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2 異世界自活


頭から血を吹き出しながらも、狼が木刀に嚙みついている。

木刀が動かなくなる。

でも、離さない。離せば、終わりだと、第六感が告げている。

睨み合いになった。


木刀を噛んでいる狼の下顎を、思いっきり、蹴飛ばしてみた。

それでも、狼は木刀を噛んで、離さない。

暫く、そのまま、力比べが続いた。

森の中から、仲間だろうか。遠吠えが聞こえた。


狼は、木刀から口を離すと森の方へ走り去った。

巨木まで戻り、一息ついた。

辺りが、暗くなってきた。


レオンは、巨木を登り二股の所で、横になった。

ハルトは眠ったままだ。



目を覚ますと、空が白んでいる。

最初の夜を何とか切り抜けられた。


やはり武器が欲しい。木刀では心許ないと思い、思案する。

弓矢は、簡単には作れない。槍は、と思ったが、穂先となる金属がない。

いや、短刀がある。



レオンは巨木の枝で、2m位の棒を作った。

棒の先端に切り込みを入れ短刀の柄を挟み、枝に絡まっている蔦を縒り合わせて、ロープを作り、括り付けた。

間隔を詰めて巻き、さらに、2重に巻く。

槍と言うより日本の薙刀に近いのかもしれない。

ハルトの短刀も槍にした。




木の幹を突くと、幹が抉れた。

槍の短刀は緩んでいない。

蔦を寄り合わせて、木刀を背中に括り付けるためのロープも作った。

ハルトのために木の梯子もと考えたが、8mの梯子は長すぎる。

太い蔦のロープを作って、頭の上の太い枝に結んで、地上まで垂らした。

これなら、2人一緒に登れる。



降りて、木の二股から見えていた小川まで歩いた。

顔を洗った。飲むのは止めておこう。せめて煮沸したい。

学生服の上着とシャツを脱いで洗い、乾くまで待つ。



上着のポケットには、見覚えのない百円ライター数個とアーミーナイフがあった。

財布も内ポケットにあったが、コンビニもないので、そのまま戻す。



川の下流にココナッツの木を見つけた。

高くて登れないので、槍で切り倒した。

ココナッツの実を拾って、リュックに入れた。

2個、3個と入れる。まだ、入る、まだ、入ると詰め込んでいるうちに、結局20個入ってしまった。不思議なリュックだ。1個取り出してアーミーナイフで穴を開け、果汁を飲み干す。


川の周囲を調べてみることにした。10分程下流に歩いても、草原が続いている。

頭に角を持つうさぎが見え隠れする。刺されると大怪我になりそうだ。



さらに進んで行くと、牛、いや大きな2本の角を持つ、猛牛の群れがいた。

図鑑で見たバッファローの倍はある。

群れの1匹がこちらを窺がっている。

群れを避けて、進むと登りになり崖の上に立っていた。



下を見ると、頭に大きな枝分かれした角を持つ鹿だろうか、岩を舐めている。

何だろう。鹿が去った後、崖を降りて、鹿の舐めていた岩を調べた。

白い結晶で出来た岩だった。舐めると、しょっぱい。

岩塩だ。


槍で砕いて、リュックに詰め込んだ。

良かった。人間は塩なしでは生きられない。



食糧はどうしようかと考える。

猛牛は無理だ。小鳥は捕まえるのが難しい。

猪なら、まだ馴染みがある。


猪がいるのか。いても倒せるのか。

昨日の狼は木刀を真面に受けながら、倒れなかった。強い。

だが、生きるためには何とかしないと。



大木に戻ると、ハルトが起きていた。小川に連れて行く。

ココナッツの実の、上部を切り取って、渡してやると、飲み干し、中にあった白い中身を食べている。

朝食がわりにはなったようだ。



ハルトに聞いてみた。

「ポケットに百円ライターとアーミーナイフがあったが、ハルトのものか。」

「違う。見覚えがない。」

「そうか。何なんだろうな。同じものが二人のポケットに。」


「リュックの短刀は槍にしておいたが。」

「やるよ。どうせ使えない。」

「使う練習をしろ。この世界には獣が多い。生きて行けないぞ。」

「わかった。」

槍の使い方を教えるが、ショックの所為かやる気がでないようだ。



大木に戻り、ハルトを二股に上げると、

「食料を探してくる。ここを降りるな」と言い残して、森の中に入り、忍び足で進む。

大きな蜘蛛や蛇はいるが、食料になりそうな獣は見つからない。

引き返そうとした時、猿の群れが現れた。



群れの中に、親にしがみつく子ザルがいる。

昨日、狼に追われていたのを助けたのを思い出した。


親猿が、人差し指を森の中の薮を指している。

訝りながらも、その方向に近づく。

里芋に似た巨大な葉が生えている。

かき分けて覗くと、猪が土の中に頭を突っ込んで、お化けサイズの里芋に齧り付いている。



そっと、真横に回って、槍で猪の首を横ざまに切り裂いた。

猪がフフォーと悲鳴を上げ、首から血を噴き出しながら身動きしなくなった。

殺せたのか。切れ味が良すぎる。何の抵抗も感じなかった。



芋の葉を数枚重ねて、猪を転がして乗せ、ついでに大きな里芋も乗せて、葉の根元を束ねて引きずろうと考えたが、一人では手に余る。


リュックに入らないかと、リュックを掴んで猪に触れると消えた。

猪が消えた。周囲をキョロキョロするが見当たらない。その時中に入っているリストが頭に浮かんだ。

岩塩、ココナッツと猪とある。猪を選ぶと足元に現れた。



これは、異世界アニメに出てくるアイテムバッグならぬアイテムリュック。

これが魔法らしい。他にも使えるかもしれない。

芋の葉と里芋も取り込んで、小川に向かう。


リュックから猪を取り出し蔦を使って太い木の枝に吊るそうとしたが、重くて持ち上がらない。

小川の中に漬けて血抜きをすることにした。

小半時、待った。


狩猟が趣味だった父に連れられ、解体を何度も見る機会があった。

この世界の猪は巨大だが、見た目は同じだ。

猟師の捌きを真似てみることにした。

アーミーナイフを皮と身の間に入れて、皮を引っ張ると、皮が剥がれてゆく。


腹を捌き、内臓は、穴を掘って埋める。

血液で赤くなった手を洗いたいと思った時、掌から水が噴き出て来た。

もう驚かない、これは水魔法だ。

ナイフ、肉、手等を洗うと、芋の葉の上に猪を置き、骨を切り外した肉を適当な大きさに切り分ける。


解体が終わると、大量の生肉を芋の葉に包み、少し残して、リュックに入れる。

枯れ木と枯草を集め、焚火を起こす。

100円ライターはあったが、火魔法はどうかと試すと、人差し指から炎が伸びて、枯草が燃え上がった。魔法とは便利なものだ。


木の枝で串を作り、猪肉と里芋を刺し、岩塩を振って、火の周囲に立てた。

焼けてきたら、さらに火の上で炙って、生焼けがないように執拗に火を通す。

焼き終わると、葉に包んでリュックに取り込み、巨木に戻った。



土魔法はどうだろうかと、巨木の二股まで階段をイメージすると、土が盛り上がり、無骨には見えるが階段が出来た。

だがそのままでは、直ぐに崩れてしまいそうである。

堅くできないかと思った途端、固まった。

何でも出来るのではないか。

階段を昇ってみる。



ハルトは起きてはいたが、知らない世界への不安なのか、家族への恋しさなのか、泣き明かして、目元が腫れている。


レオンは、リュックから、串焼きを数本取り出して、ハルトに渡した。

「食うといい。」

空腹だったので、二人で串焼きに齧り付く。塩だけの味だが旨味は十分で熱々だった。不思議なリュックのお陰だ。


「レオン、すまない。食うものまで貰って。」

「気にするな。里芋も旨いぞ。」

「水を飲むか。」

「うん。」

「両手を広げろ。」


水を出してやると、一旦レオンの顔を見てから、飲みほした。

辺りが、暗くなり、疲れを感じて、横になり目を閉じた。

多少気温が下がった気がするが、寒いと感じるほどではない。



翌朝、2人は巨木を降りようとして、ハルトが階段に気づいた。

レオンの顔を見て驚いた顔をしている。

「作ってくれたのか。」

「試したら出来た。」



小川に行き、顔を洗う。

内臓を埋めた場所が掘り返されていた。

火を起こして、肉と里芋を焼き、朝食を済ませた後、ハルトに槍を持たせて、練習させた。


力がなくても、小枝が良く切れる。この槍は特別だ。

だが、ハルトの体力は未知数だ。全力を出す術を知らないようだ。

これからの事を考えると、魔法も使えた方がいい。



ハルトと魔法の練習をする。

火球を放ってみる。

「ハルト、出来るか。」


ハルトも放つ。

風刃を試す。

続けて水刃、土玉、火刃、風槍、火槍を試す。

威力はともかくハルトも出来る。


「大丈夫だな。肝心な時に使えるよう、練習を続けろよ。」

「うん。」




レオンとハルトは、持ち物をリュックに入れ、探索に出た。

体は狼だが、虎のような顔をした獣が猛牛を狙っている。

姿勢を低くして、群れに近づいている。見張り役の猛牛が気づき、群れが動き出した。

獣は、避ける間もなく、群れに踏みつぶされてゆく。


ハルトが、腰を抜かしている。

腕を掴んで逃げるように、森の方に急ぐ。


「ここは、獣が多すぎる。場所を移ろう。」

「レオン、あれは小道じゃないか。」

「行ってみるか。」



辿っていくと、大きな道が見えて来た。

「この道を行けば、人家があるかも。歩けるな。」

「大丈夫だ。」


1時間歩いたが、誰にも会わない。

「レオン、人間がいるのかな。」

「道があるのだから、いるんじゃないか。」



暫く行くと、森の中から、緊迫した人の叫び声が聞こえて来た。

「ハルト、行くぞ。」

声のした辺りに着き忍び足でそっと近づき木の陰から覗くと数人の人間が狼に囲まれている。

少女が、手先から何かを放っている。

狼を後退させるが、倒す威力はない。




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