第79話 ペテ公
8月12日
瓦屋根が並ぶ家の間に挟まれた小さな宿泊施設【ゴザッテ旅館】
丁度一人の従業員が二階の六畳一間を掃除している部屋からは海が一望
一階は慌ただしく 今日泊まりにやって来るお客様の夕ご飯の準備をしていた
「おい!! こっち手伝ってくれ!!」
「はいただいま!!」
慌ただしい理由はここが離島であることも忘れてはいけない
たまにしか来ない客 若しくは帰省して来たが住む場所はもう無い人達がここに集まってくるのだ
「皆手を離せねぇんでお遣い行ってくれやペテ公!!」
「分かりました いつもの市場ですね?」
「あぁこの時間帯なら安く買える 頼んだぞ!!」
従業員は籠を持ち 外に出れば潮風が吹き始める
今は静かなこの町も夕方頃には忙しくなるだろう
ここは【飛翔島】
漁業が盛んな有人島 海の向こうは水平線が掛かってるが
船ですぐ行けば甲斐枝倉庫があった本土が見えて来る
人口は146 周囲10.2キロメートルで大地状の地形が特徴的だ
大昔 本土の山の頂きが噴火した際に海に飛んで島になった伝説があったりする
「オバちゃん! トビウオあるかい?」
「あるよぉ!! ……ペテ公が来てもう一ヶ月以上かい? 早いもんだねぇ~~」
「えぇ…… 迎え入れてくれた島民の皆さんには感謝してます」
「良いのよぉ~~ もうほとんど爺婆しかいないから年甲斐も無くウキウキしてるのよ!!
……記憶はまだ戻らないんですって?」
「まぁ…… そうですねぇ」
「医者も常駐してるわけじゃないからねぇ 困ったことがあったらいつでも言ってねぇ?」
「ありがとうございます」
「そうだ〝ゴドイモ〟もあるから持って行きなさいよぉ~~」
店の奥に姿を消すオバちゃんは袋一杯に入ったジャガイモを持って来る
「家に余って余ってしょうがなくてねぇ~~」
「これはこれはどうもですぅ~~ 大将も喜ぶと思います」
「美祢葉ちゃんにもよろしくねぇ~~」
陽が沈もうとすれば 遠くから一隻の連絡船が見えた
船着き場を覗けば 観光目的や帰省目的でやって来る老夫婦や家族の団体様が
「いけねっ!! 早く戻らないと!!」
ペテ公は急いで旅館の裏口へ
食材を渡された大将はさっそく調理に取り掛かる
「稀に見る三組のお客さんが流れ込んで来やがるんだぁ…… お前も手伝えペテ!!」
「うっす!!」
食材は全て島周辺で取れる幸ばかり
トビウオの出汁で作る汁物やイカやアワビの塩辛など
つや姫を炊いた白飯 そして刺身や天ぷらや茶碗蒸しが全体を彩る
厨房の外より軽トラが停車した
「酒屋が到着したな…… ペテ公出てくれ!!」
「はいはい!!」
手を洗って裏口を開けると
鉢巻をしているお爺ちゃんが黄色いビール瓶ケースを持って来る
「お疲れ様です」
「あいよぉ!! こっちの入れ物はウーロン茶と飛翔サイダーね」
車窓から手を振って酒屋さんは行ってしまった
飛翔サイダーは 炭酸水に厳選された特産の塩で甘さを引き立てている
色がブルーなのが良いインパクトを与えてくれているのだとか
「ペテちゃん!! そっち終わったらこっちもお願い!!」
休み無く仕事が来ることにペテ公は充実を覚えてた
ここの旅館の家族はたったの二人
厨房を支配する大将と接客担当の娘さん
澤良権太さんと澤良美祢葉さん親子だ
美祢葉はこの島では最年少になる
「そろそろお客さんが来るから 二組が重なった場合は接客お願いね」
「分かった」
さっそく玄関が引かれて 家族の団体がやって来る
「ようこそゴザッテ旅館へ お部屋へご案内します!」
「パパ…… もう帰ろうよぉ~~」
「来たばっかりじゃないか さぁ今日は飯食って風呂入って休もう」
そしてその背後からは自分と歳が変わらない旅行者が現れる
次にペテ公が出迎えた
「ようこそゴザッテ旅館へ!! お部屋へ案内します」
「…………」
旅行客は無口だったが別にペテ公は気にしなかった
その後ろからは新たな宿泊者が迫っていたので悠長にしてられない
入れ替えで美祢葉が駆け付けて応対してる
部屋は二階にて 廊下を挟んで二部屋ずつ
決められた部屋に案内するペテ公に旅行者は
「悪くない部屋だな…… ここは禁煙か?」
「はい! 吸う場合は申し訳ありませんが厨房裏の外でお願いします 灰皿設置してますので」
「…………」
「では夕食の時間に一階の食堂へいらして下さい」
襖を閉めるペテ公に旅行客は深い溜息を吐いていた
一階に戻るともう一組の御一行が到着していて待たされてる
てんやわんやになってしまったが どうにか宿泊者全員を部屋に案内完了
それでも休めず今度は美祢葉と共同で 食堂のテーブルにご飯を並べる仕事へと移行した
「体力ありますねペテ公ちゃん……!!」
「任せて下さい!!」
階段を降りる音が聞こえ 最初は親子 次に老夫婦二組 最後にお一人様の旅行客が席に着き
ここの旅館が代々継承してきた挨拶を美祢葉の口からして貰うことに
「この度は当旅館に足を運んで頂き 誠にありがとうございます
日を増す毎に島の人口が減っていく飛翔島が 真っ暗にならないのはお客様のご来訪があってこそです
今夜は島の幸を堪能し 心ゆくまで身体を休めて行って下さい
私事の挨拶に耳を傾けて下さり ありがとうございました」
深々とお辞儀を済ませば お客さん達はそれぞれ箸で椀を打つ音を奏で始める
大将はデザート作りに戻り ペテ公と美祢葉は飲み物を注ぎながら客の話相手に参加する
「美祢葉ちゃんはもう成人したの?」
「えぇもう21です」
「本土に行かずに旅館を守って偉いわねぇ~~」
「さすがに一人では切り盛り出来ませんからねぇ 誰かは残らないと」
馴染みの老夫婦と談笑している美祢葉
事前に彼女からこの一組に阻まれると聞いていたペテ公が 周囲を注いで回っていた




