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とある悪魔と意外にも幸せに満ちた日々を送っていたら、私を陥れた義妹たちへ神罰が下りました  作者: 万丸うさこ


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第23話 光(side:マーディン)

 「おじさんこのシナモンちょうだい」と、マーディンが香辛料屋の気難しそうな店主に声をかけた時、北の大地で王城を向いて座っていた宝石龍の口から白い光線が放たれた。


 光は真っすぐ王城へと伸びていく。

 そして次の瞬間、龍の口と王城を結ぶ一直線の光の中にあった建物が消えた。


 破壊されたわけではない。宝石龍の放った魔法の光が、光線の範囲内の建造物と人工物を消しただけだ。

 人を傷つけるためのものではないから、建物の中にいた人々には傷ひとつないだろう。


 建物の二階にいた人々も呆然としてはいるが、地に足をつけていて怪我はない。死人も出ていない。

 だけど光線の範囲内にあったありとあらゆる建造物の中から、文字通り身ひとつで放り出されていた。


 マーディンがシナモンを買おうとしていた香辛料屋も、商品であるスパイスごと全部消えている。

 目玉が飛び出しそうな顔であんぐりと口を開けたまま動かない店主の背後で、店があった場所には店主の妻らしき女性が立ち尽くしているのが見えた。


 もちろん光線の終着点である王城も消えている。

 王城を囲んでいた壁も、使用人のための建物も消えた。


 ここからでは距離があって常人には城が消えただけのように見えるが、人ならざるマーディンの目には、王城にいた人間たちが突然雪の積もった地面の上に放り出されて右往左往しているのが見えた。

 使用人から国王まで、例外はない。


 もちろん宝石龍の愛し子と呼ばれている成りすましも呆然と立ち尽くしている。ドレスの裾が雪混じりの泥で汚れていた。

 だがその中に王太子の姿がない。


 と、いうことは……。と、マーディンは目線を少し上げた。


 宝石龍の白い光線の中にあったというのに、視線の先には北の塔がそびえ立っている。

 そこにはフランカがいるのだから当然だ。フランカの住処を奪うようなことをするはずがない。


 その北の塔は限られた人間しか立ち入れないようになっているのだと、フランカが言っていた。

 だからつまり北の塔にいるのは王太子で、マーディンの大切なフランカを傷つけたということか。


 違っていてもべつにかまわない。

 マーディンはこの国の人間が大嫌いだ。王城に住むやつらは特に。


 だってフランカをずっと虐げてきたやつらしかそこに住んでいないから。


 今もまた、フランカを傷つけた。


 マーディンの額の角が脈打つように伸び、背中の羽が激しく震え、抑えきれなくなって大きく広がった。

 突然異形の姿へ変身を遂げたマーディンに腰を抜かした香辛料屋の店主へ、持っていたシナモンの瓶を返す。震えて受け取らない店主の正面に屈んで、その手を取って瓶を渡した。


 「フランカがまだアップルパイを食べたいって言ったら、また買いに来るから」


 理解できないながらもガクガクと首を縦に振る店主を横目に、マーディンはしんと静まり返った空気の中で、宝石龍へと視線を動かした。


 マーディンは愛し子の幸福度と連動して鉱石を産む宝石龍のシステムを、別のものに書き換えていた。

 フランカが傷ついたり悲しんだりしたら、その度合いに応じて攻撃するようプログラムを変えておいたのだ。


 宝石龍の放った白い光は、光の範囲内の建物と、建物の中にあった家具や食料などの生活用品の存在をなかったことにした。

 フランカから居場所を奪ったように、同じように居場所を奪ったのだ。


 初めてフランカと会った時のように、もしも彼女が自殺したくなるほどつらい目にあっていたとしたら、文字通り、今頃この世界は終わっていただろう。


 フランカは勘違いしていたようだが、ドッカンの発動権は宝石龍ではなくマーディンにある。

 そしてマーディンはフランカのためならこんな世界、滅ぼしてもかまわない。


 次にフランカの心身のどちらか一方でもこの世界の人間が傷つけたら、マーディンは容赦しないと決めていた。

 フランカが止めたとしても、それ相応の報いを受けてもらう。


 近くで子供が泣く声がした。

 女の子が泣きながらマーディンを指さしているのに気づく。


 「悪魔……!」と、その母親がマーディンの視線から子供を隠すように覆いかぶさった。


 その様子に、マーディンはああ、そういえばと自分の姿を思い出す。

 角といい羽といい、確かに姿かたちはこの世界の宗教に登場する悪魔に似ているかもしれない。


 フランカが畏れないように、神気を隠してたんだっけ。


 神気を隠すと見かけは悪魔そっくりだから、最初はフランカも怖がっていた。

 だけど最初からマーディンが自分の故郷にいた時のように気配を隠さずにいたら、真面目なフランカのことだから、きっと畏れ敬ってしまったに違いない。


 友達にはなれなかっただろう。

 それ以上になりたい欲が出てきたマーディンには、フランカのよそよそしい態度を想像しただけで鬱になる。


 マーディンが気配を隠すのをやめると、辺りに神気が満ちた。

 龍神の気、神の気だ。


 普通の生き物たちはその気配を感じただけですぐにひざまずいて拝みだすから困る。

 ちょうど、目の前で這いつくばって頭を下げる香辛料屋の店主のように。


 フランカにこんな態度とられたら泣くな……なんて思いながら、マーディンは怒りに広がった羽をたたみ、己の影の中へ飛び込んだ。

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― 新着の感想 ―
 ううううわぁ〜!!! 素敵素敵素敵素敵素敵素敵素敵!  確かに、角や羽等の姿形要素は、悪魔も龍も一緒… きゃ〜! 愉しいです!! 作者様、思いもよらなかった素敵な設定に、クルッと小躍りしてしまいまし…
完全に役に立ってなかった龍初めてのお仕事
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