力を示し、この場にいるもの全ての行動を抑制していく。

「勘九郎さん、何か思うことはないのですか? 得意の単刀直入で聞いてください」

「い、いやぁーどうでしょうねぇ。別に現段階では善悪の判断をつける必要はないですから。専門的意見として、そういう観点があるということはしっかり理解できましたが」

 良くやりやがるな。煽ってきやがった。

 質疑応答には正解回答を徹底的に選んでくるか。真っ向からの質問じゃ僅かな情報すらシャットアウトされる。

 違うアプローチから情報を集めなければ。いやむしろ・・・

「単純に質問なんですが、人間同士で戦うのと、化け物同士で戦うの。何が違うんですかねぇ」

「人間同士より、ちょっと派手な演出になるだけじゃないですか? 大した意味はないでしょ」

 切島がコーヒーを口に含むと同時に、今度は拓扉が口を開いた。

「因みですが、この化け物たちは、どんなふうに戦いを終わらせるんでしょう」

「どんなふうに。よくわかりませんが、動物と同じなんじゃないですか? どちらかが死ぬまで。もしくは勝敗が着くまで」

 拓扉の質問に勘九郎は何かを閃き、また問う。

「では、仮想現実で『死』とは、どのように演出されるのですか? 」

 「・・・通常、脳が安全性を認識できないレベルの仮想空間の肉体への損傷を受けた場合、その脳波をキャッチしたコンバーターが緊急ログアウトを実行します。そこで受けた過剰なストレスによって脳が異常な活動に至る前、もしくは麻痺し活動停止に至る前に、意識と現実の肉体の結合をすぐさま開始します。

 その間、仮想現実にいるその人間がどのように映るかということですよね。答えは、モザイクが掛かったように人間の見た目が処理落ちし、数秒で仮想現実から何も無かったかのように消えます」

「理解しました。ではつまり、ほぼ無事に帰れるということですね。このプログラムで、誰かが実際死ぬことはないんですね? 」

「はい。バケモノの話はもういいですか? 本題に戻りましょうよ」

 勘九郎の興味によって展開された話の軌道修正に手をかけた切島。それは火星完全栄養食実用化議案の場では確かに正当な判断であると誰もが思った。

 しかしほんの一瞬、眼鏡の奥で目を泳がせた切島のまごつきを、拓扉は見逃さなかった。

 その逡巡に、後ろから手を伸ばす。

「バケモノも、同じですか? 」

 一瞬、返答を詰まらせる。

「人がバケモノだとして、バケモノが死んでも、何も起こらないんですか?」

「・・・はい」

 たった数秒間の沈黙。

 しかしそれは会議室の雰囲気を一蹴し、確実に皆の心に疑念を刻んだ。特に変わった様子はなく返事をしたように見せるには、少し遅かったのだ。

 監査はタブレットに指を構える

「嘘は、無知とは違いますからね」

 さぁ、どうでる切島。WTO代表として誤った情報を流して罪に問われるか。

 答えられないと言い、バケモノに関しての情報を既存であることを認めるか。

 勘九郎はじっと見つめて待った。

 少し上を見上げて、小さく息をした切島。

「まぁ、どっちみち想定内です。順序が早まっただけ。私がこれからやることは変わらない」

 切島は拓扉に、冷たい目線を送る。

「君、なかなかいい眼をしてますね」

 そう言って立ち上がり、補佐に指示を出した。

 モニターに入り込み映し出された映像は、またその島の映像だった。

 火山の麓。灰色の大地に、立派なログハウスが立っている。

 玄関前に、男が一人。窓から見える家の中には女が椅子に座っていた。

 しかし特に映像はそのまま大きな変化はない。しばらく、何もなくただその場面が映される。

「これは、現在のプログラムの中継です」

 勘九郎は目を見開き、動揺を隠せなかった。 

 馬鹿な・・・

「皆さんには今から、とても面白いものをご覧になって頂きます」

 拓扉は眼鏡を押さえて、冷や汗を流す。

 こ、こいつ、どこまで用意周到なんだ? 

 ライブだと。こっから何をすれば有利になるかなんて、少し考えれば誰にでもわかる。

 彼らは人質。

 そして今から行われるのは。

 

 桐島の不気味な笑みが影に隠れる。




 同じ頃、一行と動物組は遠くの草陰からそのログハウスをようやく発見した。まだ幼いエル、オル。カルからセルまでのハイエナは、危険だと言い留守番してもらい、もちろんラックは陸地へは来れない為、海に残った。

「や、やっと着きやしたね・・・ 」

 木にもたれて座る勝平の周りを、アルとイル、ウルがうろついている。

「人間は弱っちぃいきもんねぇ」

 平然とした様子で、周りの匂いを嗅いで回った。

「はぁ、はぁ。よし、まずはさっき話した通りの作戦で行く。もうちょっと休んだら、始めよう」

 息を切らしたまま空は呼び掛けた。しかし体力を枯渇させ、座り込んでいた皆の返事は、深い喘鳴に消えた。 

 二日間徹夜での彷徨に近い遠出。サバンナを超え、ジャングルを超え、山を突っ切って火山まで辿り着いた。

 サバンナは長距離マラソン。照りつける日差しと、野生動物たちとの縄張りの駆け引きは、集中力を削った。うねるような地面の上り下りの傾斜は、足腰に地道な負担をかける。

 ジャングルの山の傾斜は酷く、常に足首を曲げた状態で丸一日歩いた。草木は刺々しく、進むたびに身体中を傷つける。途中、ヒルや寄生虫に襲われ、互いで皮膚を破りあって虫を押し出した。蒸し風呂状態の気温の中、常に虫や毒カエル、毒蛇に注意しながら歩いても、激痛が走った時には遅く、腕や足は大きく腫れ上がる。足元を確認して、一歩一歩進んでも、時に抜かるんだ地面に足を取られ、腰まで沼に引き摺り込まれた。

 ジャングルは人を変えるという。

 リーダーの仲間を助けたいという思いは、皆理解しているつもりだった。しかしその道のりはあまりにも過酷で、全方位から攻めてくる緑の怪物達の猛攻に内心、心を折った。

 ジンジンと激痛が襲う足裏は、掴みようのない範囲で剥けた皮が、凝固した血をと共にぶら下がっている。

「・・・空くん、いけるの? その足で」

 慧茉は腫れ上がった腕を押さえて、潤う目で言う。

「・・・行くしかないんだよ」

 見れば見るほど怪我だらけで、泥だらけ。痛いのも十分分かっている。しかし今の空の頭にあるのは、悲しみを隠した伊都の表情だけだった。

「しかし、このまま行っても実際何ができるんですかね。もうみんなボロボロです」

「せめて昼まで休まない? 」

 被ってきたピンクのキャップのつばを後ろに回し、ルルは荒い呼吸で言う。

「確かに、あいつが俺たちんとこきたのは夕暮れだけど・・・ 息が整ったらもう行く」

「おいおいみんなこんな状況だぞ? 今行ってもボロ負けするだけなんじゃねえの? 」

 唯一まだ息を切らしていないのは現役格闘家の峯呂だけだった。しかしそれでも、血だらけの足と、植物の刺や虫刺されによって炎症を起こし熱を持った体が、体力を着々と消耗させていた。

「今んとこなにも俺たちに言ってこないってことは、とりあえずまだ伊都は大丈夫って気はするんだ。でも、だから今のうちにはやく行かなきゃ。気が変わって殺すかもしれないし、もうすでに死んでる可能性だってなくはないんだ。ここでぐずった時間が、そのきっかけになるかもしれない」

「心配し過ぎじゃねえか? 急いだってあんまいいことねえんじゃねえの? 」

「とにかく俺は! 一刻もはやくこの手が届くところまで行きたいんだ今すぐにでも!」

 一行は静まり、誰も反応しなかった。

 その反応に、薄々感じていた皆と自分の熱量の差は、確信に変わってしまった。

「みんながお前のスピードに合わせられるわけじゃねえぞ! 」

 「もうこんなところで喧嘩しないでよ! 」 

 慧茉は叫ぶように言い放つ。

「俺の、スピード? 」

 ムカつくほどに体を蝕む怪我の刺激もあり、癇に障る言葉を、いつものように受け入れることが出来なかった。

「あいつは、伊都はこの瞬間も苦しんでるんだぞ? もう目と鼻の先にいるんだ! こんなところでグズグズしてらんねえよ! 」

「でも案外そんなことないかもしれないですよ? 特に気にしてない可能性だってあの子ならありえるんじゃ・・・ 」

「お前らは分かってない! 」

 声を荒げて、黙らせた。

「・・・伊都は、誰より繊細なやつだ。見せないようにしてるけど、本当は・・・ 強くなんかない」

 沈黙が続く中、峯呂が口を開いた。

「リーダーなら、みんなの事も考えてやれよ」

 胸が締め付けられ、グーっと苦しくなった。

 みんなのことって。

 お前こそ・・・ 

 何かが剥がれ落ちたような感覚が全身を駆け巡る。同時に冷たく身を凍らせるような寂しさが募った。

 エールは、どうしようもなく不安な顔で空を見る。

 この時間に伊都が死んだら、どう思うんだろう。それでもやれることやったって、自己満足に終わるのかな。

 母の背中を思い浮かべた。

 死んでしまった猫の死体や、日々の学校の中、悲しみが漂う孤独な自分の背中が見えた。

 もう二度と、手の届かない思い。

 誰かに助けて欲しかった本当の思い。

 確かにそう。俺がそう思うだけで、あいつは助けてなんて、思ってないかもしれない。

 俺の、独りよがりで自惚れだ。それで済むならそれがいい。

 でも怖くてたまらない。もし、あいつが、誰かの助けを待ってたら。

 もし、本当は泣いていたら。

「ごめん。みんな。それでも俺、もういくよ。きっとここから先は、一つの線引き、自分で超えないといけないんだ」

 皆に背を向け、ゆっくりと草陰を出た。

「アル、フェイト。頼んだよ 」

 アンガーもそう残して後に続き、エールも羽ばたく。

「く、空さん! 俺も行きますよおおお! あぁ痛ええ! 」

 ボコボコに腫れた足を抑え勝平は倒れ込んだ。しかしウルは、非常な顔をして見ていた。

「さっさと起きな。いくんでしょ? 」

 鞭のような言葉に、魂を燃やす。

「・・・わーってるわ」

 土を握り締め、顔をあげる。

「総司殿」

 フェイトがかけた一言で、首の後ろについたヒルを潰して投げ捨てる。

 アル、イル、ウルは、勝平の周りに立ち並び、皆に背を向けた。

「アンタ達さぁ、さっきから一体なに言ってんのかさっぱりわかんないのよね。家族、助けに来たんじゃないの? 敵に襲われてるわけでしょ? グズグズしてる暇ないんじゃないの? 」

 峯呂は少し嘲る。

「人間には、ちょっと複雑な事情があんだよ」

「複雑? なにが複雑なのかしんないけど、ゴタゴタ言ってるうちに、大切もの消えてるわよ。言い訳を待ってくれる程、自然は優しくないわ」

 イルは冷静に言い返す。

「いま特攻するよりも、・・・効率のいい方法があるかもしれないじゃないですか」

「なんでも良いけど、だったらさっさとやれば? 」

 ウルも突き放すように言う。

「な、なんだよお前ら。いきなり喧嘩腰になりやがって」

「まるで私たちが、何もしてないみたいに! 」

「・・・エマちゃん。何をしただか? 」

 小さな声で言ったプレアの言葉に、慧茉は驚いた。

「まだ、何も救えてないんじゃないだか? なのになんでそんなくたびれてるだか? 」

「見てわかんない? こんなにボロボロなんだよ!? 」

「このままでは、救えるものも救えないと思いますが」

「でも、怪我しても結果救えてないんじゃ元も子もないんじゃなぁい? アンタが嫌いな、無駄ってやつでしょ」

「ミラまで・・・」

 動物組の意外な共通意識は、自尊心を攻撃していく。しかし酷く痛む怪我に脳が麻痺して、冷静に意見を聞き入れることが出来ない。

「ヤマ! お前はどうなんだよ! 」

 黒い虎子に、峯呂は叱るように言った。

 ゆっくりと目を開けると、虹彩が細く縮まった。

「・・・どうもこうもねえよ。助けるんだったら最後までしっかりしやがれ。その気が無いだったらこんなところまでノコノコくんじゃねえ」

「そんな言い方・・・」

 ルルはそう言いかけた時、フェイトが落ち着いた声を出した。

「某達は、奪われたものを取り返す手段を一つしかしならない故、立ち止まることはできないのでござる。申し訳ないが、お主達は、折れた心にぬるま湯を掛けているようにしか見えぬ」

 誰も言い返えせず、黙したまま座り込む。

 すると勝平は大きく息を吸いこんだ。

「空さんが行くっつったらいく。俺にはそんだけの理由で十分だ。お前らは、こっからさき、何の為に行く? このまま行ってぶっ殺されて、その体、一生使いもんにならなくなってもいいって思えるなら来りゃいい。でもないならやめとけ。誰も責めない」

 立ち上がり、フラついた勝平の肩を総司が支えた。

「俺も、正解なんてわからないが、今のあいつに、ついて行きたい。

 ・・・なんだろうな。人を助けるって、なんだと思う? 考えれば考える程、偉そうなことだなと思わないか? 絶対に救える保証もなけりゃ、約束もできない。その人の力を信じてないことにもなる。一体どれだけ自分を過信しているんだろうな。俺たちは、人を救える力なんてもっちゃいないのに。現に、自分のことで一杯で、口ばかりで、結局体の悲鳴に負けて、今、伊都の苦しみを無視しようとしたんじゃないか? 心の奥底じゃ、人の事なんて考えちゃいなかったのかもしれない。

 花時丸を見てみろよ。いつも、なんか考えて、なんか悩んで、なんか苦しそうに見える。なんでか、ずっと考えてたんだ。こいつ、楽しく生きようって考えたことあんのかなって。いつも物事が複雑になっていく。でもそりゃそうだ。あいつの胸の中には、自分の心と同じくらい大きな、誰かの心が住んでるんだ。いろんな感情が、いろんな角度から、いろんな色でずっと話してるんだよ」

 総司は悲しげな顔で、少し笑った。

 「人の気持ちを考えるとか、人に寄り添うとか。人を助けるって。ほんと、楽じゃねえんだよ。自分の心も体も、半分やるくらいの覚悟じゃなきゃ。見返りも求めず、自分犠牲にするぐらいの気持ちもってなきゃ出来やしない。だが、あいつには、それができた。

 ・・・そうしなきゃ、生きていけなかったんだろう」

 草陰を出ると、優しい日差しが二人とハイエナとオオカミを撫でた。

「善悪はない。自分を守るのも。人を助けるのも。どちらも正解で、どちらも間違いかもしれない。ただ言えるのは、自分の生き方には、ちゃんと拘れ」

 清々しく、膨張する青空が出迎えた。目の前には、聳え立つ火山が、臨場感溢れる解像度でこちらを威圧してくる。

 向かう足乗りは、ゆっくりと歯痒いが、一歩ずつ、確かに歩んでいた。


 

 

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