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超越者が紡ぐ物語  作者: あるき
アレクサンダー・ボグダーノフ「越えざる境界の果てに——鮮血に刻まれた逆説」(全8話)
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7崩れゆく命と社会の波紋

 ボグダーノフが倒れたという知らせは、ソ連国内の知識人層や医学関係者に衝撃を与えた。彼は革命期において一定の名声を得た人物であり、哲学やテクトロジー理論の先駆者として評価される一方、“血液交換の権威”という危うい称号も持っていたからだ。

 倒れた直後、病室には彼を慕う若い研究者や、過去に彼の手術を受けた患者、あるいは興味本位で集まってきた党関係者などが詰めかけたという。医療環境が整わない中で懸命に治療が試みられたが、感染症か不適合輸血による急性症状か、その両方か、とにかくボグダーノフの状態は悪化の一途を辿った。

 やがて髪は抜け落ち、皮膚には黄疸と思われる症状が広がり、意識は混濁しがちになったという。高熱の中、彼は時に意味の通らない独白を呟くこともあった。「血液が……若さが……」という言葉がしきりに漏れたと記録する者もいれば、「神の領域」や「生命の秘密」といった断片的なフレーズを聞いたという証言もある。

 革命政府の公式見解としては、彼の研究は国家の政策とは直接関係がないとされ、冷淡とも言える態度が取られた。ボグダーノフ個人の“奇抜な実験”が失敗しただけ、という扱いである。政治の世界では日々多くの事件や争いが起こり、ボグダーノフの悲劇に深入りする余裕などなかったのだろう。

 一方で、学術界では「実験の過程を詳しく記録すべきだった」という声があった。実際にどのような手順で輸血が行われ、どの程度の検査がなされ、どのような病原体が混入していたのかを検証できれば、医学的に大きな教訓が得られた可能性がある。しかし混乱の時代、記録や物資、そして人材は思うように確保できなかった。

 ボグダーノフが息を引き取る直前、周囲の人々は彼に問いかける。「本当に若返りは可能なのか」「あなたの理論は完成されていたのか」と。だが、彼はまともに答えられる状態ではなかった。血液交換による実験データを裏付ける書類も、彼の死後に散逸したという。結果、彼の最期の言葉や心情を確かめるすべはほとんど残されていない。

 やがて、1928年のある朝、ボグダーノフは静かに息を引き取った。享年55。人々は一瞬の喪失感を覚えたが、当時のソ連社会はあまりに急速に変化しており、すぐに別の出来事が人々の注意を奪っていった。やがて彼の名は歴史の陰に沈み、彼の実験が持つ衝撃的な意義もまた、忘れ去られがちになる。

 しかし、私が俯瞰する歴史の視点から見ると、彼の死は人間が「技術」と「生命」の境界をどのように扱うべきかという大きな問いを投げかけたように思える。医療が発展し、遺伝子工学や臓器移植が行われる現代においてもなお、この問いは答えを出し切れてはいない。

 越えてはならない一線を、彼は信念と理想の名のもとに踏み越えてしまった。その代償はあまりに大きく、悲劇的だった。けれども、その軌跡を辿ることで人類は警鐘を受け取り、新たな一歩を踏み出すための糧にできるのかもしれない。

 彼の最期の瞬間をさらに掘り下げ、その情景を鮮明に描くことにしよう。そこでこそ、私々は彼が何を見つめ、何を求め、そして何を失ったのか、その最も深い部分を垣間見ることができるはずだ。

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