かさぶた
あの夜は酷く疲れていた。たくさん歩いたのはもちろんだけれど、連日先生に会っていた私は心も体も疲れ切っていた。言うまでもなく先生と過ごすことはとても心地よく、とてもありがたい時間に感じていたけれど、私にも現実世界が存在するのだ。どんなにここはパラレルワールドだからと先生が言おうが、そこはまぎれもなく私の生活する現実なのだ。
深夜自宅に帰りシャワーを浴びた時、鋭い痛みを両足に感じた。先生と街を歩いていた頃から薄々感じてはいたが、酷い靴擦れだった。慣れないヒールを履いたせいか、それは両足かかとの真ん中に大きく存在していた。しばらくすると痛みに慣れ、じんわりと痺れのような緩い痛みだけが残った。
両かかとにできた靴擦れを手当し、次の日も先生に会うためバスの時刻を確認する。先生と過ごす最終日だった。
前日とは違いその日はスーツ姿の先生がいた。私を見つけて微笑みながら近づいてくる先生に吸い寄せられるように隣を歩いた。どこにも行かなくて良かったし、同じ空間に存在していられたらそれで良かった。
先生の飛行機の時間が迫っていた。時間を見ないようにして先生と私は話し込んだ。私は先生の一言一言に喜び、恥ずかしがり、傷付いていた。その感情の全てが心臓に傷を作っていくようだった。
両かかとの靴擦れの傷はいづれかさぶたになるのだろう。そしてきっと、近いうち、そこに傷なんか無かったように忘れてしまう。それでいいような気もするし、ずっと傷付いたままでいたい気もした。