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Waves Tones 【ウェイブストーンズ】  作者: 海月 恒


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第二十三話 皿


「というように、二年後には物資配達における国が負担する総費用も、例年と比べ二十パーセント抑えられます」

 一ヶ月後、再び会議室に集められた大人達の険しい表情が立体画面を囲む中、淡々と話は進んでいく。

 改谷は計画によって予測される改善の見通しを説明していた。 

 永田は右腕につけた木製のデジタル腕時計の画面をタッチする。白いホーム画面が立体に飛び出てくると、その中のファイルを呼び出し、手前の透明なテーブルの液晶画面へデータを飛ばし、開いた。

 —消費税率増加年表—

 そもそも何故火星に国が出費しなければならないのか。

 本来税金によって国民に支えられ、また還元していくシステムの中、返済義務無しの一方的な寄付を行う理由。

 勿論火星での安定していない民衆の生活保障、文明の繁栄、理由は様々あるが、そこには明確な原因があった。

 富裕層が我先にと新境地に足を踏み入れ、身勝手に開拓を始めてしまったこと。それに関わる国民共々、引きずられるように地球を去ってしまったこと。

 星から星への一般人の引っ越しに、国が関与しない訳にもいかず、あらゆる国々が、生活基盤を応急的に建設し、次から次へと漏れる水を塞ぐようにして金品を費やした。

 確かに当時の技術的に移住は不可能ではなかった。だが能力よりも先に、新たな文明を築くには現実的な面でも、人々の精神的な面においても準備が必要だった。

 その時間があまりにも少なかった。故に国々の金や貿易のバランスが乱れ始めたのだ。

 では何故、富裕層は急いで新天地を目指したのか。

 何故、金を持っているというだけで国を差し置くように身勝手な動きができるのか。

 それは、国ができるしくみに関係してくる。

 国家というものは元々、社会的に最高の権力を持つ訳ではなかった。成り立ちは、戦争という行事を行い、更地になった土地に富裕層が銀行を置き、そこから資本を貸してもらい始動する。

 国の設立に必要とされる、想像もつかない資本を優に貸せる膨大な金の箱を持つもの。

 彼らは借金に利子をつけ、国という大きな債務者をつくり、頭を垂れて崇められる債権者となった。

 つまり国など、その『皿』の上にある料理に過ぎない。

 それがどういうことを意味するのか。

 法治国家であるはずの世界で、頂点の更に上に立つということ。

 法の上に存在するということ。

 法を犯す、概念がないということ。

 処罰できないということ。

 その国の法律も、制裁も、無視できる権利を持つということ。

 その事実が露見され始めたのは約二十年前。

 技術や政策が進化する度に、変化する民衆の精神的な動きに合わせ、より献身的で、誠実な姿勢を整えていく過程は、世界のあらゆる膿を吸い出すことになった。

 傲慢で身勝手な政治家の暴挙。

 違法が露見した著名人の健全なイメージの失落。

 忖度の意味を履き間違えた、上級国民といわれる役員の不公平な減刑。

 人々の精神性と共に公正な世界に近づく中で、核心的な部分はついに透明化したのだった。

 教科書からメディアから、アニメから、映画から。親から、子供まで。

 教えられてきた最高権力の移行。

 元々この世界は。

 最初から平等など無かった。

 誰かが得をし、誰かが損をする世界だった。

 いったい誰が、真に世界の平和を望んでいたのか。

 誰の為の世界なのか。

 世のため人のため?

 日本固有で、世界的な人間の道理にまで染み渡った人生観は、悉く、砕け散った。

 文字どうり我が世界を謳歌する『皿』

 動きは顕在化、伏せられていた横暴や不平等さが浮き彫りになる。

 世間が認知した『皿』の存在は、人々に法と権力の暴力的な一面を感じざる得ず、国に対しても、その存在に対しても怒りを露わにした。国柄によってはテロや暗殺などが過激化。

 金の力を持ってしても、数の暴力に敵わなかった一部の富裕層は、逃げ道の為に火星移住計画の資金を倍増させ、実現を早めた。

 故に、今でも金は地球から火星へ飛び続ける。

 宇宙空間に出てしまえば、ただの紙切れ。主な成分がセルロースの物体でしかないのに。

「実用化する栄養食品は、摂取方法も様々に変化させることが出来ます。開発された栄養食品、『ザ フル』は、現在、経口摂取、サプリメント、点滴に対応でき、使用期限も二年はゆうに持ちます。経口なら百三十グラム、飲料で五百ミリリットル、サプリメントは、朝昼晩で四十グラムを摂取することで一日に必要なエネルギーを補給。また満腹感にも作用し、物足りなさの感覚軽減などの効果もあります。現在二十名の被験者が、『ザ フル』を使いそれぞれの摂取方法で生活をし半年以上問題なく生活しています。個人の健康状態、理想の体型などに合わせ調合することもでき、医師の診断のもと、合理的な健康を実現します」

 切島はベッテンドルフとスクリーンの映像と画像を動かしながら流暢に話した。

「凄まじい技術だ」

 勘九郎は感心して小さく頷いた。

「同時に恐ろしい。本当に食事なしで生きていけるなど」

 永田はスクリーンを瞳に反射させている。

「食べること自体を嫌うものも増えたこの時代、むしろ喜ぶ人の方が多いですよ。理想の自分になる為の努力もやる気も必要なく、ただ普通に生活していれば、自然と叶っているんですから」

「ぐうの音も出ませんね。なんのデメリットもないように見える」

「何のデメリットもないものなど存在しない」

 永田は腕を着物の袖に中に入れる。

「逆に食事がある事によって私たちにもたらされるメリットがどれだけあるか。それが全て消えるという事ですよ? 何より身体的なことよりも、『食事をする』という行為によって生まれる精神的かつ欲求を満たすような快楽は、決して消えていいものじゃないでしょう」

「確かに食事は基本的欲求の一つですから、それがないことによる精神の不安や苦痛は多少あるでしょうが、それら諸々の軽減作用を持つ成分は既に配合されていますし、状況によって薬でも対応できます」

 メガネを押さえて冷静に答える切島。

「なぜわざわざ病気や問題が起きそうなことをやる必要があるんですか。だいたい、そうやってなんでも薬で解決していくことに私は疑念を禁じ得ません」 

「国の国庫金、また国々との関係性、火星治安、食料不足、これらを一気に解決できる見通しの立つ方法が、他にあるんですか? 」

「一度に解決する必要はありません。一つ一つ別に考え、細かな処置を行っていけば対応できるんじゃないんですか? 」

 切島は椅子にふてくされるよう雑に椅子に座ると、ボソッと呟いた。

「永田さん、そういうの問題の先延ばしっていうんですよ。」

「何? 」

「今までずっとそうやってきたじゃないですか。国も、私たちも。水の入った袋に穴が開く度に、テープを貼り、またテープを貼り、補強し続けて。でももう袋はボロボロなんですよ。次にテープを張り替えようと剥がした瞬間、袋ごと剥がれてしまうかもしれないんですよ。そうなったらもう遅いんですよ」

「それは出来る最大限の事をやった結果だ。誰も後悔はしない」

「それじゃ守れないんですよ! 後悔しないのは一部の人間だけです! いつの時代も誰かが時代の穴から抜け落ちて犠牲になる」

「それは私が一番よく分かっている! だからこそ、この今の現状を苦しむ人々に、大きな変革のせいで唐突に訪れる不安や苦しみの時間よりも、今の理解できる世界の中で幸せを探す時間を生きて欲しいんです」

 袖の中で握った拳は硬く、一才の揺らぎを見せなかった。

「・・・そんな事できるわけがない。民衆というのは人任せなものですから」

「それも、よく分かっています」

 「だから、こっちも勝手にやろうって話ですよ永田さん。大きかろうが小さかろうが、変化には問題が起きるものです。貴方は人間の精神性を大事にしてるみたいですが、買い被り過ぎなんですよ。そんなことを考えていては、何も進めないんじゃないですか?

 ・・・それに、この件にはアヌが関わっているんですよ」

 永田は黙り込んだ。勘九郎も考え込むよう傾聴している。

 「アヌが起こしたとされる五年前の『あれ』は、富裕層への威嚇とも捉えられます。

 正直言って・・・ あの事件、いや災害。いや、神災じんさいとも言いましょうか。そのおかげで、一新した国際連合、世界政府NWSができ、スパイや回し者が排除された今だからこそ、できる政策でもあるんです」

「大き過ぎる犠牲だ」

「だからこそ無駄にしてはいけません。この際、踏ん反り返ってでも、未来の更なる平和のための努力を続けなくてはいけないんです。貴方が疑念を浮かべる薬も、何億もの屍を喰らって進化し、今やっとどんな命も守る力を得たんです。それで救われた命は、貴方が言った幸せを探す時間を超え、失いかけた命の有り難さと儚さを噛み締めて、幸せの中で生きることが出来るんです。

 科学は。テクノロジーは、誰もが平等に生きる未来を創る為に、今を費やす事なんです」

 永田の熱、切島の熱。どちらの火種もこの部屋に中にいる人間の心に火をつけただろう。

 勘九郎は、自身の考えを飲み込んで声を出した。

「時間です。では現段階での賛成と反対の挙手を」

「賛成の方」

 その瞬間、一部を除いた全員が背筋を凍らせた。

「山本・・・ お前・・・ 」

 WHOから賛成の挙手が一つ上がった。

 切島は口元を隠した。

 冷や汗が流れる永田。あまりの衝撃に鼓動は加速する。

 やられた! 崩れる、均衡が。

 初手、一本を取ったWTO。

 得物コンバットマグナムは大胆にも、堂々と敵の左腕を貫いた。

 

 

 

 

 

「お前ら、今日こそやるぜ? 」

「お、おう・・・ 」

 緊迫した部屋の中、空たちは何かを始めようとしていた。

「じゃあ、皆さんのを見せて下さい」

「俺からいきますぜ! 」

 勝平は勢いよく高く飛んで、空中を何回も前転した。

 四人の頭の中に、スーパー戦隊のオープニングのような熱く勢いのある曲が流れる。

 効果音と同時に、勝平の腕には木と布で作った簡易な鎧が装着されていく。

 腕、胸、頭、そして拳に巻いた布の上に木で作られた制作時間三時間の渾身の箱型グローブが装着される。

 かっこいい決めポーズと共に、変身が完了した勝平。

「私です! 」

 勝平同様に高く飛び上がり、回転した柊は、全身を光らせた。

 指先から足の指先まで光ると、腰を限界まで反らせる。どこかで見た事があるような変身タイムだが、誰も違和感に気がつかない。

 光が消えると同時に、腕と胸に簡易な防具が出現した。

 髪をハイポジションポニーテールにし、目のしたを炭で黒く塗り、石の刃がついた薙刀を思い切り家の床に叩きつけ、変身終了。

「俺だ」

 総司は、正座した状態から一気に飛んだ。

 箱のような鎧に自らが突っ込むように装着して、右腕、左腕と大きさに見合った箱に腕を通した。

 最後は手作り感満載の目の位置バランスがおかしい木の仮面を被り、長い木刀を構えて終了。

「キメるぜ! 」

 空は壮絶な叫び声をあげながら、燃え上がるオーラの光を防具に変化させた。

 また多少ディティールの違う簡易な腕の防具に、サイヤ人の戦闘服のような木製肩パットの突起が大きい胴の防具。

 そして地面から生えてくるように伸びてくる石刃槍を手に取ると、数回ぶん回して、ポーズを決めた。

 四人は勢いに乗ったまま、サバンナまでいくと、アンガーとアルたちの狩場まで近づいた。

 大きなスイギュウを相手に、機会を伺うアンガーたちの背につくと、四人は互いの目をみて頷いた。

「うおおおおおおおおおおおお! 」

 大きな威嚇吠えに、アンガーたちは耳を倒して怯んだ。

 自慢の武器を掲げて、得物に走っていく四人。

 あまりの驚きに開いた口が塞がらないアンガーたち。その場で空たちの背中を眺めた。

 異変に気付いたスイギュウの群れは、すぐさま走り出した。

 四人は必死で走ったがなかなか追いつかず、自身の荒い息と防具が擦れる音で一杯になった。

 総司は息ができなくなり、仮面を投げ捨てた。

 勝平も鎧を外し、また半裸になって走った。

 柊は闇雲に序盤で薙刀を放り投げ、四つん這いになり止まっていた。

 空は一生懸命走ったが、肩パットが邪魔で腕上がらず、少し走るとバランスを崩して転んだ。

 空と柊を置いて勝平と総司が群れを追いかける。

 空の元に歩いて来たアンガーたちの冷たい目線が刺さった。

「なにがうおーだよ」

「何やってんのアンタら」

 かいた汗のおかげで、風がひんやりとしていた。

 乾燥した大地の薄い空に、柊の泣き声が響いた。

「どうじでえええなんでだどおおお! 」

 その後、集められた人間四人は、動物の前で正座していた。

「おめえらバカじゃねえのか? 」

「バカなんだよ! 」

「バカヤロウだ! 」

 カル一派の罵声が飛び交う中、返す言葉もない空たち。俯いて反省した。

「肉が、食べたかったんです。ハイ。肉が」

「リアルに、猿の方がまだ賢いわね」

 ウルはそういうと笑った。

「言ってくれれば協力したのに」

 アンガーは心配そうにした。

「いやぁ、頑張れば、人間だけでもとれるかなぁって」

「アンタらじゃ一生かかっても無理そうね」

 アルは地面に座り休んだ。

「アネキ、手伝うんですか? 」

「このまま餌場で暴れられても邪魔でしょうよ。といっても、協力するメリットないしね。別にアンタたちの力なくても、今なら生きていけそうな気がして来たわ」

「ちょっ、ちょと待てくれよぉ」

 勝平はうなだれる。

「俺たちだって、そう思ったから自分達だけで取れるようになろうと思って・・・ やったんだけど・・・ 」

「じゃ・・・」

「邪魔でしたね! すいません! 」

 アルが言い切る前に頭を下げた空。

「そのかわりになにをくれるかって話なのよねぇ〜」

 しばらく皆黙って考えた。

 サバンナの端で集まる動物と人間の奇妙な群れ。

 木陰で日が照らす大地のうなりを眺めていた時、柊が沈黙を破った。

「小屋・・・ 」

「ん? 」

「動物組専用の、家」

 驚きと同時に一斉に柊の方を向いた。

「こ、小屋。作れるのか? お、俺たちで? 」

「前々から思っていたんです。不潔だなぁと」

 

 ・・・それ俺たちのメリットじゃね? 

 

「おお! 家が増えるってこと? オイラ欲しいぞ! 」

「えぇーいる? 今の住処で十分じゃない? 」

「それぞれの寝床、トイレ、を作り、水も私たちが管理しましょう」

「まじでいってんのか柊? それじゃ飼育委員じゃねえか! 」

 勝平はグローブを投げ捨てた。

「アネキ、どうやら人間が舎弟みたいになるらしいでっせ」

「ほ、ほぉう・・・ べ、別に嬉しくないけど、まぁやりたいっていうんなら? し、仕方ないわね」

 アルは頬を赤らめて顔をそらした。

「どうします? 」

 柊が詰め寄った。

「乗った。アンタ、キレる女ね」

「では確認します。私たち人間組は安全な動物組の小屋の制作をします。寝床、トイレ、水を設置した快適な家です。代わりに動物組は、狩りの協力、指導、余った得物の提供を行っていただきます」

「いいだろう」

 地面に書いた契約書に、アルの足形と柊の手形を残し、一行はまた狩に向かった。

「本当につくれるんすかね」

 勝平は不安な声でいった。

「まぁなんとかなるんじゃない? 柊も不可能なことは言わないだろうよ。でも実際、木とか切り倒すのって、道具もいるし、材料集めから大変だなぁ」

「俺、一日中叩いても、木は折れなかった」

 総司はボソッと言うと、前に走ってフェイドの隣へ行った。

 不安の昂まりを静かに感じた空と勝平。

 獲物を探す道中、重い足取りが目立った。

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