1運命の創造
私は時空を超えて存在し、この世界の移ろいを静かに見守る者である。悠久の歴史において、数え切れぬ運命が紡がれては消えていく様を見届けてきた。今、私の眼差しは古のメソポタミアの大地に注がれている。ユーフラテス河畔に繁栄する大都市ウルクは、高き城壁に護られ、壮麗な神殿群が天を衝いていた。だが、その繁栄の陰で王の圧政に民は苦しみ、嘆きの声が大地を震わせていた。栄華と驕慢に満ちたこの都――その王ギルガメシュの運命が、大きくうねり始めようとしていた。
強大なる王ギルガメシュは神々の血を三分の二まで受け継ぎ、比類なき力と美貌を備えていた。しかし、その恵みを奢りと成し、孤高の王は思うままに振る舞っていた。昼には若者たちを酷使し、城壁建設に明け暮れさせ、夜には花嫁の寝所に踏み入り、新郎の嘆きを顧みない。王の横暴に人々は震え、誰一人彼に逆らうことはできなかった。だが、無二の存在であるがゆえの孤独が王の胸中に燻っていたことを、彼自身も知る由はない。民の祈りはついに天に満ち、神々の御座にまで届いた。私は高き空からその嘆きを聞き届け、変革の刻が近づくのを感じ取っていた。
神々は蒼穹の殿堂に集い、天上の評議が開かれた。全知の天空神アヌは人間たちの悲鳴に眉をひそめ、大気を司るエンリルは大地の秩序が乱れることを憂いた。愛と戦の女神イシュタルは美しい瞳を伏せて沈黙し、太陽神シャマシュは憂いの光をたたえて地上を見つめていた。如何にして王の驕りを戒めるべきか、神々のあいだで意見が交わされる。ある神は「しばし静観すべし」と述べ、またある神は「罰を与えるべし」と声を荒らげた。しかしギルガメシュは神々の血を引く身、みだりに滅ぼすことは誰も望まない。やがて創造の女神アルルが静かに前に進み出た。「ギルガメシュに匹敵する者を地上に送りましょう」――その提案に神々は深く頷いた。王と対等に渡り合える新たな英雄を創造し、傲慢な心に変化をもたらそうというのである。
アルルは豊穣なる大地の粘土に生命の水を混ぜ合わせ、そっと両の手でこね上げた。粘土は脈打ち、次第に人の形を成してゆく。やがてそこには一人の野人が産声をあげた。髪は野牛のたてがみのように長く乱れ、身体は熊のように逞しく、全身が未開の森に紛れる獣皮に覆われている。エンキドゥ――彼こそが神々の英知より創られし、荒野の申し子であった。神々はこの野人に、王の友たり得る尊き魂を授ける。傲慢なる王の心に寄り添い、変容をもたらす運命の存在が、今ここに地上にもたらされたのだ。その瞬間、荒野を吹き抜ける風がざわめき、大地に棲まう獣たちが遠吠えで応えたかのように感じられた。
まだ誰もこの誕生を知る由はない。しかし私は確信していた――やがて王と野人が出会うとき、世界の在り様さえも変わるであろうと。私は創造の光景を静かに見届け、運命の輪が音もなく動き出すのを感じていた。こうして、後に語り継がれる壮大な叙事詩の序章が幕を開けたのである。




