4 冒険者登録
冒険者になり、盗賊を捉える。前世で鍛えた武芸はこの世界でも通用するようだ。
順番が来て、緑の集いのメンバーは何かのカードを出している。
シンシアが、憲兵と話をしている。
「冒険者登録に来たらしいの。お金がないみたい。何とかならないかしら。」
「シンシアが身元保証するなら、いいだろう。ギルド登録したら、見せに戻ってくれ。」
「ありがとう。」
この憲兵はシンシアと同郷らしい。
シンシア達の後を付いて、街に入った。
明らかに日本とは違う、西洋風に近い石造りの建物が並んでいる。
行き交う人々の服装は質素で、色合いも多くない。
髪は、赤や黄色、いや金髪かもしれないが、それに茶。
黒髪は見ない。眼の色も茶や青が殆どである。
三角屋根が特徴の、大きな建物が見えて来た。冒険者ギルドのようだ。
中に入ると、
「登録してくるといいわ。受付はそこよ。その間に、買取りしてもらうわ。」
シンシアが、銀貨4枚を握らせてくれた。
受付で、登録を頼み、名前を書いた。職業は2人とも槍使い。
説明を聞いた後、暫くして、カードを渡され、それぞれ、銀貨2枚を払った。ランクFと書かれている。
受付の右奥にある、買取りカウンターで、シンシアが、チェックの上着を着た職員と話している。
レオンがウルフを取り出した。
「フォレストウルフだな。群れになると危険な魔物だ。良く、倒せたな。ギルド証を出してくれ。」
レオンの学生服を、珍しそうに見ている。
レオンが登録したばかりのカードを渡すと、
「ランクFか。これを受付に持っていけ。」
メモを持って、受付に戻った。
「フォレストウルフ5匹で、金貨10枚、魔石が1個金貨2枚で、金貨10枚。合計で金貨20枚ね。目撃者がいるからランクアップすると思うわ。明朝、来て頂戴。」
「良かったわね。金貨20枚なんて。薬草採取は3人で銀貨5枚よ。」
「半分、分けましょう。」
「来たばかりで、お金がかかるから、いいわよ」
「じゃあ、金貨5枚。」
「金貨1枚だけ貰うわ。貸してあげた、銀貨4枚もこれでチャラよ。」
「いいのですか。助かります。ところで、泊る所はないでしょうか。」
「私達はギルドの寮に住んでいるけど、安いから入寮希望の冒険者が多いの。」
「じゃあ、僕達は無理ですね。何処か、宿はないでしょうか。」
「ギルドを出て、左に5分位歩くと安宿があるわ。」
「行ってみます。ところでこのカードは。」
「ギルドの登録証よ。FからE、D、C、B、A、Sとランクがあるの。宿に行く前に憲兵に見せに行って。」
門まで戻り、憲兵にギルド証を見せて、シンシア達と別れた。
言われた通り、ギルドから5分程歩くと、宿と書かれた看板が見えて来た。
開き扉を開けて、中に入ると、お団子に髪を結って、白のワンピースのような割烹着を着た女将がいた。
「泊まりかい。1泊銀貨2枚、食事は、朝が大銅貨3枚、夕食が大銅貨5枚。風呂は8時まで。何泊だね。」
「とりあえず10泊でお願いします。」
「2人、10泊で、金貨4枚。食事代は、その都度、払ってくれればいい。」
レオンは金貨4枚を渡して、鍵を貰った。
それぞれ、2階の部屋に入った。ベッドとトイレが付いている。
学生服を脱いで、クローゼットの中のハンガーにかけた。
着替えがないので、ハルトに声をかけて、買い物に出た。
市場で、タオル、石鹸、下着などを、街の商店で皮靴を、古着屋で、上下のつなぎや普段着を数枚買った。
「疲れたか。」
「うん。でも大丈夫だ。」
「風呂に入ろう。」
宿に戻ると、1階の奥の風呂に入った。
「何とか、眠れる場所があって良かったな。」
「うん、良かった。」
「危なかったな。あそこは。」
「二度と行きたくない。」
着替えて、食堂のテーブルに着くと、女将がやって来た。
「今日の定食は、猪のステーキよ。」
「お願いします。」
レオンは銀貨1枚を払った。
煮野菜にパンとスープが付いていた。
味付けは塩とハーブだけのようだ。
「味は薄いが旨いな。」
「うん。旨い。」
お腹が空いていたので平らげ、さらにパンのおかわりをした。
追加で大銅貨2枚を渡して、部屋に戻った。
ベッドに座って、これからのことを考える。
当分は冒険者として、やっていくしかない。だが、いつまでも続けられるとは思えない。
今日は、運良く狼を仕留めることが出来たが、槍のお陰に過ぎない。
手作りの槍と木刀を見ながら、武器を何とかしなければと思う。
翌日、宿の女将に教えて貰ったギルドの近くにある武具店に入り、店主に相談した。
「まさかオリハルコンじゃないよな。この長ナイフをこのまま、槍に使いたいのか。それじゃ、外れないよう、取り付けてやろう。2本だな。昼頃までには、やっておく。」
レオンとハルトは、皮の胸当て、肘当て、膝当てを選んでもらった。
「全部で金貨2枚だ。」
お金を払って、店を出た。屋台で具入りパンを買って、食べながら、2人はギルドまで、歩いた。
「朝はこれで我慢だな。」
「いいよ、これで。十分だ。」
ハルトはもっと我儘で気が短い奴だと思っていたが、違ったようだ。
我慢強くて冷静さもある。
ギルドに入ると受付に呼ばれた。
新しいギルド証を渡され、Eにランクアップしていた。
依頼の受け方を聞くと、掲示板を指示され、「ランクEとD の中から選んで持って来て」といわれたので、そのまま、掲示板を見に行った。
ランクDとEの依頼を見た。
「薬草採取にゴブリン討伐か。」
「危なそうだな。昨日の冒険者達も襲われていた。」
などと話していると、緑の集いのリーダー、シンシアが声をかけて来た。
「私たちは今日も、薬草採取よ。一緒に来る?」
「今日は槍の修理を頼んでいて、武器がないんです。」
「それじゃ。またね。」
「ついて行ってもいいですか。薬草採取に慣れたいので。」
「いいわよ。」
5人は街を出て、出会ったあの森に向かった。
「レオンはどんな魔法が使えるの。」
「良くわかりませんが、火、水、風それに土で色んな物を作れます。それに土で作った物を硬化することができます。」
「何ですって、火、水、風、土に硬化まで。何でもできるんじゃないの。」
「自己流で、本当にわかりません。」
「ハルトも使えるの。」
「使えます。」
「魔法使いとして十分にやっていけると思うわ。風刃は私なんかより強力だったから。」
「でも、僕は剣と弓を習っていましたが、魔法は全くの素人です。あっ、シンシアさん、森の奥に数人が隠れています。何でしょう。」
「わかるの。私には見えないわ。」
「説明できませんが、います。」
「こんなところにいるとすれば、盗賊かしら。馬車が来るわ。あれを狙っているのかもしれないわ。警護がいるけど、2人だけね。大丈夫かしら。」
「襲われたら、手助けしましょう。」
「そうね。でも、2人とも武器持ってないよね。」
馬車が前方から近づいてくる。
「僕達5人がいるから、どうするか迷っているのかも。」
馬車が通り過ぎようとした時、シンシアが警護に声をかけた。
「森の中に盗賊がいるようです。急いで街に向かって下さい。」
「本当か。君達がいたから、躊躇ったな。ありがとう。急がせて貰う。君達も気を付けて。」
馬車が去って行くと、盗賊達が5人の前に飛び出してきた。
頭領らしき男が、
「金目の物を置いてゆけ。そうすれば命までは取らないでやる。」
と言って来た。
レオンはリュックから木刀を取り出し、
「お前達こそ、おとなしくお縄につけ。逆らうなら、天誅を与える。」
かっこいい。一度言ってみたかった。
「レオン、ちょ、ちょっと大丈夫。お役人みたいなこと言って。」
「これはお約束ですから。大丈夫です。剣で負けるつもりはない。」
「剣じゃないでしょう。木刀でしょう。」
「心配ない。」
「野郎ども、やってしまえ。」
7人の男がレオンに襲いかかった。
レオンが一瞬消えたように見えた。
男達が呻きながら倒れて行く。
最後に残った首領が剣を構えているが震えている。
レオンが、「エイッ」と声を出して前に出ると、首領は逃げ出した。
しかし、マリウスから剣を借りたハルトが回り込んで待っていた。
驚いた頭領は尻もちをついた。そこに、レオンの木刀が頭に振り下ろされ、気絶した。
「す、凄いわ。2人とも。どうするこれから。」
「僕達がこいつらを縛り上げておくから、薬草採取してきたらどうですか。」
「それもそうね。じゃ、お願い。」
2人で森の中で蔓を集めて7人を縛り上げ、レオンが蔓を硬化した。
シンシア達が薬草採取を終えて帰って来た時、街の方から検問所の憲兵達が乗った馬車がやって来るのが見えた。
隊長らしい男が声をかけて来た。
「おーい、大丈夫か。」
「大丈夫です。盗賊は捕えてあります。」
憲兵達が馬車から降りて来た。
「シンシア、ルキア、マリウスじゃないか。」
「ディーン。助けに来てくれたの。」
「商人の馬車の護衛が知らせて来たので駆け付けた所だ。盗賊7人捕えたのか。」
「この二人が捕まえてくれたの。」
「そうか。待てよ。こいつらは懸賞金のついている札付きの盗賊じゃないか。弱いはずがない。馬車や旅人がかなり被害を被っている。それに、盗賊の隠れ家がどこかにあるはずだ。」
レオンが返答する。
「はい、聞いてます。この道を暫く行くと岩山があり、その岩山の裏に洞窟があるそうです。」
「何だと、何故知っている。」
「この頭領が教えてくれました。」
「気絶しているじゃないか。」
「一度起こして聞いてから、また気絶させました。」
「そういうことか。盗賊はこのまま連れて行く。隠れ家を捜索してから帰る。シンシア達はどうする。」
「街に帰るわ。」
「明日にでも、検問所に寄ってくれ。こいつらには懸賞金がかかっている。それに隠れ家に金目の物があったら、総額の半分が君達の物になる。」
「被害者には返さないのですか。」
「返して欲しいのなら、買い戻すしかない。」
「元の所有者がわかった分は、返して頂けませんか。僕達は請求を放棄しますので。」
「いいのか。わかった。極力その方向で処理してみる。」
憲兵達が去って行った。
「シンシアさん、これで良かったですか。」
「構わないわ。どっちにしても君達が捕まえたのだから。」
街に帰り、ギルドで薬草の買取りを済ませた。
「明日からは薬草採取大丈夫だと思います。」
「待ってるわね。」
レオンは武具店に戻った。
「弓はありますか。」
「ショートとロングがある。」
「ショートをお願いします。矢はどんなのがありますか。」
「鉄の矢じりの付いたのだけだ。」
店主が取り出して見せた。
矢羽根が無く、矢筈の近くに動物の骨片が挟んである。
「矢羽根がないようですが。」
「何の事だ。」
「矢の根本に、鳥の羽を挟むと、軌道が安定して、威力が増すんです。」
「どんな羽を使う。」
「鷲や鷹の羽がいいのですが。」
店主が奥から、羽を持ってきた。
「羽毛は防寒具に使うが、硬い羽は使い道がない。どう使う。」
矢筈から数センチの所に、縦に3本切り込みを入れ、そこに芯を残して半分に切った羽を一つずつ、挟んで、ハサミで切り揃えた。
外れないよう、周りを細糸で巻いた。
「なるほど、色々試してみよう。」
「何本いる。」
「30本、お願いします。それに、矢筒も。」
「明日の朝、来てくれ。作って置く。」
宿に帰る途中、馴染みのない食べ物の屋台を巡っていると、串焼きを見つけ、2人で頬張る。
「ハルト、この世界の食事はどうだ。」
「何とかなると思う。肉はまあまあ旨い。」
「野菜も食べろよ。」
「うん。」
翌朝、武具店に行き、槍と弓矢を受け取った。
「試し打ちしてみたが、君の言う通り、命中率と威力が増すようだ。俺の店で、売り出してもいいか。」
「構いません。」
「それなら、羽矢と矢筒の代金はただにしてやる。」
レオンは、得した気分で店を出た。それ以来、矢は羽矢が主流となり、この武具店は売り上げを伸ばすことになる。
「ハルト、ギルドに行こう。」
「腹が減った。」
「朝抜きだったな。屋台で何か食おう。」
具入りパンを手にしながら歩いていると、検問所の近くで憲兵に呼び止められた。
「レオンとハルトだな。昨日はご苦労だった。盗賊の懸賞金の金貨50枚はシンシアに渡しておく。後で確かめてくれ。
隠れ家にあった商品や貴金属は、持ち主が確定できた順に返還の手続きを進めている。現金だけは持ち主を特定することは不可能なので、50%は君達のものだ。ただし、無償返還する商品や貴金属の街の取り分を差し引くと金貨200枚程度になりそうだ。確定したら連絡する。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
「俺はディーンだ。憲兵隊長をやっている。これからも協力を頼む。」
シンシア達と薬草採取に行く。
「盗賊の懸賞金、5等分でいいかしら。」
「もちろんです。」
「じゃあ2人分、金貨10枚渡しておくわ。」
「ありがとう。」
「お礼を言うのはこちらよ。何もしないのに、金貨10枚なんて。」
「仲間だから、当然です。なあ、ハルト。」
「うん。」
街を出て、歩く。
「シンシアさん、魔力とはどういうものですか。」
「魔法を放つ力の素かしら。魔力のない人もいるけど、あっても、少なければ、威力のある魔法は使えないの。」
「魔力を強化する方法はないんですか。」
「やってるけど、なかなか増えない。」
「魔力はどこにあるんですか。」
「お腹の中に感じるの。」
「僕は、感じない。」
「レオン達の魔法は何か違う気がするの。魔力を知らずに使えたんだから、不思議よね。」
「普通は、魔力を意識できないと使えないんですね。」
「そのはずよ。」
森に入ると、緑の集いのメンバーは薬草採取を始めた。
レオンとハルトは周囲を警戒する。
2時間ほどかけて、薬草採取が終わり、帰途についた。
森の奥に、強い殺気を感じて、レオンは弓を取り出し、羽矢を弦に宛がって、構えた。
緑の集いのメンバーはそれを見て、レオンの背後に下がった。
巨大な蛇が現れた。