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7 住処

カルロスとの運命的な出会いです。どうしても支援したいというハルトの強い気持ちがありました。



2人は連日討伐依頼を受け続けた。


「ハルト、宿暮らしも金がかかる。家を借りるか。ギルドの寮でもいいが、大部屋だから落ち着かない。」

「金も貯まっただろう。買えるんじゃないか。」

「それもそうだな。」



宿を出て、住む所を探しながら、街を歩いてみた。

住宅街の一軒家は2人が住むには広すぎるし、メイドでもいないと維持が難しそうだ。かといって下町は治安に問題があると聞いた。

商業地区は賑やかではあるが、俺もハルトも首を振った。



市場の近くを歩いていると、一目で孤児だとわかる服装をして痩せこけた少年、少女たちが野菜の入った笊を担いで、市場に入って行く。


後をつけると、前掛けをした八百屋の店主と言い争っている。

「野菜は十分ある。持ってくるな。」

「お願い。おじさん。どこも買ってくれないんだ。」

「帰れ、帰れ、忙しいんだ。」

幾つかの八百屋を回るが、全て駄目だった。



子供たちは(ざる)を抱えて戻ってくる。

話を聞くと、孤児院で作った野菜を売りに来たようだった。


「可哀そうに。小さいのに必死だな。レオン、何とかならないか。」

「話してみよう。」


レオンはリーダーらしき少年に声をかけた。

「どこか、売りにでている店を知らないか。」

「あるけど、高いよ。」


子供達が案内してくれたのは、市場の近くの一軒家で、1階に広い売り場があり、2階が住居だった。隣に住む家主は、レオンとハルトが会釈すると、金貨150枚の売値を提示して来た。


カルロスが値切り始めた。

「家主さん、高いから、長い間、空いているんじゃないか。」

「お前たちが金を持っているはずがない。帰れ、帰れ。」

「だから、空き店舗を探している客を連れて来てやったんだ。」


「こいつらにはかなわんな。よし、金貨120枚にしてやる。」

「100枚にしてよ。こんな機会は2度とないよ。」

「痛いところを突くな。」


家主は暫く、考え込んでいたが、

「いいだろう。その代わり、即金だ。」

と返事してきた。


「ハルト、ここを買おうか。」

「うん、いいと思う。」


「家主さん、買おうと思っています。その前に中を見せてくれませんか。」

「そりゃそうだな。見て決めてくれ。」


1階の店舗はかなり広い。

「前はどんな店を。」

「家具屋だ。だから中も広いし、奥に倉庫もある。2階には台所、居間、トイレに風呂、書斎に個室が4部屋ある。繁盛していたが店主が亡くなってから空き家になったのを買い取った。」


右奥にある階段を上がり2階を見る。

「風呂が広いですね。」

「ああ、風呂好きだったからな。かなり金をかけて作ったようだ。井戸から水を汲み上げ、温めて風呂に注ぐまで魔道具が使われている。排水もちゃんと下水に繋がっている。」

「それなら高く売れそうですが。」


「逆だ。魔道具の魔石が高くて維持費が相当かかる。裏の井戸で水浴びすればいいのだが、寒くなると流石にな。」

「買います。手続きをお願いできますか。」

「明日までにやっておく。ところで陳列台や棚は要らないか。前の家具屋の在庫が残っている。安いぞ。」

「お願いします。ベッドは。」

「ベッドと箪笥は据え付けになっている。」


レオンは金貨100枚と家具代銀貨5枚を渡した。


「お兄ちゃん、何を売るの。」

「君達が使っていい。僕達は2階に住むだけだ。」

「本当に。嬉しい。家賃は安くしてね。」

「家賃はいい。頑張って野菜を売れ。」

「夢みたいだ。お兄ちゃん、ありがとう。」



少年が、レオンに抱きついてきた。

レオンは頭を撫でた。

「頑張れ。」

目を潤ませながら、「うん」と返事してきた。


子供たちは、その日から、野菜を売り出す。

その前に、古着の衣服と靴を買いに行かせた。

小綺麗にしないと、客が寄り付かない。


2階には部屋が5つあり、食堂、居間、トイレ、広い風呂などがあり、2人で住むには十分な広さだった。


2人は荷車を買い、宿に戻り、チェックアウトして、身の回りの物を積み込んで店に向かう。


店に着くと、荷物を2階に運んだ。

部屋にはベッドと箪笥があったので、市場でマットレス代わりの敷布団と毛布、枕それに敷布を揃えた。


子供たちの野菜売りを手伝っていると、夕方になった。


「売り切れたのか。良かったな。」

「安いから売れる。明日も来ていいの。」

「ずーっと、使っていいぞ。そうだ、風呂に入って帰れ。」

「ほんとに。入ったことない。」

「そうだ、皆の下着とタオルも買って来い。」



子供達7人と一緒に風呂に入った。小さな子は洗ってやった。ガリガリに痩せた体に涙が零れそうになる。でも、目を瞑って、気持ちよさそうにしている子供達を見ると、心が和らいで行く。次の5人は女の子だったが、気にせず洗ってやってから風呂に入れた。



リーダーらしき少年の名前を聞くと、カルロスと答えた。

「おじさん達、お風呂の魔石は大丈夫。高いよ。」

「俺たちは冒険者だ。魔獣を狩るから魔石はただで手に入る。」


全員風呂から上がると、カルロスが聞いてきた。

「お兄ちゃん、荷車を借りていーい。」

「いいぞ。もう使わないからやるぞ。」


子供たちは、お礼を言うと、荷車を引いて、帰って行った。


「ハルト、良かったな。いい住処が買えて。」

「ああ、それに孤児達が喜んでくれたのが何より嬉しい。」

「良く働くな。」

「必死なんだろう、カルロスは。あれだけの数の孤児だ。」



翌朝、目を覚ますと、子供達の声がする。

1階に降り扉を開けると、2人の少女が立っている。


「どうした。早いな。」

「お兄ちゃん達の食事を作るの。」

「それは嬉しいな。」



朝食を作った2人の少女は、食事を出すと、部屋の掃除を始めた。


「掃除もしてくれるのか。」

「これから毎日する。」

「それは助かるが、ただというわけにはいかんな。2人なら、月に金貨2枚ずつでいいな。」

「家賃の代わりだからいいって、カルロスが。」


「家賃はいらないと言っただろう。それに、食事の材料もいる。金貨10枚をこの袋に入れておくから、使ってくれ。」

レオンは巾着袋を渡した。


「お兄ちゃんたちは金持ちなのね。」

「俺達は、冒険者をしている。稼ぎはまあまあだ。」

食事が済むと、店を手伝った。


「野菜だけでなく、他の物も売ろうと思っている。」

「何を売る。」

「卵や鶏肉を売りたい。」

「孤児院で飼っているのか。」

「うん。」


翌日から、卵と鶏肉も並んだ。出入りする子供たちの数も増えて来た。

「お兄ちゃん。食器も売っていいかな。」


「構わんぞ。孤児院で作るのか。」

「市場で売りに来ていたおじさんが、断られていたから、ここで、売ろうかと。」

「そうか。カルロスは優しいな。」

「えへ。お兄ちゃんと同じだ。」


食器も店に並んだ。そのうち、包丁や鍋などの調理道具も並ぶようになった。

「カルロス、何処から仕入れた。」

「食器のおじさんが持ってきたから、売ることにした。」

「忙しくなって、大変だな。」

「そんなことはない。皆、働けるようになった。」


「魔獣討伐の仕事に行くけど、夕方には帰って来る。遅くなったら、鍵を閉めておいてくれ。」

カルロスに鍵を渡した。



2人でギルドに行き、掲示板を見ていると、猪の魔獣討伐があった。

依頼書を受付に持って行き、街を出た。


1時間歩いて、村の村長に会い、猪の出てくる場所を聞くと、やはり畑だった。


畑に行くと、3匹の猪が野菜をほじくっていた。

向かって来た猪を槍で突いたが、勢いで弾き飛ばされた。

起き上がるを待たずにまた向かって来る。


「レオン、大丈夫か。」

「ああ、問題ない。」


首を狙って、風刃を放つが動きが激しく当たらない。


2匹が同時に向かって来た。

躱して、そのまま槍を振るうと1匹が倒れた。

ハルトが後退しながら、風刃を連発しているが止められないでいる。

レオンも風刃で応戦するが、外れる。


2人一緒に槍で応戦する。


「穴を開けるから、離れてくれ。」

「頼む。」


ハルトが離れると、レオンに向かって来た猪が、消えた。

穴に落ちた猪に槍を振るうと動かなくなった。

もう1匹はハルトに向かっている。


猪とハルトの間に火球を落とす。

怯んでいるうちに、回り込み前と後ろから槍を振るう。2人の槍が同時に刺さった。

                                           

「ハルト、頑張ったな。」

「危なかったが、何とかなったよ。」



村長に報告し、討伐証明に署名を貰い、リュックに取り込んだ。

「慣れたと思っていけど、甘く見ると駄目だな。」

「ああ、今回の猪は強かった。やっと倒せた。ハルトは強いな。」



街に入り、ギルドに向かった。

買取りカウンターに3匹の猪を取り出した。

伝票を貰い、受付で、報酬、金貨5枚と買取り猪2匹、金貨4枚。魔石は確保。


猪1匹を、店に持ち帰った。

「ハルト、子供達に持ち帰っても良かったよな。」

「うん、俺も考えていた。」


「カルロス、猪を持ってきたが、捌けるか。」

猪を取り出して見せた。


「大丈夫だよ。でもでかいな。」

店の裏の井戸端で、子供達と一緒に猪を解体した。


子供たちは、内臓まで、取り出して、洗っている。

少し肉を残し、残りは孤児院に持って帰らせた。

「カルロス、内臓はどうするんだ。」


「掃除して洗って、焼くと旨い。」

「いつも食べてるのか。」

「安くて旨いから、孤児院では肉と言えばこれだ。」


2階に上がると、女の子が、猪のステーキを焼いていた。

「今日は、夕食もあるのか。」

「猪が沢山あるから。」

「じゃあ、一緒に食べような。」


皆で、野菜のスープと黒パンと一緒に、ステーキを食べた。

「旨いな。ハルト、どうだ。」

「久しぶりに、旨いものを食った気がする。」

「君たちはどうだ。」

「うん。美味しい。初めて食べた。」


「孤児院も、今日は、ステーキだな。」

「明日は、内臓を焼くの。」

「楽しみだな。」

「みんな楽しみにしている。」



2人が帰ると、カルロスが2人の男の子と毛布を持ってやって来た。

「店に泊まるのか。」


「店に、商品が沢山あるから、心配なんだ。」

「僕達がいるから大丈夫だぞ。」

「でも、俺達の財産だから。」


「そうか。カルロスは大変だな。色んな事を考えて。」

「そうでもない。店で働けるだけでも嬉しい。お兄ちゃんのお陰だ。皆、ご飯が食べられるようになった。」

「2階に部屋が空いている。寝るなら使うといい。」

「いいの。ありがとう。じゃ、交代で寝る。」

「無理はするなよ。」

「わかってる。」





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