3二つの星の衝突
エンキドゥがウルクの都へ向かっていた頃、王ギルガメシュは奇妙な夢に悩まされていた。ある夜、彼は天空より落ちてきた一つの星を夢に見た。その星はあまりにも重く、ギルガメシュには動かすことができない。城壁の外に集まった人々が不思議な星を見上げる中、彼はその星を抱きしめ、まるで愛しい伴侶のように離そうとはしなかった。夢から覚めた王は胸騒ぎを覚え、聖なる母ニンスンにその意味を問い質した。賢明なる女神ニンスンは、それが天より遣わされる強靭な友の到来を告げる徴であると告げる。やがて王と拮抗し、かけがえのない存在となる者が現れましょう、と。ギルガメシュは半信半疑ながらも、胸の高鳴りを抑えられなかった。孤独な魂が求める何かが近づきつつあることを、彼は薄々と感じ始めていた。
やがてエンキドゥはウルクの城門に辿り着いた。豪奢な都の光景に目を見張りつつも、心は迷うことなく王宮の方角を捉えている。神々に導かれるように彼はまっすぐ歩み出した。ちょうどその日、ウルクでは大いなる祭りが開かれ、多くの人々が宴に酔いしれていた。市の大通りを進むエンキドゥの異様な風体に、群衆は道を開けて驚きの目を向ける。長い髪に獣皮をまとった巨漢が鋭い眼差しで宮殿を見据えて歩く様は、さながら戦神の化身のようであった。私はエンキドゥの足取りが次第に速まり、彼が本能で王の居場所を捉えているのを見て取った。
その夜、ギルガメシュは習わしに従い、新婚の花嫁のもとへ赴こうとしていた。神殿での祭儀を終えた王が輝く衣を翻し王宮を後にすると、花嫁の家には緊張が走った。やがてギルガメシュが堂々と戸口に現れる。しかし次の瞬間、入口を塞ぐように立ちはだかる巨影があった。エンキドゥである。彼は荒い息をつき、王を睨み据えている。王は声を荒らげて退くよう命じたが、エンキドゥは微動だにしなかった。二人の間に火花が散り、人々は息を呑む。
突如、嵐のような激突が起こった。ギルガメシュとエンキドゥは互いに雄叫びを上げ、壁土が剥がれ落ちるほどの勢いで組み合った。まさしく二つの星が衝突したかのように大地が揺れ、建物が軋む。王と野人は一歩も引かず、そこに集った人々は圧倒されて声もなく見守った。私は高みからこの壮絶な取っ組み合いを凝視していた。ギルガメシュが渾身の力でエンキドゥを投げ飛ばせば、エンキドゥもすかさず跳ね起きて王に組み付き地面に押し倒す。二人の息遣いは荒く、飛び散る汗と砂塵が宵闇に煌めいた。長い格闘の末、両者の力は拮抗し、決着がつかぬことが明らかとなった。ギルガメシュは生まれて初めて味わう互角の手応えに、驚愕とともに奇妙な歓喜を覚える。エンキドゥの瞳にも怒りの炎が消え、代わりに敬意の光が宿っていた。
やがてギルガメシュは大きく笑い出た。それは心の底から湧き上がった笑みであった。彼は倒れ込んだエンキドゥに手を差し伸べ、自らも荒い息をつきつつ立ち上がる。エンキドゥはその手を力強く握り返した。二人の目と目が合い、そこにあるのはもはや敵意ではない。周囲の人々は恐る恐る成り行きを見守っていたが、王が満足げに頷くのを見て安堵の気配が広がった。ギルガメシュはエンキドゥの肩に手を置き、己と同じ高さのその男をまじまじと見つめる。見るほどに不思議な親しみがこみ上げ、彼は静かに言った。「我が友よ、共に来るがよい」――その声には抑えきれぬ喜びが滲んでいた。エンキドゥもまた深く頷く。言葉少なに互いの名を告げ合った二人は、その場で固く抱擁を交わした。
私は夜空の星々が祝福するように輝きを増すのを感じた。誰も傷つけられることのなかった宴は再び賑わいを取り戻し、人々は二人の勇者の出会いに驚嘆していた。長き孤独にあった王ギルガメシュの胸には熱いものが込み上げていた。それは戦いによる興奮だけではなく、新たな友情の芽生えがもたらす歓喜であった。かくしてウルクの王と荒野の戦士は固い絆で結ばれたのである。私はその瞬間を見届け、運命の歯車が力強く噛み合ったのを感じた。それは神々が望んだ出会いであり、二つの魂が互いを認め合った歴史的瞬間であった。




