セキガエ
どうもです。
妄想してたら書きたくなったので投稿します。
読んだらできれば感想ください。
思えば……あの日がすでに始まりだったのかもしれない。
「じゃあ、席替えするぞ~」
担任の渡辺がいつもどおり覇気のかけらもないゆるい声でそう宣言した。
季節はGWもとうに過ぎ去った5月の下旬。まだ夏と呼ぶには早い時期のはずだが、昨今これでもかと騒がれる温暖化の影響か、下敷きという名のうちわが手放せなくなってきた、そんな時期。
初々しい1年生という学園権力の底辺から、2年生という上に先輩、下に後輩というサンドイッチ中間管理職に昇進して早1ヵ月……まぁ、オレ自身は帰宅部という名のフリーダムを謳歌して
いるので、そんなことは知ったこっちゃないのだが……。
とにかく、オレ、|木山和人≪きやまかずと≫がこの私立白山高校の2年生に無事昇格してから1ヵ月が過ぎたわけだ。
クラスの連中も完全にいくつかのグループ、団体、又は個人に分かれ、ゆとり教育よろしくの平和ボケした高校生活をエンジョイしているようだった。
ちなみにオレの立ち位置はと言えば、まぁ割と無難な、グループと個人の間みたいな、オレとしては非常にしっくりとくるボチボチなポジションをありがたぁく頂戴していた。
そんなクラスにある一定の空気が完成されたころのことだった。渡辺が前々から予告していた席替えという、快適な学習環境、新たな出会い、窓際最後尾という特等席を手に入れるなど、学生生活においては割と重要なイベントを決行に移したのは。
いつもは、人ごみに紛れこんだら真っ先に溶け込んでしまいそうな存在感の薄い教師ににわかに関心が集まる。
前後の席で何がそんなに面白いのか終始クスクスと笑っている女子も、年がら年中どこにそんな元気があるのか騒ぎまくるバカも、全員が渡辺を、正確には渡辺の背後の黒板を凝視する。
我がクラスの席替えはくじ引き制である。渡辺が用意した番号が書かれた紙をクラス全員が引き、それぞれのくじに名前を書く。それを渡辺が回収、事前に黒板に書いておいた番号をふった座席表に手際よく番号どおりに名前を書いていくというものだ。……まぁ、つまりどこにでもある普通の席替えだ。
渡辺が、ほとんど滑るようにチョークを走らせるたびに、ざわざわと妙な緊張感に包まれていた教室がにわかに活気づいた。
目的の位置に席を確保して小さくガッツポーズするもの、自分のグループのメンバーと固まることが出来て手を叩きあって喜ぶ女子、最前列で教卓の真ん前という考えうる限り最悪のポジションを
獲得してしまいあからさまに肩を落とすもの。狭い教室内、冷静に考えてみればどこに座ろうが実は大差ないのかもしれないが、人間というものはどうしたって少しでも快適な環境で過ごしたいものだ。オレが、ボーっとそんなことを考えながら教室の一時的な興奮状態を眺めていると
「よ~っし、じゃあとっとと席移動しろよ~」
いつの間に書き終わったのか渡辺が手についたチョークの粉を落としながら、やはり覇気のない声で指示していた。……いつもながら書くの速いな。
オレは意識を渡辺の覇気のない声に反応してか、自主的か(99%は後者だろう)移動し始めていたクラスの奴らから、黒板に移す。
(え~っと……おっ……)
座席表の端から、ズラズラと自分の名前を探していたオレは、心の中でわずかに感嘆の声をあげた。どうやら今日は運がいいらしい。
オレは窓際最後尾の席を獲得していた。俄然テンションが上がったオレは、それだけを確認すると意気揚揚と教科書やらマンガ(校則違反)をまとめ、これからお世話になるマイベストプレイスを目指した。
オレはこの時完全に失念していたね。ここが教室という空間で、そこにオレ以外の学生がいて、つまりオレの隣にも誰かが座るであろうという至極当たり前の事実を。
……今から思うとホントどうかしてたね。なんだよベストプレイスって、気違いか。
しかし、そのときのオレはそんなこと気にも留めず、必要最低限以下しか荷物が入っていない薄い学生を肩に担ぎ軽やかな足取りでおよそ五メートルもない距離を移動していた。
はたして、オレは目的地へと無事に到着し、座席を確認する。日の光に照らされた机と椅子が、まるでオレを歓迎するかのように光り輝いていた。
すると、やはりいやがおうなく視界に入るのは隣の席。そこには、すでにその席の新しい主が静かに着席していた。
それは一人の女子生徒だった。しかも、美少女と分類しても差し支えないほどの。栗色の髪を肩のあたりで適当に切りそろえ、少々目つきはキツイがある種の完成形のような隙のない顔立ちをしている。いつもオレのような一般的標準的学生が装備することはありえないであろう分厚い本を、ワインレッドのメガネのレンズ越しに眺めるクールビューティーを絵に描いたような少女だ。
……………………普通、こういう場合は男子学生ならば奇特でアブノーマルな趣味でも持たんかぎり僅かでも気分が高揚したものになるのだろう。かくいうオレも、諸事情により常時ヘアバンド着用という微妙な個性さえ除けばごくごく一般的な男子高校生である。
しかし、オレは全くテンションが上がらなかったね。それは、オレが自分では人畜無害な一高校生を気取った実はとんでもなくアブノーマルかつデンジャラスな人間であるという超展開では決してない。おそらく、このクラスの男子全員、いや女子も含めたクラス全員、いや全校生徒、ひょっとすると近隣住民に至るまで、この女の隣の席に喜んで座ろうという人類は存在しないのではないだろうか。
女の名前は、|氷室美香≪ひむろみか≫。不本意ながら俺のクラスメイト。
そして、冗談とか誇張表現とかではなく、俺の人生を変える女である。
いかがでしたでしょうか。
ていうかまだ登場しかしてないんですけど。
そしてなぜか教師の方が名前の登場回数が多いという恐怖。
すいません。