表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/32

第1話 違う

 人払いをしたバルコニーに一人で立たされ、フランカは呆然とした。


 神の祝福である〝宝石龍〟の顕現によってこの国の未来の明るさを確信した貴族たちが、ダンスホールから興味津々でこちらの様子をうかがっている。


 フランカの正面では、〝宝石龍の愛し子〟である義妹のペトロネラとラウレンス王太子殿下が蔑むようにこちらを見ていた。

 フランカの両腕を捕らえる騎士たちの目も冷たい。


 なぜならフランカは、宝石龍の愛し子は自分だと吹聴し、周囲に特別扱いを求めたうえ、本物の愛し子であるペトロネラを虐待していた悪女だから。


 騎士やラウレンス殿下はそう信じている。


 声を枯らして違うと言った。冷たい床にひざまずき信じてくださいと頭を下げた。

 誰も信じてはくれなかった。

 血の繋がった両親でさえ。


 キラキラと輝くオレンジ色の瞳を潤ませたペトロネラが、「どんなにひどいことをされても、ペトロネラには大切なお姉さまなんです!」とラウレンス殿下にしがみついた。


 「ああ……わかったよペトロネラ。処刑は父上に言って撤回してもらおう。我が婚約者は本当に優しいのだな」


 ラウレンス殿下はペトロネラを抱き寄せてそのつむじにキスをすると、フランカの方を見もせずに周囲にいた騎士たちに命じた。


 「フランカ・クラーセンを北の塔に連れていけ。ペトロネラを手本に愛について理解できる日がくるまで決して外に出すな」


 フランカは「待ってください」と叫ぼうとして、騎士にその口を塞がれ羽交い絞めにされた。


 私は悪女ではない。

 虐待の事実などない。


 そうだ、ないのだ。何も。

 フランカには生まれてからずっと、ほとんど何もなかった。


 両親の愛も、周囲の期待も、フランカの話を聞いてくれる人も。何もなかった。


 あったのは、いずれ顕現するであろう宝石龍への期待と、それをもたらす要となる宝石龍の愛し子への配慮だ。

 そしてその配慮すら、ペトロネラと違ってフランカにはほとんど与えられていなかったではないか。


 二人の愛し子候補のうち、王家をはじめ国中の人間がペトロネラを本命だと思っていた。フランカはキープされていただけだった。


 去っていくペトロネラとラウレンスの後ろ姿を見ながら、フランカは唇を震わせ、声なき悲鳴をあげた。


 疑惑の目が自分に向けられるたびに、「違う」と否定してきた。

 誰も信じてくれなかった。

 みんなが信じるのはペトロネラのほうだった。


 ああ。だからフランカは、今、絶望とともにただただ、さみしかった。


 ただの一人も自分を愛してはくれないこと。言動の全てを信じてもらえないことが、ただただ、さみしかった。


 真っ黒なフランカの瞳からぽつ……ぽつ……と大理石の床に涙が落ちる。


 それと呼応するように、遠くで黄金の宝石龍が、ぽつ……ぽつ……と寂しげに瞬いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ