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Waves Tones 【ウェイブストーンズ】  作者: 海月 恒


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第十五話  SSTP


 永田は画面に映る資料を遠目に読んだ。

     (self sufficient traning program

          概要と理念

 自然豊かな島での自給自足による生活を営み、忍耐力の確率を促し、将来的に強固な信念と、物事に柔軟に対応できる人間性を作り上げる事を目標とします。ヴァーチャルリアリティーシステムを最大限に活用し、安全な環境の中で様々な問題の解決に励んで頂き、有能な人材を育みます。また、一年という長い期間の実習訓練になる為、その期間の授業単位、学習内容は履修済みとし、後に課外授業として受講して頂きます。その際の別途費用、また本プログラムを実習して頂くに当たっての謝礼金の配布を行います。

 応募について。

 資格。

 一定水準の健康診査を通過したもの。

 高等学校に在籍し、出席日数が一定以上であること。

 親族の許可証明が得られたもの。

 

 これらの条件を満たし、応募から三ヶ月後に実行委員会との面接を行います。

 定員

 男女問わず八名。

 期間

 帰還後のケア含め二年間。

 会場

 新東京都総合病院地下二階。

 

 ヴァーチャルリアリティーシステムについて。

 従来のシステムとは異なり、意識をコンピュータの中に移動することで、現実との境界を感じることのない仮想空間に入ります。近年目まぐるしく進む技術により、人間の脳と意識をデータ化することに成功。一般にこれらを実行するのはこのプログラムが初となり、その為謝礼金の配布を行わせて頂きます。また、受講される方の健康管理は当委員会が責任を持って行わせて頂きます。

 なお、一年という長い期間寝たきりの生活による身体的な問題についても、日々の体調管理を徹底し、帰還後、適切なケアプランに沿ったリハビリを行い、個人の平均的なステータスまで回復させます。

 より詳細な内容は、ホームページよりアクセスして下さい。

 皆さまの御協力の程宜しくお願いします)

 



「では最初に、火星完全栄養食実用化計画について、現段階での賛成と反対の挙手をお願いします」

 拓扉は続ける。

「賛成の方」

 袖が胸に擦れる音がする。

「反対の方」

 全く同じ音量の摩擦音。

「まぁ、そうでしょうね」

 勘九郎は指と指を絡めて、手を顎の下の置いた。

「賛成四人、反対四人。賛成の方から意見を」

「WTO桐島です。我々は賛成です。皆新しい世代に必要なものだという意見のもと仕事をしています。主食となる栄養食を造るのも我々で、その重要性や安全性を説明するのにことたります。使い手は選べませんが、科学者である以上この技術、そして政策が、人類の未来を造る若者たちへの道を切り開くことを望みます」

 アンドロイドが、空のコップを下げて回る。

「では反対の方お願いします」

「GWHO永田です。私達は反対です。歴史家として、食文化は無くてはならないものだと判断します。どんな国も、それぞれの食事によって文化を形成し、地球の生物として、命を繋いできました。もしその流れを断ち、人が食事を辞めてしまったら、起こり得る問題が多く存在します。火星の封建的な政治を改革する方法は、他にあるのではないでしょうか」

「確かに。食文化の廃止、消失はあらゆる問題を産みますね」

 勘九郎はアンドロイドに自らコップを渡す。

「それについては我々が答えましょう」

 霧島は透明なデバイスをポケットから取り出した。

「まず、最初の・・・ 」

「霧島さん」

 ベッテンドルフが、小型のイヤモニターを指す。

「会議中だぞ」

「ですが」

 仕方なしに霧島もイヤモニターのスイッチを入れた。

「失礼」

 口元を隠し、小声で会話する霧島。

 会話が終わり少しため息をつく。

「申し訳ありません。コンバーター関連に問題があり、早急に向かわなくてはならなくなりました」

 騒めく会議室。張り詰めた空気の糸が解ける。

「全員の出席が叶わぬ以上、続行はできません。本日はこれにて終了とします」

 次々に席を立つ参加者。椅子が膝裏で押される音が増える。

「申し訳ありません」

「皆多忙の中集まって頂いてます。時期を急いた会議ですが、一年間に幾度集まれるか分かりません。スケジュール等の確認等、再度宜しくお願いします」

 扉を出て行く人の顔を拓扉は見ていた。肩の荷が下りたように穏やかな雰囲気。

 しかし霧島だけは違った。

 何食わぬ顔をし、何も無かったように歩いているにもかかわらず、滲みでる本性。

 殺伐とした心が。

 

 

 

 

 首や肘。ケツポケットに入った砂を払い空は立ち上がった。勝平たちも持っていく荷物を集めている。

 まだ空は薄暗い。この夜と朝の間のうちに、空たちの家に向かう事にした。

「空さん。これっす」

 見せたのは三十キロ程の麻袋。その中にはまた小さな麻袋がいくつも入っている。

「なかなか重いな」

「二つあるんで、分けて持ちましょう」

 二人は肩に麻袋を担ぎ、家を目指した。

 右肩、左肩、腕だけ。筋肉の疲労に合わせてあらゆる持ち方を組み合わせながら進んだ。

 相変わらずアンガーとアルたちは先を進んでいる。

「俺ここに来てずーっと腹減ってるんですよねえ」

「俺もだ。もはやこの空腹が気持ちよくなってきているよ」

「あああ腹減った」

 そんな会話も束の間、昨日ヒョウに横取りされた付近まできた。

 先にいたアンガーとアルたちは匂いを嗅いで獲物の残りを探していた。

「勝平。アンタ木登りできるかい? 」

 アルは木の上を見ながら言う。

「えなんで? 」

「あそこに昨日のヌーの死体がある。落としてくれないかい? 」

「お前がいけ! 」

 勝平は麻袋を地面に叩きつけた。

「空! 登らない? 」

「お前が行くなら行くぜ」

 麻袋を置いて、アンガーが器用に登って行くところを辿り、横に伸びた長く太い木を綱渡りのように進んだ。

「オイラの体重じゃ落とせないぞ」

「待ってろ」

 空は慎重に一歩づつ進み、先端についた。

 ヌーの体はほとんど骨だけになっていた。その骨格が枝に引っかかっている。

 空は木にゆっくり尻をつけ、股で挟み自身を固定した。

「いくぞー 」

 骨についた肉の湿る感触を我慢して、骨格を枝から浮かせた。

 そのまま知恵の輪のように解いて、三メートル下の地面に落下させた。

「よっしゃ。やっぱアンタとは違うね」

「うるせえ! 空さん! 次は俺が行きますから!」

 空とアンガーが木を降りると、一行はまた歩き始めた。ヌーの死体はサブリーダーのイルとウルがくわえた。

「アルがリーダーで、イルとウルが二番目に強いんだってさ。そいつらが群れを引っ張ってるんだって。スルが教えてくれた」

「そうか。メスの方が全然体大きいんだな」

「雄はガリガリだ」

 アンガーは楽しそうに教えてくれた。

 日の光線が真上から放たれる頃、やっと森が見えてきた。

「意外と近かった」

 麻袋を右肩に、息を切らしながら言う。

「帰りは早いっていいますもんね」

「もう一踏ん張りだ」

 森の通り道を抜け、岩の段差を降りる。三十キロの荷物を持ったままではそうとう足にきた。

 川岸につく。とても懐かしい感じがする。

 ここからは安心だ。安定した道が出来ていて木々の若葉が黄緑に輝く天然のステンドグラスのような天井下を歩くだけ。

 アンガーと二人でもこの道は好きだ。でもいまはまた違った感じする。

 勝平がいて、アルたちがいて。

 ただそこにあるだけでも綺麗だと思えるのになぜだろう。同じ景色のはずなのに、今日は天井が笑っているみたいだ。

 木々の洞窟の先、愛しの我が家の外装がこちらを覗いた。

「ついたあああああああああ」

 麻袋とともに家の前に倒れこむ。

「こりゃ立派でっせ! 」

 アルの子分たちも喜んでいるようだ。

 中に入り、麻袋を土間の端に置いた。

「汗だくだー。勝平。海で泳いでこようぜ? 」

「いいっすね! 」

「オイラもいくー! 」

 まぁ、これもいいか。

 たまには。やらなきゃいけない事より、やりたい事やるのも。

 森を駆け抜けた先、柔らかに波打ち、飛沫をあげる海にみんなで飛び込んだ。

 膝から水の抵抗を受けてスピードが落ちると、空はジャンプして胸から着水した。

 このままどこかへ流れていってもいい。そんな心境だった。

 勝平は器用に仰向けに浮いていた。空を見上げて黄昏る表情は、悟りをひらいた仏のようだった。

 アルたちとアンガーは浅瀬から進む事が出来ず、一進一退しているようだ。しかし毛についた血の汚れや、泥は徐々に落ちていく。

「なあ勝平」

「へい」

「俺たち泳いでるんだよな」

 水面に仰向けに浮いた二人。

「違いますよ空さん。俺たち、飛んでるんです」

 一面に空しか見えない空間はそう錯覚させた。

 しかし、やはり格好つける勝平の表情はいつもと違い、一見仏のようだがよく見ると馬鹿みたいな顔だった。

「誰だお前」

 母なる海の流れに身を任せ、二人は目を瞑った。

 一刻後。

 家に戻ると、丁度アンガーとアルたちは先程運んできたヌーの食事を終えたところだった。

「相変わらず骨までしっかり食べたんですね」

 勝平は肩を落とす。

「俺たちは磯でなんか取ってくるか」

 以前タコが取れた磯へ向かい、晩飯を探すこと二時間。家に戻ってきた。日は暮れて傾いた。

「なんかあった? 」

 家の中でドタバタと走り回っていたアンガーとシル、スル、セルは足を止めた。

「いやなんか、もう、何もないから貝と思われるものを一杯取ってきた。あとカニ」

「それ石じゃないのかい? 」

「わかんねえ。でもとりあえず数打ちゃ当たるだ」

「そうそう。なんかもう考えるのめんどくさくなってきたな。毒持ってたらーとかさ。だってさー全部変な形してるし全部毒持ってそうじゃん。見ろよこれ。なんか怪獣の爪みたいだ」

「どうやって食べます? 」

「俺の料理手段は二つ。焼くか煮るかだ」

「そのままは? 」

「いいね! 」

 アンガーの案を鵜呑みにして、空は大きなイボニシの殻にかぶりついた。

「あたっ」

 口を押さえて涙を浮かべた。

「あああ知識不足。とりあえず火起こそ」

 空が火を起こしている間、勝平は取ってきた貝をツボの中の水でゆすいでいる。

 やっとの思いで火種を作った空だったが、着火剤となる枯れ草が不足していることに気づいた。このわずかな量で小枝へと引火できなければお終いだ。

 必死の表情で息を吹きかけた。もう材料を取りに行く体力がないのだ。

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。

「ふぅ・・・ 」

 炎の神様は味方してくれたようだ。

 よかったあああああ。生で食べなくて済む。

「カニは大きいから焼くだけでも良さそう」

「そうっすね! 」

「あとは・・・ 煮るか」

 タンクに補充している川の水を果物缶詰の空に入れ火にかける。沸騰を待たずして勝平が様々な形と柄の貝を投入。

 茹で上がるのを待つが、どれくらい待てば良いのかわからない空は、細い枝を箸の代わりにして巻き貝を持ち上げた。

 貝の口は開いている。しかし指が入らない。伸びた爪を開いた蓋の隙間にいれてゆっくりと引き出した。殻に比べて身はとても小さい。しかりプリッとしていて食欲をそそる。

 思い切って空は食べた。

 うん。美味しい!

 サザエと大差ない味だ。身が小さいからか塩加減が思うよりも濃く、やみつきになる。醤油が欲しい。

「勝平! 出来たぞ! 」

 二人は床に座り、焼けて真っ赤に染め上がったカニを枯れ始めた椰子の葉の皿に乗せた。貝は缶詰のまま床に置いた。

「頂きまーす! 」

 親指より一回り大きなカニの爪。安定した肉の量は嬉しかった。殻を指と腕の筋力で割ることに慣れている空は、勝平に割ってあげた。

「空さん、この怪獣の爪どうします? 」

「食えるとこあるのかな」

 爪の部分をかじってみた。しかしジャリジャリとした食感が続く上、味がない。

「あーこれヤバイやつかな」

「ここはどうっすか」

 勝平は爪の下側。肘から爪までの怪獣の腕があるとしたら、腕の部分。そこには黒い皮が被さっていて、引っ張ってめくることが出来ることを勝平は発見した。

 中には白くてプリプリの小さい身が輝いていた。

「おお食えそうだ。食えそうだと俺の直感がいってる」

 勝平は一口で食べた。

「うまし」

 空も同じようにして食べた。

「エビみたいだ! 」

 塩加減は申し分なく、食感もそれに近い。

 どれもこれもおつまみにちょうど良い。いくらでも入りそうだ。

「磯っていいな! 凄くいい! 」

 磯の食材の豊富さに感銘を受けた二人は楽しい食卓を囲んだ。腹八分目にも満たずに終わったが、今後の生活に必要な情報の会得も考えれば十分な収穫だった。

 その後片付け終え一息ついた空が言った。

「ねー。お前ら遊びすぎー」

 目を細めた空が、不満に思う現場は家の中。

 一気に増殖した獣のせいで家の中が泥や砂、草や抜け毛が酷く散らかっている。

「ええ! ごめん」

 すぐさま反省するアンガーに続いて、まだ幼いスルとセルも並んだ。

「アニキ。あっしのせいで」

「大丈夫だセル」

 小さいスルとセルはアンガーをとても慕っているようだ。

「よし、明日は掃除しよっ」

 夜も更け、一行は空の言葉を目処に、各々休み始めた。

 今日は疲れた。うん。とても。

 足のあらゆる関節がうずく。

 でも、よかった。とりあえずみんな無事にまたここに。

 空の心にゆっくりと芽生え始めた感情は、苦しさや悲しみのように分かりやすくは無く、掴み所のないものだった。

 しかし居心地の良いものだという事は言うまでもない。

 その夜の続き。オシッコがしたくなったハイエナの子供たちを連れてアンガーは外にいた。

「アニキ、今日は明るいね」

「月もデカくなったな」

「アニキ、月って大きくなるの? 」

「なるとも。オイラたちも負けないようにでっかくならなきゃな」

「さすがアニキィ」

 眠気の中、半開きの目で未来に期待を膨らませるシル、スル、セル。

「アニキ、月って顔も変わるの? 」

「顔? 」

「なんかうごいてますぜ? 」

 真ん丸の金色の月に、蠢くその影は人の形をしていた。月の円の中を舞うように動く人影は、美しく、自由に八の字を描く。

 よく見ると人影の背中には、巨大な羽がある。

 羽。人。

 人間って羽が生えた奴もいるのか?

 現実なのかどうか、アンガーにはわからなかった。

 しかし心任せに思うまま飛び回る人間の姿は、アンガーたちの心を朗らかに心地よくさせた。

 それ以上特に考えることもなく、アンガーたちは飽きるまでその美しい世界に浸った。

 

 

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