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裁き人  作者: はとたろ
第一章 制裁
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第一章 制裁

銀座のスナックのオーナーで黒髪の美女・紫苑…彼女は世に蔓延る不条理な悪を掃除する闇の裁き人だった


最初に裁かれるべき者とは…



深夜2時 漆黒の闇が見守る静寂のなか 満月に照らされ長身の男がひとり某公園にはられたカラストラップに近づく


細長い指先でいともたやすくトラップを壊し捉えられたカラス達を放鳥した


「もう捕まるなよ」

バサバサバサ…

カラス達は夢なら覚めないでほしいといわんばかりに漆黒の羽根を闇のヴェールに覆われながら焦ったように飛び去って行った


「おっと…」


壊したトラップ内にふと目を向けると飛ぶ気力を失いグッタリした子ガラスがうずくまっていた


男は怯えさせぬよう子ガラスに近づくとそっとタオルでくるみながら懐に入れてやり優しく微笑んでその場を後にした


翌日

銀座八丁目のスナック「juge」のカウンター席で30代後半の中肉中背の男がブツブツ文句を言いながらハイボールを飲み干している


「ずいぶん荒れているのね」


その声を待ってましたとばかりに男は顔を上げ声をかけてきたこの店のオーナー兼ママの紫苑に甘えるように愚痴りだす


「聞いてよママ 荒れたくもなるよぉ! これで20件目だぜ! カラストラップが壊されたの…苦労して設置したのに」


「天罰…じゃない?」


毒づく男を軽蔑するように紫苑は頬杖をつき冷ややかな視線を投げかけクスリと笑う

卵型の整った顔立ち、青白い陶器のような肌に猫のようにギラリと光る眼差しは宝石のキャッツアイのように妖しく揺らめきなんとも妖艶なムードがある

見つめられると心の奥まで見透かされているような蛇に睨まれた蛙のように身動きできなくなるような抗えない不思議な魅力の持ち主だった

腰まで届くオニキスのような艶やかな黒髪を華奢な指で弄びながら言葉を放つ


「街の掃除やと云われるカラスを殺そうなんて自然への冒涜ね」


「おいおい、カラスはゴミを荒らす害鳥だぜ、真っ黒な姿を見るだけで不吉じゃないか。またトラップを設置しねぇとなぁ」


「国民の税金でね…悪趣味の極みだこと」


まだ話したりない様子の男を背に紫苑はカウンターに空のグラスを置くとホールへ出て行く


「ママ、遅れてすみません」


面長で蛇のような鋭い眼光の男がカウンターに入ってくる


「遅い…遅刻は厳禁よ、ノア…」


紫苑にきつい眼差しを向けられるとノアは片目にかかる前髪をうるさそうにかきあげながら応えた


「すみません、ちょっと寝不足で」


けだるそうに棚に置いてある顧客のボトルを整理している


「今夜は早めにあがるわ、喉が痛いの」


「風邪ですか?あとはやりますからあがってください。あ、お送りします」


ノアは心配そうに紫苑を見つめ


「クロウ、ちょっと頼む」


チーフ見習いのバーテンダーのクロウに声がけし紫苑をエスコートして店外へ出るとエレベーターのボタンを押した


エレベーターに乗り込むと紫苑はニコリと微笑みノアの背中を優しく撫ぜる


「大変だったわね…ご苦労様でした。早く帰ってあげないと…不安がっていたから」


「治療はしました、検査の結果、異常はありませんが酷く衰弱して怯えていたからな」


「あんな事をされて…怯えない者がいるかしらね」


怒りに耐えかねるように紫苑はぷっくりと艶やかな自分の唇をキリリと噛んだ


「いけません…血が…」


ノアの舌先が紫苑の唇に優しく触れる

心持ち眉をしかめながら紫苑は優しく彼を制した


「ストップ…消毒不要」


紫苑は悪戯っぽく微笑むとタクシーに乗り込み片手を振りながら夜の静寂へと消えていった


世田谷の閑静な住宅街にひっそりと佇む洋館の門を開けると紫苑は靴を脱ぎ部屋に入った


「おかえりなさい…」


消え入りそうな声でホッとしたような表情の少年が出迎える


「具合は?」


「平気だよ、ちょっとお腹空いてるけど…」


机には食べ散らかした木の実が散らばっている


「遅くなってごめんなさいね。たこ焼き、食べる?」


「うん」


少年は駆け寄ると首を傾げて不思議そうにたこ焼きを見つめている


「はいっ、あ~ん…」


楊枝で刺したたこ焼きを少年の口元に紫苑が運ぶと素直に口を開けパクリ


「ハフ、ハフ…熱い!!」


「ふふ…慌てるからよ」


慌ててミネラルウォーターをゴクゴクと飲み干す姿は15か16歳くらいのあどけなさが残る


「ねぇ…ぼくは…これから何したら…いいの」


空腹が満たされると少年は少し怯えた瞳で不安そうに紫苑を見つめる


「安心して、いきなり追い出したりしないわよ」


少年のサラサラの黒髪を撫でながら紫苑はこれから彼がどうするべきかについてゆっくりと話しだした


「まずは…名前を決めないとね。そうだなぁ…沙羅(さら)サラサラして綺麗な黒髪だから沙羅がいいわ」


「さら?」少年は瞳をまぁるくするとコクリと頷く


「わかった、ぼくは沙羅。名前つけてくれてありがとう」


「体調が戻ったらいろいろ教えなくちゃね。疲れたでしょう沙羅、もう寝なさい」


「ひとりじゃ怖いんだ…同じお部屋で寝てもいい?」


顔色を伺う子供のように怯えている沙羅を抱きしめながら紫苑は頷き


「いいわよ、でもその前に…お腹空いたからたこ焼きとお茶漬け、食べさせてね」


悪戯っぽくウインクして紫苑は熱々のたこ焼きをほおばった


一ヶ月後…パソコンのキィを打ちながら紫苑の帰りを待ちわびている沙羅がタクシーの止まる音に気付き階段を駆け下りながら玄関へ飛んでくる


「おかえりなさい!!」


無邪気に微笑む沙羅の頭を撫でながら紫苑は先ほどまで男たちに加えていた制裁を思い出していた


三時間前…

ある部屋の大きな折に全国にカラストラップをしかけた男たちが束で縄に縛られ吊るされながら泣き叫んでいた


「こ、ここから出してくれぇぇ!!! お、お願いだっ、助けてくれっ」


命越えをする男たちにニヤニヤしながらノアは口を開く


「数分後、ここは毒ガスで充満するからな 今のうちに息しとけよ」


「や、やめてくれっ!死にたくないっ、助けてくれぇぇ!!」


その声と同時にドアが開き全身黒づくめの服に身を包んだ紫苑が腕を組みながら残酷な微笑みをたたえて佇んている


「あの子たちも助けて助けてって泣き叫んだのよ、貴方たちは耳を貸してあげたのかしら?」


「あ、あんたは!!!マ、ママ!!ゆ、許してくれ、俺が悪かった、もう二度とあんな仕事しないから!!」


「税金使って殺生なんて…悪趣味の極みよね…」


ピジョンブラッドのような真っ赤な瞳を光らせ紫苑は指をパチリと鳴らすと折の中をモクモクと煙が囲みだし男たちは忽ち息が出来なくなってくる


「く、苦しいっっ」


「カラスは古来より導きの神様と云われて陽のパワーを持つ神聖な存在なのよ。貴方たち、頭が悪すぎて理解できないようだけど…」


紫苑の言葉を聞き終えないうちに男たちは全員失神し、数時間後…深夜の公園に放り出されていた


「うう…頭がいてぇ…」


「俺たち、何でこんなとこにいるんだ…ああっ、い、行かなきゃ」


「お、俺も早く行かないと!!」


男たちは誰もが焦ったように散り散りになり自分たちが仕掛けた全国のカラストラップを破壊するため現場に向かうと捉えられたカラス達を一羽残らずすべて逃がした

何でそんな事をしたのか自分たちでもわからないまま数日後…すべてのトラップが取り払われた


「完了です。紫苑様」


ノアの報告を受けた紫苑は部屋でため息をつく


「生ゴミはすぐにわいてくるからまた掃除しないとね」


しなやかな両腕をあげ伸びをすると


「さて…と、ねぇノア、お腹空いたからピザとって~」


ノアは吹き出すのを堪え


「かしこまりました。ダブルチーズマルゲリータですね」


すると、ノアの言葉に間髪入れず


「Lサイズ3枚ね」


沙羅がウインクしながら熱いダージリンを運んでくる


「フルーツピザもとっていい? ダブルチーズで」


「体調が戻ったとたん 食欲旺盛ね」


「育ち盛りだもん」


笑いながらピザのメニューを眺める三人を月が優しく照らしていた





物心ついた時から伝説や伝承の好きな耽美主義者で言葉と戯れ文を書くことが好きでした。

ポエムは趣味で綴っていますが小説を書くのが夢でしたがなかなか勇気がなく今回、どうしても描きたいテーマがあり小説にさせていただきました。

拙い作品を読んで下さった方に心よりお礼を申し上げます

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