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Waves Tones 【ウェイブストーンズ】  作者: 海月 恒


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第二十五話  急襲


「まずは束石を四〜八箇所に設置し、平行を見る。地面が柔らかければ、束石の下に砂利や小石を引いて浮き沈みしないようにします。平行がとれたら次に束柱を立てていきます。最初から強く固定せずに、柱と柱の間の長さを計測しながら、固定していきます。全体を上部で固定したら次に屋根・・・ 」

「わかんないわかんない! 何一つわかんない! 」

 深緑色のカバーが覆う本を、寝そべって読み込む柊。

「なんですか。せっかく朗読してあげたのに」

「ツカイシって、なんだよ。人か? ツカイシさんか? 」

 勝平はまた逆立ちをして腕立てをしている。

「ツカイシさんは束柱を立てる基礎となる石ですよ。コンクリートの。ちなみにコンクリートとは、砂、砂利 水、セメント、骨材などを混ぜ合わせた建設材料で・・・ 」

「分かった分かった! 」

 柊もヤケクソになって雑な読み方をした。

「結局のところ、その材料を集められるかどうかだよな」

「頑張れば、集められないこともないです。貝殻を集めて、石灰を作って、セメントを・・・ ペットボトルをつかって平行をみて、と。頑張れば、ですよ。頑張れば」

「もともと家なんか必要ない奴らだ。そこまでこだわる必要ないんじゃないか? 」

「いいこと言うじゃないですか総司さん! 」

「確かに。アンガーなんて、柱一本立ってたら大喜びしそうだ・・・ 」

 部屋の中でうなだれる四人。

 午前中の仕事を終え、これから取り掛かろうというのに動き出さないのは、天気がそれ程よくないからでもあった。

 珍しく空は曇り、どんよりとした森にはに湿っぽい風が吹いている。

 このままじゃ動けないなぁ。

「まぁ、やるっつったもんは仕方ね。それっぽく作れば喜んでくれるさ! 」

「そっすね!」

「やりましょう」

 自身にも鞭を打つように掛けた声は、四人の重いお尻を持ち上げた。

「じゃあ単純に設計すると、穴を掘って、四本くらい四隅に太い木を建てて、細くて長い木を四隅を通して枠のように上に紐で固定し、大体の骨組みを作ったら、でかい草か葉っぱを乗せていけば屋根になります。屋根は斜めに設計した方が、雨の流れる道ができますし、それをタンクに溜まるようにすれば、水も同時に手に入ります」

「完璧だな。さすがだぜ。じゃあ早速材料を探しに行くか」

「これ、使って下さい。昨日偶然見つけた尖った石です。これを木に叩きつけて傷をつけていけば、倒せるかと思います」

「おお、ありがとう」

「俺もいくっすよ! 」

「ダメです! 貴方は私の方を手伝って下さい。総司さん、付いて行って下さい」

 総司は何も言わずについてきた。

「じゃあいってくる! 」

「気をつけて」

 空と総司は、川の方角へと進んだ。

 心地の良い日差しが差し込むはずの森のステンドグラスは薄暗く、輝きを失っていた。

 湿気が多く、すぐに身体中が汗ばむ。落ち込んだように垂れ下がる草や若木が邪魔をして、思うように前に進まない。湿って生気をつけた太い木の根は、グニョグニョと今にも動き出しそうだ。

 川についた二人は、あたりを見渡して、使えそうな木を探した。

 切り倒せる太さでありながら、丈夫なもの。持ち運べそうな重さのもの。

 しかしどれも切り倒すには立派過ぎる。仮に倒したとしても、運べそうになかった。

「たくましすぎるなぁ。どうしようか。あんまり遠くに行っても持って帰るのも大変だし」

「川の向こう側、あまり行ったことないが、なんかあるかもしれん」

「そうだな」

 思えば、最近よく総司は喋ってくれるようになったな。

 少しは心開いてくれたってことなのかな。てか別に、心開いてくれなくてもいいのかな。

 仲間なんて、意識してんの俺だけかも。

 また歩き出した総司についていった。不意に後ろを見ると、フェイトがいた。

「あれ、来てたのかフェイト」

「空殿。某皆に置いていかれたから、帰ってきたところでござる」

 地面の匂いを嗅ぎながら、フェイトはトコトコ歩いてくる。

「そっか」

 少し笑んで、歩きながら話した。

「最近、みんなとはうまくやってるか? 」

「まずまずでござるよ。アンガー殿はとても優しくしてくれるでござる。しかし狩りにはとても真剣な故、ときに置いていかれてしまう。あとはハイエナの女子と男子たちはいつものとうりでござる。どうも苦手でござるよ」

「はは。まぁ、苦手な奴はどこに行ったっているもんさ」

「空殿にも、いるでござるか? 」

「んー今はなんとも思わないけど、前はそんな奴しかいなかったなぁ」

「そうでござるか。そんなに苦手なものが多くては、さぞ居心地が悪いでござろう」

「そうなんだよ。・・・ ほんとそう」

 現実のことを思い返していた。

 ずーっと、人の視線に打たれるような感覚だった。

 どうだっていいはずのことなのに。

 何を心配していたのかも、今はあまり思いだせない。

 ただただ、そこが嫌いで仕方なかったんだ。

「花時丸、聞いてもいいか」

 総司は背を向けたまま言う。

仮想ここへ来た理由」

 少し空気が冷えてきたのを感じながら、空は少し考えた。

「母親、だと思う。二人暮らしなんだけど、生活に余裕がなくてさ、謝礼金が出るって聞いて、すぐ応募した。ような気がする。記憶がないから、絶対とは言えないんだけど」

「そうか。俺も婆さんと二人暮らしだ。両親は海外で働いている。だからあまり、生活に困ったことはなかった」

 木の枝で雑草を掻き分けながら、総司は続けた。

「・・・ いつも、何かが足りない気がしていた。どこにいても、何をしてても。知ってのとうり、俺は無口だが、友達がいない訳でもなかった。成績が悪いわけでも、家庭環境に問題があるとも思わなかった。

 だが俺は、ただ生きていくことに、何を感じればいいのか分からなかった。

 婆さんはいつも言う。(奈々山家は代々、その地の大名に使える家臣だった。その身を賭して殿をお守りする誇り高き武士の家だ。お前がいつも腑抜けた目をしているのは、なにか燃えるような志しを育むにたる理由がないからじゃないか)と。

 ここへ来て、お前に出会って、俺は負けた。お前には何かがある気がした。それを知りたい」

「な、なんだそれ」

 半分照れる気持ちを隠した。

「そんなに俺は期待されるような人間じゃないよ。ただ自分が死にたくなかっただけで。記憶がないぶん、人より必死なだけで」

 総司は黙ったまま歩いた。空も自分の言葉や気持ちを見つめようと考えていた。

 少し進むとひらけた場所に出た。波打つような形状の地面を若い緑色の雑草が覆い、若い杉の木がポツポツと生えている。

「あれはどうだろ」

 杉の木に近寄り、触ってみた。

 直径二十センチ程の太さで、みずみずしく、叩くと鈍くこもるような音がした。

「よさそうだ! 」

「花時丸」

「ん? 」

「それでも、俺はお前に」

 そう言いかけた時、総司の背後で何かが揺れた気がした。

 巨大な大木が、あるだけのはず。

 しかしその木の皮は、風が吹くと細かに揺れる。

「総司・・・ うし・・・ 」

 その瞬間、総司は真横にいきなり吹っ飛んだ。

 大木と思っていた総司の背後には、大きな毛の塊があった。振りかぶったのは空の頭より大きな拳だった。

 恐る恐る目線を上に上げると、小さな目玉が二つ並んでいた。真っ黒なつぶらな瞳が、じっとこちらを見ている。

 あまりに大きかった。

 あまりに唐突だった。

 四メートル以上はある巨体。

 分厚そうな毛皮。

 妙に人間らしい骨格。

 正気を感じられない表情。

 瞬間的に悟った。

 新手だと。

 しかし行動には移せなかった。

 何から始めればいいかという、単純な思考さえ回転しなかった。恐怖で尻込みする体が、結露のように汗を次々に分泌する。

 すると隣から異常なまでに濃密な殺意を感じた。

 フェイトは何重にもなる鼻のシワをつくり、毛を逆立て睨みつけている。

 唸り散らすその憎しみと怒りが、空を恐怖から解放した。

「はぁ、はぁ! 」

 呼吸が止まっていたいらしい。やっと少し景色が見えるようになった。

 走れ! 

「総司! 」

 空が走り出すと同時に、フェイトは凄まじい鳴き声をあげて、激しく飛びかかっていった。

 丸太のような足に噛みつき、目で捉えられないスピードで首と体を捻らせ。肉を食いちぎろうとしている。

 先程までの温厚な生き物とは思えないような、荒々しく暴力的な動きだ。

 空は総司の元へ滑り込んだ。

「総司! おい! しっかりしろ! 」

 肩を持って揺らすと、体はクネクネと萎れていた。意識はなく、右太ももがありえない方向へ曲がっている。

「くっそ! 頼むよ! 起きろ! 」

 総司は、みるみる顔色が悪くなっていった。

 空は化け物がフェイトに気を取られている隙に、総司の体を引っ張って木陰に隠れた。

 どうするどうするどうする!

 多分この状況じゃフェイトと総司は、合体出来ない!

 逃げるのが一番正しい選択だけど、この体を抱えて逃げ切るのは不可能だ! 

 やばい、勝ち手がない・・・

 木陰から少し顔を出し、化け物を覗き込むと、フェイトは攻撃し続けていた。

 しかし化け物は動じることなく足を軽く動かして追い払おうとしているだけだった。

 どうすれば・・・ 

 今すぐ俺だけ逃げ出して、アンガーと戻ってきても、総司かフェイトが殺されない保証はない。

 というか、一番危険なのはフェイトだ。

 あの化け物が、その気になれば、一撃で行動不能に・・・

 くっそ! モタモタしてる暇はない!

 木陰から飛び出そうと、総司を置いて立ち上がった。

 しかし、またすぐに足を止めた。

 今俺が離れて、もし総司を狙われたら、もう・・・

 今にも駆け出したい気持ちと、この衝迫に対する不安が、足を地面に強く吸付ける。

 やっぱり、逃げるならどちらかは確実に・・・ 

 だダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだああああああああ!。

 頬を思い切りぶった。

 全部守り通せなけりゃ、意味がないんだ!

 冷静になれ・・・

 額に手を当てる。

 仲間必要、呼び行く、誰が、足早い、フェイト、行かせる、総司、俺、耐え凌ぐ、どうやって、動けない・・・

 そうだ!

 空は枯葉や雑草をかきわけ、浅い穴を掘り始めた。

 急げ急げ! フェイトが動けなくなる前に!

 アドレナリンで力が溢れ出てくる。フェイトと化け物の様子を見ながら、バレないように、死にものぐるいで腕を動かした

 震えるような鼓動が気持ちを急かし、掘り進めるリズムを狂わせるが、無心で続けた。

 浅く広い穴を掘ると、総司をそこに入れた。土を被せ、息ができる程度に口元を出し、草で覆った。

 絶対出てくんなよ!

 気づかれないまま遠回りして化け物の後ろ側まで一人で動いた。

「フェイトオオオオオオオ! 」

 大声で叫んで、持っていた木の棒を化け物へ槍のように投げた。

「ついてこい! 」

 怒鳴るような言い方をする。怒り狂ったフェイトに命令するには必要だった。

 フェイトは一度振り返り、威嚇しながら後ずさりして空の方へ走ってきた。

 化け物も、空を見ると二足歩行で追ってくる。

「総司殿はどこに! 」

「置いてきた! 隠して! 」

「見殺しにするつもりでござるか! 」

「そんなわけねえだろ! 」

 背後に迫る化け物の威圧を感じながら、森の中を駆け回る。

「いいか! お前はこれからアンガーを呼んでくるんだ! ここからならきっとサバンナの方が家より近い! 」

「総司殿をここ置いては行けない! いずれ見つかって食われてしまうでござるよ! 」

「分かってる! あいつは俺がなんとか引き留めておくから、その間にアンガーを連れてくるんだ! 」

「空殿には無理でござる! 某が相手を! 」

「ダメだ! お前じゃ戦えても、俺がアンガーを連れてくるには時間がかかりすぎる! 」

「しかし某総司殿から離れるわけには・・・」

「いいからさっさと黙って行け! 」

 木々で遮られる死角を駆使して、化け物の視線が外れると同時に木陰に飛び込んだ。

「はぁ、はぁ。いいか。みんなを助けたいなら、俺の言うことを聞いてくれ」

「総司殿が、心配でござる! 」

 不安や心配、悲しみで叫び出しそうな表情を浮かべる。

 空は痛いほど理解できた。

「絶対俺が守ってみせるから! 」

 お前の忠誠は、本当に尊敬するよ。

 だからこそこれは譲れないんだ。

「頼む。信じてくれ。俺は、何も失うわけにはいかないんだ! 」

 フェイトはじっと空の目を右、左と見つめた。

「承知」

 背後を向いて、そうい言うと猛スピードで駆け抜けて行った。

 よし。なんとかここまでは。

 化け物は唸り声をあげて、近くの木を折り倒した。

 妖しげな霧が泳ぐ森は、気圧とともに体と心を圧迫した。

 自らも、折れそうな魂に火を放つ。

 友が名を呼ぶその瞬間まで。

 

 

 

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